第4話 怒り

「確認できたようだな。君たちにはそのスキルを使い、レベル上げをし、魔王を倒してもらう」


魔王討伐...。

勇者のスキルで強くなって魔王を倒せか。

それが勇者の使命。


魔王がどんな存在なのか、魔王を倒す理由も気になるがその前に聞くことがある。


「勿論、はい。わかった。なんて言えないな」


その返答に国王の表情が暗くなる。


「この答えを出す前に質問してもいいか?」


これだけは絶対聞かなきゃいけないこと。確かめなければいけないことだ。


「なんだ?」

「俺たちの前に他にも勇者召喚をしていただろ? そいつらは今、何処にいるんだ? 」


千夏の居場所。それが今は一番欲しい情報。そもそも勇者が生きていれば追加の勇者召喚をする必要なんてない。


この返答によってはこいつらを、そして魔王を殺す必要が出てくる。


その質問に国王の顔が一瞬こわばり


「今は何処にいるのかわからない」


と呟いた。


くそ、やっぱりか。


理解したくなかった。そして理解した瞬間、悲しみや絶望がこみ上げてくる。


千夏がもう死んでいると予想はできていた。それは俺たちが呼ばれた時点でなんとなくわかってた。


でも、最後まで諦めたくなかった。


千夏を失った時のように頭の中がぐちゃぐちゃになる。再び絶望に叩き落とされた感じがした。


俺は様々な感情を必死に抑えて次の質問をする。


「2年前に呼んだ、千夏、藍沢千夏はどうなった」

「知らない」


即答だった。国王は冷たく、その一言だけしか言わなかった。


あいつが、あの国王たちが千夏を無理やり召喚して殺した。


国王の態度、発言から悲しさよりも怒りが込み上げてくる。冷静でいなきゃいけないのに、何も考えられなくなる。


「ふざけるな」


と誰にも聞こえないくらい小さな声でそう呟く。


そして、感情を抑えられなかった俺は


「千夏を返せよ!」


と叫んで勢いよく地面を蹴って国王との距離を縮める。俺は国王の目の前で大きく跳ぶと、国王の顔面目掛けて殴りかかった。


しかし、俺の拳は届かない。その前に、国王の隣に立っていた騎士が俺と国王の間に入り、腰に装備していた剣の入った鞘で俺の腹を殴る。


俺は何もできずに飛ばされ、地面に倒れ込む。俺は痛みを堪えながら、国王を睨み付ける。国王の周りにいた騎士が俺を囲み、取り押さえられる。


全く動けない。

この騎士たちには勝てない。


元々、Lv.1で相手できる訳がないことを頭の中ではわかっていた。


身動きが取れなくなった俺は抵抗をやめ大人しくする。


そんな俺の元に小春が


「やめて下さい!」


と叫んで駆け寄ってくる。

騎士は小春が近づいても俺から離れることはしない。小春は騎士の1人の腕を掴み、引き離そうとするがびくともしない。騎士はそんな小春を突き放そうとするが、


「やめい。元の位置に戻らんか」


と国王が叫び、そう命令されたことで小春に触れることなく、騎士達は俺を押さえるのをやめ元の位置に戻る。


騎士から解放されたが俺は腹の痛みを堪える為に暫くそのまま倒れていた。痛みはまだ引かない。


「大丈夫ですか?」


小春は横から心配そうに俺の顔を覗き込む。痛みを堪え心配させないように、


「大丈夫だよ」


そう言いながら立ち上がり、制服の地面について汚れた場所を払う。


そして、


「俺は頭を冷やすために外に出るよ」


とぎこちない笑顔を作り小春に告げる。


押さえつけられている間に少し冷静になれた。

だから、今、ここにいてはいけないと判断することができた。


今、ここにいたら気持ちの整理ができない。ただ怒りに身を任せてしまうとそう感じた。


俺は国王に背を向けるように歩き出す。

そんな俺を止めるように


「先輩、待ってください」


と小春がついて来るが俺は小春の方に振り返ることなく足を止めることなくただ前を向いて


「夜までには戻るから小春はこれから先の説明聞いといてくれ。頼む」


と言ってそのまま目の前にある大きな扉のまで歩いて行った。

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