第160話 一週間後

「ねぇ、本当にプロポーズじゃないから」

「リスナーのみんな、私、お嫁に行くことになりました」

「むっ!」


コメント

:お幸せに

:あれはもうプロポーズだろ

:【大瀬音律】先輩方、ご結婚おめでとうございます🎉

:なんだよ、彼女持ちかよ

:先を越された……

:おめでとう

:【鬼灯朱里】本当におめでとう。ずっと応援してる☆彡


「その星のやつだる」

「ごめんなさいね、もううちの茶葉ちゃんったら照れちゃって照れちゃって」

「だから! 違うって言ってんだろ!!」


 記念配信が終わってから1週間が経った。私は未だにプロポーズネタで弄られ続けている。どうやら3Dお披露目時の私の言葉がプロポーズに聞こえてしまったらしい。

 香織は東京から帰ってくるとすぐに私の元へと飛んできて、そこから数時間ずっと私のことを抱き枕にしていた。そして今、私は彼女の膝の上に座っている。


「は~ぁ、いい香り♡」


 うっとりとした目でそう呟く彼女から今すぐ逃げ出したいが、ロックされていて逃げ出せない。抱きしめられて暑いはずなのに、私の背筋はずっと冷たい。

 ああ、私はもうお嫁に行けません……。


 そんなこの配信のタイトルは『桜木家、久しぶりののんびり雑談』である。なお、今回記念配信の振り返りは行わなかった。正確には行ったのだが、私達はしていない。

 今までは私達二人で振り返り配信をすることが多かったのだが、今回に関しては2期生メンバーが振り返り配信を担当している。私は顔を出さなかったが、香織は顔を出したようだ。

 ちなみに、3Dお披露目の振り返りはまた今度、私のお披露目が終わってからすることになっている。私の3Dお披露目はしばらく延期で、また何かしらの記念配信の時にやるか、専用の枠を取ってやるか、現在協議中だ。


「なんかどっと肩の力が抜けた感じがするね」

「そうだなぁ、ここまで駆け抜けた! って感じはある」

「まだ立ち上げ1年だけどね」

「内容濃すぎ」


コメント

:4期生入れる気はあるの?


「どうなんだろ。私達二人ともは現状何も聞かされていないかな。もう3期生出てから半年近く経ってるし、そろそろ募集とかしてもよさそうだけどね」

「するとしても実際に発表になるのは来年とかなんじゃないかな」

「どんな子達が来るんだろうね」

「おとなしい子が良い」


 現在SunLive.の新規募集は停止中だ。公式サイトのフォームも一度閉鎖状態になっている。というのも、最近は会社もバタバタしているみたいで、新たにVTuberを受け入れる状態が整っていないそうだ。

 SunLive.は今トップクラスに伸びているVTuber事務所。もちろん入りたい人も山ほどいるわけだが、所属V以外のマネジメントもしているために規模の割には忙しい事務所。

 まあ他にもトップの事務所はいくつかあるし、当分はそっちに応募してねって感じだね。


「私オフコラボ配信やりたい。みんなと会えなかったし」

「そうだね。この家にみんなを呼んでみても良いよね。せっかくここまで設備を整えたし。もうほぼスタジオだよね」

「そうそう。この設備を2人占めってもったいないよな」

「まあ、私は別に構わないけどね」

「……」


 もちろん東京のスタジオには及ばないが、私たちの家にはわざわざ東京に出向かなくても問題ないほどには設備が整っている。もともと個人勢だった頃に使っていた機材を山ほど運んでいるし、新たに買い足したものもあるし。

 防音室完備で、モーションキャプチャーもある。しっかりとしたマイクもあるから歌も録音出来るし、実はキッチンの上にもカメラが付いていたりする。もちろん反射とかは気にしないといけないけど、やろうと思えば料理配信だって可能だ。

 もう私達東京行かなくて良いんじゃないかなとは本当に思っている。行くのやめようかな……。

 ちなみに回線も業務用なので、よっぽどこのことでは問題にならない。もういっそこの家をSunLive.の支部とかにして、関西圏の子達のスタジオにしてしまうのもアリか……?

 まあ浜松来るなら東京まで新幹線で行っちゃった方がいろいろ便利そうではあるけど。のぞみ止まらないし。


コメント

:【柊玲音】家行きたい

:【凪塚美波】玲音先輩、新婚の家に行くのは少し……。今はラブラブですから

:【柊玲音】あ、そっか。私KYだね


「こらっ、KYなんてどこで覚えたの。って言うか別にラブラブじゃないから」

「……え?」

「……ラブラブじゃないから!」


 何はともあれ、ひとまず記念配信終わって良かった。疲れたよ私は。

 ちょっと旅行とか行きたいなぁ……。


「……そうだ」

「なに?」

「SunLive.メンバー旅行したい」

「……ありだね」

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