39 シエルの葛藤

「ねえ、ルアナっ、今晩は心細いから一緒に寝てくれる???」


そう言ってリーチェは、ユニコーンの姿のオレに抱きついた。


さっきもいきなりアカクリの実を口に咥えたまま、オレにそれを食べろという仕草をした時は焦った。リーチェの赤くて濡れた半開きの唇が目の前にまで迫ってきて、目を逸らすことができなかった。


(無自覚ってマジ怖ぇ。)


欲に負けたのは事実だ。


どうしても拒否できなかった。少しだけ、少しだけアカクリの実を半分だけパクリとかじるだけ。そう自分に言い聞かせながら、実をかじったとき、リーチェの唇に触れてしまった。ぷるるんと揺れた唇をそのまま食べてしまいたかった。


(新手の拷問か???)


ずっと正体は隠し通すつもりだったのに、『体を洗ってあげたい』だの、『私の体を洗って』だの平気で口にする。リーチェはルアナと名付けたユニコーン姿のオレを、多分自分の弟とかそんな風に考えてたンだと思う。


(このままの姿でいると、リーチェが暴走しそうだ。)


とうとう、オレはリーチェの目の前で元の姿に戻っちまった。


なのに・・・。


「ねー、心細いから、もうシエルでも何でもいい。今日はギュッとして一緒に寝てね。」


ギシッとベッドの音が鳴り、リーチェが近づいてくる。


(結局暴走してんじゃねーかっ!!!)



ブランケットで動きを止めたら、ブツブツ何やら言ってたけどすぐにスヤスヤ寝ちまった。


隣でブランケットに包まれ、乱れた銀の髪が白い額に張りついたまま寝てるリーチェを見る。


オレは起こさねぇように丁寧に、リーチェの周りのブランケットを外し上からそっとかけ直した。


ドレスのままはキツイかと思ったけど、まさか脱がすわけにもいかねぇし。



しかもこのドレス、、、、鼻血出そうなぐらい色っぺぇンだけど。



ずっと気になってたが、胸元が結構開いていて、レースの飾りが余計に邪な妄想力を刺激する。薄い黄色のレースは肌馴染みが良すぎて、まるで透けてるようだし。レースの隙間からチラチラと覗く胸元の肌が艶かしい。


「こんなの着て城でローランに会うとか、、、、他の男にはこんな姿を見せンなよ。」


リーチェの顔にかかってる銀の前髪を、手で撫でながら横に流した。


(まつ毛長ぇな。美味いモン食べてる夢でも見てンのか? )


口元を綻ばせ、寝てる時まで幸せそうだ。乳白色の肌がうっすら色づいてる様を見ていると、ツンと何かが胸の奥から込み上げてきた。




「・・・また生きて会えた。」


胸に広がるあったかい感覚が涙腺を刺激する。



リーチェは覚えてねぇだろうが、巻き戻り前のリーチェはノワールに殺された。リーチェのいない世界・・・自分の命を失うよりも耐えらンねぇ。細胞が黒で塗り潰されていくように、絶望がオレの体を支配した。



今でもあン時の感覚はハッキリと覚えてる。全身がバラバラに引き裂かれていくようだった。あれは単なる絶望だったのか? 悲しみか? それとも怒りだったのか。言葉にはできねぇ、深い、とても深いところから湧き上がってくるナニカ。巻き戻りの禁術を使っても失敗する確率の方が高い。でも、何かをせずにはいらンなかった。




「もう2度と誰にもお前を傷つけさせねぇ。」


リーチェの桃色の爪先を掬い上げ、手首にそっと口付けをする。




顔を覗き込むようにさらに近くへと寄るとベッドの軋む音とともに、嫌でも耳に入ってくる悩ましげな寝息の音。




(これはオレのいのち全てをかけた誓いだ。)



薄いレースと共に上下する誘うような胸元へと顔を近づけ、その白くて華奢な鎖骨の上にオレはキスを落とした。

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