世界探し。

ゆーし

希望?

「僕と旅しない?」


明日から大型連休でごった返す駅前の道で声をかけられた。コンビニで買ったビニール傘にびしょ濡れの青年を呼び込んだ。


「えーと、君、家出?あ、それともナンパ?」


首を横に振る青年から水滴が飛び散る。少しの間が長く感じるほど彼からはただならぬ何かを感じることだけは分かった。


「お姉さん、社会に飽きた顔してた。僕も同じ。

ルールに縛られて、やりたいことができない、なりたい自分になれない社会の波に流されるのはもううんざりなんだ。ねえ、お姉さん僕と旅しない?」


真っ直ぐな瞳の奥に引き込まれそうになった。無意識かそれとも自分も知らない本心かは分からないが私は、首を縦に振った。


「お姉さん、寒い。暖房つけて。お風呂沸かしていい?」


ひとまず、私の家に連れて帰ったが、信じられないほど馴れ馴れしい。え、あなた私の彼氏ですか?ってくらいには馴れ馴れしい。とは思いつつ、暖房を26℃に設定してお風呂を沸かした。


「んで、君は誰なの?どこから来たの?何歳?名前は?」


疑問がありすぎて早口になる。


「九条綾人、21歳。お姉さんは?」


ちょっと待って、てっきり高校生くらいかと思ってた。見えない、21には見えない。


「い、五十嵐舞衣!22歳!九条くん、21!?あなたが若く見えるの?私が老けて見えるの?どっち?」


また、早口になってた。


「舞衣さん老けて見えないよ全然。あと、苗字嫌いだから九条くん呼びなしで。」


「あ、うん、わかった、ごめん。お風呂湧いたよ風邪ひく前に入ってきな。」


1人になってふと我に返る。旅って何?gwだから旅行ーって感じてもないし、まずどういう状況?僕と旅しない?ってなに。モヤモヤする気持ちを発散するかのように水色のクッションを顔に押し付ける。


「舞衣さんあがったよ。」


雨で髪が濡れて分からなかったけど綺麗な目、シュッとした輪郭、やっぱり何か引き込まれそうになる瞳。いわゆるイケメンであることは間違いない。


「ねえ、そーいえばさ、旅ってなんなの?」


「んー、日本というか世界中を見てみたい。世界の広さを知りたい。自分探し、世界探しの旅?って感じ。明日から行くよ。いつ帰るとかはないよ。」


「待って、仕事はどうするのよ。」


「僕、仕事ないよ。舞衣さんなんの仕事してるの?」


「市役所で働いてる。」


「辞めなきゃだね。」


綺麗な目をクシャッとさせて子供がイタズラするみたいに笑いかけてくる。


「え!?嘘でしょ!無理無理無理!」


「舞衣さん、仕事で色々あったんでしょ?だから僕と同じ目してた。」


キョトンとした顔で問いかけてくる。


「そんなこと言ったってお金とかはどうすんのよ!」


「そこは心配しなくていいよ。僕、お金だけはあるから。」


正直、綾人くんの言う通り仕事なんて今すぐやめてしまいたい。色々あった、ありすぎた。誰にもいえずにいたのに見つけてくれた。だからあの時も首を縦に降ってしまったんだと思う。そして今は意識的に──。


「舞衣さん起きろー。」


綾人くんに起こされた。家族以外の男の人に起こされるのは人生で初めてかもしれない。昨日の夜は私がベッド、綾人くんがソファで寝た。もちろん男女2人の夜にありがちなことは起こらず、2人ともすぐ寝た。


「舞衣さん、もう50回くらい起こしてたんだけど。

あるもので朝飯作ったから食べちゃって。」


「え、ありがとう。私より女子力高いのやめてよ。」


「今日一日で準備して明日出発ね。」


昨日の夜、なんやかんやで話が進んだ。お互いに秘密だらけの歪な関係。いつまで続くかも分からない。不安は沢山あるけど、なんだか楽しんでる自分がいる。


新調した綾人くんのキャリーケースと年季の入った私のキャリーケースを部屋の隅に並べてその日はベッドとソファを交換して眠った。


「綾人くん、まずどこから行くの?予定とかあるの?」


寝癖でボサボサの髪をとかしながら聞いてみたが答えはだいたい予想が着く。


「ん?何も決めてないけど。まず日本一周したいよね。今福岡だから、まず九州からかな。」


「あ!じゃぁ!行きたいところある!」


乗り気な自分を隠すのはもうこの際なんの意味もないことに気づいて、素の自分でいることにした。
















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