第8話 腰袋
「よし」
倒れたラージホーンは動かない。完全に仕留められたみたいだ。
ラージホーンの魔石は体内を抉るのはもう嫌なので後で取ろう。今は放置でいい。
「よくできたな。最初のはまぐれじゃないみたいだし完璧だ」
後からきたドゼルが褒めてくれる。
「モンスターを目の前にすると恐怖で動けなくなってしまう人もいるが、イザキはそういうのないみたいだし後は経験あるのみだな」
動けなくなる人か。
さっきの戦闘、倒すことに集中しすぎて恐怖を感じなかった。死とは遠い日本にいたからかラージホーンが大人しかったからか、ゲームみたいな感覚だった。
小春はもしかしたら動けないかもしれない。
だから、やっぱり俺が戦わないと。
「よし、もう十分戦えると思うし、助けはもういらないと思うから俺は街に戻るよ」
もう十分か。レベル上げができるようになるまで見てもらえたことに感謝しかない。後は1人でできることをしよう。
「ありがとうございました」
深く頭を下げドゼルに感謝を伝えると、
「またな」
とドゼルは手を振って帰ろうとする。が、すぐに何かを思い出して止まる。ドゼルはもう一度俺の所に戻ってくると、
「そそ、帰る前に、これ、渡そうと思ってたんだ」
とつけていた腰袋を外して差し出し、ニカッと笑う。
「初心者じゃ、これは持ってないだろ?」
「なんですかこれ」
腰袋というのはわかるがそれだけじゃない気がする。
そう考えている俺にドゼルは腰袋の話を始める。
「それは魔石や回復薬を入れる袋だ。それに入るサイズの物なら無限に入るから、この先、沢山魔石を集めても問題ない」
よくある便利なアイテムボックスか。これから沢山レベル上げをするが、その際、魔石が多くなったら持って帰れなくなる。今後の手間などを考えるとかなり欲しい。
だが、ただでくれるのはありがたいが価値のあるものだったら何も返すことができないので気持ち的に貰えない。
「これ、高いんじゃないですか?」
「いや、そーでもねーよ。今日この後、買い換えるから、もう使わなくなるやつだ。だから、値段なんか気にするな。要らなくなったものをあげるだけなんだから、要らないなら貰った瞬間、捨ててもいいんだぜ?」
ここまで言われて貰わないのは相手に失礼か。
「ならありがたく貰います」
そう言って俺は腰袋を受け取る。
「本当にありがとうございました」
「おうよ。これから頑張れよ」
そう言ってドゼルは俺に腰袋を渡すとそのまま街の方へ帰っていく。俺は剣を装備している反対側に腰袋を付ける。
「こっちの世界の人は優しい人多いんだな」
とポツリと呟いた。
俺はポケットにあるスマホとさっき手に入れた魔石を腰袋の中に入れた。
そして、足元を確認する。足元にはさっき倒したモンスターはおらず魔石のみが落ちていた。やはり放置しておけば自然と魔石になる。なら、魔石だけになってからだな。
そう考えながら、足元に落ちている魔石を腰袋の中に入れ、その後、戦い慣れした俺は周囲にいたいたラージホーンを狩りまくった。
かなりの数を倒した。しかし、レベルは上がらなかった。なんとなく予想はしていたがゲームなんかと比べものにならないくらいレベルが上がりづらい。
あと、どれくらい狩ればレベルが上がるのか想像ができない。
空は少しずつ暗くなっていき、日は半分以上沈んでいる。
「これ以上はもう止めるか」
これ以上やってもレベルが上がるかわからないし、暗くなってきたら何があるかわからないとよく聞く。それに帰るのが遅くなると小春に心配をかけてしまう。だからもう帰ろう。
俺は剣をしまい街に戻る。寄り道などをしていたら帰る時間が遅くなる。そしたら、城に入れなくなるかもしれないので、魔石などの処理は後でどうにかしよう。
そう考えて左右に並ぶお店を素通りしながら、先程、通った大きな道を真っすぐ進む。その先には城が見える。
「すごいな」
城から出た時は城に背を向けていたので見えていなかったが、実際に見てみると広く、大きく、迫力のある城だった。
城の前にだどりつくとそこには行き同様、鎧を纏った騎士が立っていた。
「やっと戻ったか」
門番の騎士は俺を待っていたらしい。
「帰るのが遅くなってすみません」
ととりあえず謝っておく。
「逃げたわけではないみたいだな」
騎士は俺のことを睨みながらそう言う。
どうやらかなり信用されていないらしい。
「逃げるわけないじゃないですか」
と冗談ぽく苦笑いでそう答える。
まあ、小春を置いて逃げられない。逃げれば小春に何をするかわからない。千夏の生死も確認しないこの国は信用できない。
「ならいいがあと少し、遅ければ騎士団が街中、お前を探していた。次、出る時はもう少し早く帰ってくるんだな」
「すみません」
俺が謝ると騎士はサイドにずれて塞いでいた道を開ける。
寄り道しなくて正解だった。
もし時間があれば最初に寄った武器屋に魔石について聞きに行きたかったが、そうしていたらあの人に迷惑をかけることになっていた。そうならなくてよかった。
俺が騎士の横を通り過ぎようとすると、
「その腰に付けている剣はなんだ?」
と止められる。
騎士は剣の柄に手を伸ばし、いつでも剣を抜けるように準備していた。明らかに警戒されている。
下手なことを言うとこの騎士に斬られる。一瞬で何を話すか決めて質問に答え始める。
「えっと、これは街で手に入れた物ですよ」
「何のために?」
「そりゃ、勿論、レベル上げのためですよ」
と即答する。
悩めば国王をこの剣で殺そうとしているのではないかと怪しまれる。国王は嫌いだし、殺したいけど、今は殺せないのでそんな誤解をしないで欲しい。
「国王を殺すために持ってきた訳ではないのだな?」
「勿論ですよ。考えてもみてください。俺は貴方にも勝てないLv.1の剣士ですよ?そんな俺が国王を殺そうなんて思う訳ないじゃないですか。殺そうとしたら、自分が返り討ちにあって殺されますよ」
国王を殺そうとすれば何があっても殺される。それは先程、体験済みだ。今はまだ命をかける必要はない。
「確かにそうだな」
俺の主張を聞いて騎士は納得してくれる。すぐに納得されたのはムカつくけど。
「城の中ではその剣を抜くなよ。それ抜いたらお前の命はないと思え」
俺は注意されながら俺は城の中に入って行く。城の中に入るとメイドが待機しており、着いてきてくださいと何処かに案内される。
何処に連れて行かれるんだろう。
「ここに入ってください」
そう言われて連れてかれたのはさっきの大広間ではなく、普通の部屋だった。
俺は言われた通り部屋に入る。すると、そこには小春がいた。
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