第5話 託された剣
俺はそのまま外に出た。見張りの騎士は俺が外に出て行くのを止めたが、
「行かせろ」
と国王が一言と命じるとそれから俺を止めることはなかった。
街に出て歩いていると俺は注目の的だった。
黒い制服姿。
あまり見ない着飾った服装の男が1人歩いていたら気になるのは普通だと思う。俺だって外国の人が1人でその国の正装で歩いていたら声はかけないけどチラッと見てしまう。
「まず、どこ行くかな」
適当に歩いて街まで降りてきて俺は外の空気を吸い落ち着くことができた。だいぶ冷静になれている気がする。
俺のやるべきことは小春を守り抜き無事に元の世界に帰すこと。もう千夏を小春を千夏のように失いたくない。
多分、奴らは魔王を倒さなければ元の世界に帰してくれないだろう。小春を守り、元の世界に帰すには強くならなければいけない。今の俺では圧倒的に力不足。無理にでもLv.を上げて小春よりも強くなる。
そして、魔王を倒す、又は異世界転移の魔法が使えるようになり小春を無事帰すことができたら・・・
復讐を始めよう。
そして千夏を奪ったこの世界を壊してやる。
だから、何度も言うがそれら全てを成し遂げるために今は強くなることを最優先だ。
その為にLv.上げをしたいが、今、俺は金がない。Lv.上げに必要なものを何一つ買えない。
さて、どうするか。
そんなことを悩みながら歩いていると、なんとなく入りたくなるような一軒のお店を見つけた。古くこぢんまりとした店。他の店よりも地味だがどこか惹かれる。
「なんの店だ?」
店の前には何もなく、どんな店かはわからないが気になるので入ってみることにする。
扉を開けるとチリンと入り口の鈴が鳴り
「いらっしゃい」
と店の奥の方から男の挨拶が聞こえる。
店に入ると見渡す限り武器や防具が並べられていた。
「鍛治屋か」
この世界に来て一番見てみたかった店。日本にはない武器が売っている店。
俺は店の中に並べられている武器を見て周る。触ってはいけないものかもしれないので見るだけにしておく。武器の良し悪しはわからない。初心者目線だとどれも精錬された武器に見える。
武器を集中してみていると、
「何を買いに来たんだ?」
と隣から声がする。隣を見るとおじさんが俺のすぐ近くに立っていた。初めて見る剣に気を取られていて全く気がつかなかった。
「あっ、すみません。買い物じゃないです」
俺はおじさんに向き直り頭を下げる。
買う気がないなら出て行けとか言われるのかな。本物の剣、かっこいいからもう少し見ていたいな。
「買い物じゃないのか。なら、初めて使う武器の下見ってところか」
「えっと。はい。そんなところです」
とりあえず、追い出されなくて安心する。
適当に返事をしたが武器の下見か。初めのパソコンとかはじっくりと調べて買える値段内でなるべくスペックが高く納得がいくものを買いたいっていうのと同じ感覚で武器を選ぶのか。それくらいこの世界では武器は結構必需品なのかな。
俺の場合、剣の良し悪しなんてわからないから適当なものを買ってしまいそうだけど。
「なら俺がお前さんに会う剣を見繕ってやるよ」
「いいんですか?」
「おうよ」
おじさんはそう言って俺の前に立てかけてある剣を何本か手に取り鞘から抜いて刃を確認する。
確認しながら
「お前さん名前は?」
と名前を聞いてくる。
「伊崎和佐です」
と俺は素直に本名を答える。
するとおじさんは顔色を変える。
「ほう、聞かない名前だな。それにさっきから気になっていたが、お前さんの服、紳士服とは似ているが少し違うな。同じようなのを何処かで見たような」
とおじさんは考え込む。そしてひらめき手を叩く。
「そうだ。勇者の嬢ちゃんが2年前に着ていたやつだ」
2年前の女勇者。まさか千夏のことか。
「千夏を知っているんですか!」
突然、千夏の話が出てきて俺は前のめりになって聞いてしまう。
「知ってるも何も、嬢ちゃんは2年前に俺のところの武器を買ってくれた元常連さんだ。」
千夏はこの店を使っていたのか。思わぬのところから千夏の名前が出てきた。
「お前さんと勇者の嬢ちゃんはどんな関係なんだ? 今の反応を見る限りかなり親しい仲だったんだろ?」
千夏が勇者であったことは隠していなかったことなのか。なら、俺も隠す必要はない。
「千夏は俺の幼馴染みですよ。そして、俺も千夏と同じ勇者」
「そうか。お前さんも勇者だったのか。それなら、あれだな」
俺が勇者だと知っておじさんは何か悩み始めたが、
「よし、ついて来い。」
と店の奥の方へ歩いて行き、俺もそれに続いた。後ろを歩いている間に千夏のことを聞いてみる。
「千夏は生きているんですか?」
「わからねーな。一年前くらいを最後に店に顔を出さなくなったからな」
やっぱり千夏はもうこの世界にはいないのか。
「そうですか」
俺が1人落ち込んでいると、
「なんだ。嬢ちゃんを探してるのか。なら、心配ないと思うぜ。俺の知る限り嬢ちゃんはこの街1番の剣士だった。だから、死んでるなんてことはないと思うぜ」
俺を安心させるためか本心かはわからないが、何となく気分が晴れた気がした。
俺が千夏のことを考えていると、もう店の奥に着いていた。おじさんは一番奥の棚に置いてあった剣を手に取って、
「勇者の嬢ちゃんを探すってならこれやるよ」
そう言って、おじさんは俺に一本の剣を差し出してくる。
「えっと。いいんですか?俺、今お金持ってないんで払えないですよ」
「わかってるよ。だから、やるって言ってんだ。そもそも、それは勇者の嬢ちゃんがお前に置いて行ったものだ」
「千夏が俺に?」
『どうして俺がこの世界に来るということを知っていたのか』とか、『なぜ剣を残したのか』とか疑問点はいくつかあった。
でもそれよりも千夏がこの世界でも俺のことを考えていてくれたことが嬉しかった。
「勇者の嬢ちゃんが、『いつかくる私のことを必死に探す勇者さんが来たら渡してください』と言って置いてったんだ。お前さんとは断言してないが、たぶんお前さんのことだろ」
それを聞いて千夏が剣を渡している姿が浮かんでくる。それに少し懐かしさを感じ、
「千夏」
そう呟いて俺はおじさんの持つ剣を両手で受け取る。
「ありがとうございます」
俺がそう言うと、おじさんは剣から手を離した。
「礼なら、嬢ちゃんに会って直接言ってやれ」
「はい。そうします」
もう会うことはできないかもしれない。でも、それでも俺はそう返事をして、剣を腰に、制服のベルトに取り付けて装備する。
「頑張れよ。勇者」
「はい。この剣で俺も千夏よりも強くなりますよ」
そう返事をして、
「今度は金を集めて防具を買いにきます」
とおじさんを背に俺は店の入り口の扉まで歩く。そして、おじさんの
「おう!」
と言う返事を聞いて俺は店から出た。
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