42 夢で見た光景??

呆気にとられ、「は???」と固まる私に、「ん?リーチェの口元にたくさんクリームがついてっから、美味しそうだなって。」と長いまつ毛を揺らし微笑む。


(え? そんなに口にクリームつけてた???)


慌てて指で自分の口元をなぞる私を、シエルは何とも艶めかしい表情で見ていた。


じゃなくてっ!! 「もうっ!私じゃなくてこっちでしょっ!」と、スプーンをズイッと口元に差し出そうとした時だった。



シエルは急に立ち上がり、「ちょっと待ってろ。」と背中で私を隠すように立ち上がる。




視線の先にいたのは、ヒョコリと木の影から可愛らしい顔を覗かせる希少獣。


「インファントムだわ!!」

ウサギに似た真っ白な毛が高価な価格で取引されている。めったに人前に姿を現さないのに、危険な魔獣もいる魔女の森で出会うなんてっ!


「人の姿を見ても逃げねぇのは珍しいな。」


シエルが一歩足を踏み出すと、シエルを避けるように動きはするが逃げだす気配はない。


「ねぇ、もしかしてお前もこのスイーツ食べたい?」


私は、クリクリとした金目をこちらに向けてるインファントムにスプーンを差し出した。タンッとジャンプしながらすぐ目の前まで来ると、白くてもふもふした長い耳を下に垂らしながら、パクリッとスイーツを口に含んでる。


「ふふっ、かわいいなぁ~。」


結局インファントムは、大量に作ったスイーツの半分ほどをペロリと平らげてしまった。


「ねえ、少しだけお前の体を触らせて。」


あまりの可愛さに我慢できずに手を伸ばしてしまった。逃げないでね、何もしないから。心の中で呼びかけながら背中にゆっくりと手を当てる。



置き物のようにじっと固まってる!!! とりあえず動き出す様子はなさそうだ。指先でフワフワの白い毛を撫でてあげると、気持ちよさそうにビー玉のような金目を瞑る。


(はぁ~のどかだわ。ここが魔獣の棲家がある森なんて忘れてしまいそう。)



撫でる手の動きに合わせるようにどんどん丸まり、しばらくの間ウトウトしていたインファントム。私の方にまで眠気が移ってきそうなほど時間が経った頃、満足気にミュウーミュウーと小さな鳴き声を発しながらどこかへまた去っていった。


インファントムが食べてる間、ずっと無言だッたシエルがポツリと呟いた。

「もしかしてお前の花蜜が、ノワールらが探してる例の『魔力』なんじゃねぇか?」


やっぱり? シエルに言われるまでもなくその可能性は考えた。だって、実際にスイーツを持ち歩いてる時にだけ希少獣によく会うのだもの。



「”瘴気” を発生させない、という点は分からないけれど、花蜜に希少獣が引き寄せられるというのはあり得るわ。どうして私が作る花蜜にそういう効果があるか分からないけど。」


首を捻る私に、「いや、それは分かるだろ。」とシエルは少々呆れた目を向ける。白くて長い指が、サラサラの紺碧の髪をガシッとひっかいた。



「え?」



「単にこれまで、花魔法でスイーツを作ろうという発想をする奴がいなかっただけなんじゃ・・・。」




「あーーーあーーーソウカモ・・・。」

ハハハッと枯れた笑いが出てしまう。


それはそうだ。別に私の花魔法が特別なんじゃなくて、単にこれまで誰も試してこなかったというだけだ。




なるほどねー、と思わぬ発見も、お腹が空いてる私には食べ物ほどの吸引力はない。朝食を再開しようとシエルの方へ振り返った時だったッ!!



!?




(夢で、、、見た光景!?)


「いやっ、やめてっ、シエルッ!」



氷のような冷たい瞳、人間離れした美しさゆえに、そこには恐ろしさだけがある。


(どうして鋭い刃を私に向けているの? 魔道騎士の服は着ていないけど夢の光景と似てる。)


「ごめん、リーチェ。」

魔道具の青いナイフの切先が魔力をまとわせ始めた。無表情な顔で淡々とひどい言葉を吐く。怖いっ!嫌ッ! 信じてたのにっ!


「ごめんって何よ!どうしてッ!」

目から涙が溢れ、震えが止まらない。歯がガクガクと鳴り、体の芯からヒヤリッとした感覚が伝わってくる。


「オレだって、できればこんなことしたくはなかった。仕方ねぇんだ。」

そして死んだような目で、ナイフを突き刺した。


「助けてッ、いゃああああぁあああああああああああああああああ!!!」


大量の血が飛び散る。

(私はやっぱりシエルに殺された? これでゲームオーバーなの・・・?)

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