第164話 狐森コンのどきどきホラゲー配信 with茶葉①

「こんこん~。狐森こんだよ~」


 と、なんとか取り繕って言葉を発する彼女であるが、リアルな表情はまだどこか不服と言った感じである。コメント欄も彼女がいつもより元気がないことに気がついているみたいであるが、ホラーゲームをやるからだと結論づけているらしい。実際はどうなのだろうか。今すぐにでも聞いてみたい気持ちではあるが、ここはおとなしく黙っておくことにする。


「はい。SunLive.1期生の茶葉です。今日はどうぞよろしく」

「ということで、今日はSunLive.から茶葉さんにご来賓賜りましたコンよ~」

「こんこん~」


 彼女の語尾。コンである。デビュー当初はもっとしっかりとつけていたらしいのだが、最近は意識しないと出てこないようで、時折語尾を忘れてはリスナーに指摘されるという流れが存在している。語尾つけないで良かった。どうせいつか忘れるんだから初めからつけないのが得策だよ。

 うちの事務所でも誰か語尾付きの人デビューしないかな~。


「……さて、コンはいま大変怒っています。……コン」

「そうコンだね。こんこん」

「鬱陶しいコンね! あのね、コンはさっきドッキリにかけられたんだよ!」


 その発言によりドンドンと早くなるコメント欄。彼女は個人勢の中でもトップクラスの人気を誇っていると言うこともあり、普段から同接人数は多い。しかし、今日は私とのコラボと言うことや普段はめったにやらないホラーゲーム配信と言うこともあって同接が跳ね上がっている。

 ドッキリにかけられたという面白そうなネタの投下により、私でも驚くほどにコメントの流れははやい。ここ最近私が出た配信でトップクラスの早さだ。

 さすが。人の不幸は蜜の味ってね。


「今日、スタジオに来たときにね、スタジオの前の椅子に中学生くらいの女の子が座ってたコンよ。だからマネージャーさんのお子さんかなって思っていろいろ話してたんだけど……」

「私だったってわけ」

「そうなの!」




コメント

:……社会人を中学生と見間違えるとは

:中身中学生なの?

:茶葉ちゃん本当に見た目幼いんだな

:さすが合法ロリ

:コラボ相手の年齢間違えるとはwww

:さすがポンコツ

:こんこん……、狐なんだからにおいで分かりなさい



「匂いで判別とか不可能だわ! あのね、これに関してはポンコツ関係ないコンよ」

「ちなみに、そのときの音声撮ってます」

「え?!」


 あのドッキリのあと、まあ軽く打ち合わせをしたわけなんだけど、実はここまで私があそこで録音をしていたと言うことは告げていなかったんだよね。

 私のマネージャーは香織と言うことになっている(そろそろちゃんとしたマネージャーが欲しい……)から、代わりに別のマネージャーさんに頼んで配信用のパソコンに今日の音声データーを移して貰っている。

 見事に隠し通した私、凄い!


 今回のドッキリに関しては彼女の見間違いから始まったと言うこともあって前から準備しておくとかが不可能なわけで、だからこそ、こんちゃんはどういうこと? と言いたげな表情で固まっている。その耳は若干赤くなっているため、困惑と恥ずかしさにさいなまれているのだろう。

 可愛いね。


「リスナーのみんな、聞きたいかナ?」


 聞きたい聞きたい! という大合唱が直接私達の耳に聞こえてきそうなほどにコメント欄は“聞きたい”と言う文言で埋め尽くされる。それを見たコンちゃん、もう恥ずかしさのあまり一声。


「勘弁してよ~!!」

「では、流します」


 問答無用。私達はエンターテイナーなのだから。







コメント

:ちゃっかりサイン貰ってて草



「うぅ……、もう狐の嫁入りできない……」

「さらば、日本の風物詩」


 いつもの活発な感じとは打って変わり、しゅんと萎れていて非常にかわいそうである。

 手で顔を覆いたいみたいで胸の前あたりで手を合わせているが、キャプチャーの都合上なんとか思いとどまっている。VTuberとしての理性はまだ働いているらしい。


「さて、じゃあ先ほどの会話内容のほう、掘り下げていきますが」

「掘り下げなくて良いです」

「掘り下げます。えっと、こんちゃんって、汚部屋……?」


 この世界が漫画の世界であるならば、彼女のすぐ横には“ギクッ”というような文字が書かれていたことであろう。それほどにいきなりの硬直を見せるこんちゃんである。


「い、いや~……、コンは夜行性だからな~、ゴミ出し大変なんだコンよ~」

「や~い、汚部屋~」

「(怒)」


 活発で、かわいらしい彼女の部屋が実は汚部屋。これこそギャップというものであり、萌えではなかろうか。それに、部屋というものは汚してなんぼである。それこそがプライベート空間というものであり、自分にとって必要なものの場所が把握出来ていればそれでいいのだ。


「あのね、言っておきますけどね! 別にコンの部屋は汚部屋なわけではないコンよ。ただ、ゴミ出しが遅れているだけ!」

「それを世間では汚部屋と申すのですが……」

「しらんね。コンは世間とは隔離されているのだ」


 自信満々に言い切る彼女であるが、その発言が比較的みっともない発言であると言うことに気がついた様子はない。こういったことが彼女を人気にした要因なのかもしれない。


 なんやかんやで既に配信開始から20分も経っているし、いい加減ホラゲーに映らなければならない。

 さてはこんちゃんこうして話を逸らして今日は雑談配信で終わろうとしているのではなかろうか。私という他人の不幸は蜜の味人間からすると、そのようにのらりくらりと不幸を躱されていては栄養素不足により萎れてしまう。


「さて、そろそろホラゲー行きますか?」

「……あ、そっか。今日ホラゲー配信コンか」


 あ、忘れてたんすね……。


 ホラゲー配信であると気がついた彼女の顔はみるみる真っ青になっていき、ゆっくりとこちらに向けた顔のぱっちりとしたおめめには、うっすらと涙。


「……わたし、もう相当不幸だと思うんです」

「そうですね」

「あ、コン」

「……」


 雰囲気ブレイク。


「……さらに、コンを不幸にするコンか……?」

「はい!」

「あああぁぁぁ……、コンは呼んだ人を間違えたかもしれない」 

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