23 そこに映っていたのは・・・
「ちょっと~、まだ~?」
白の騎士服を身につけ、肩まで伸びた水色の髪は1つに縛りあげ、見た目は新兵のような童顔の少年が口を尖らせた。
テオは、魔道騎士だけに許された藍の服はまだ着ることができない。代わりに新兵らが身につける白の隊服で、今日は私をエスコートしてくれることになった。
シエルは最近ずっと城で、瘴気の掃討だ。希少獣の密猟が増えたことで、魔獣らが暴れ回って民家に被害を加えバランスが崩れているに違いなかった。
「待って、もう少しだけっ!」
馬車で迎えにきたテオと一緒に、城に行く途中、広場に浮かぶスクリーンを見るために降ろしてもらった。ここ数日間、スクリーンにはなぜか”日本”での密猟の現場が映し出されている。
「あんた、目立つんだから、少しは自覚してよね。」
今朝もテオが屋敷に迎えにきた時、一悶着あったばかりだ。レモンイエローのレースのついたドレスを着ていたら、玄関でひと目私の姿を見るなり、テオが『却下!』と言い張るのだ。今更、着替える時間がないと言っても、変なところで頑固だった。『胸元開きすぎなんだけどッ!兄様は喜ぶかもしれないけど、他の男だって喜ぶんだからっ!』などと言って、結局レースを増やすような形で胸元を飾り隠された。
でも、レースの網目から肌が透けて、私的には余計にセクシーさが増してしまったと思うのだけど、テオ的にはいいのかしら?
「えー、私が目立つなんてテオドールの勘違いだよっ。悪目立ちならしてるかもしれないけど。テオドールたち兄弟が目立ってるから、人の目に過敏になってるだけじゃない?」
シエルの容姿が繊細な美青年タイプだとしたら、テオは天使のような可愛らしい感じだろうか。今だって、令嬢たちから微笑ましい視線を降り注がれている。実際には、テオの中身は、生意気で毒舌で、天使って言うよりむしろ堕天使???
「それは否定しないけど、あんたが鈍いのも本当だからっ!」
私の隣で、一緒にスクリーンを見上げていたテオがハァ~とため息をつきながらこぼす。顔に似合わない大人びたため息に、「ふふっ、やっぱシエルの弟ね。」と可笑しくなり笑ってしまう。1人でヤキモキしている少年の額にかかっている水色の前髪を、「心配かけてごめんね。」と撫でた。
「は?」と私を見たテオの頬が、耳元を飾る真っ赤なルビーのカケラと同じくらい赤くなる。「笑いすぎっ!無防備すぎ!マイペースすぎ!」とぎゅっと顔を顰めて、拳を握りしめながらふるふると揺れている。
「そろそろ馬車に戻るわ。」と声をかけると、パチッとクリクリした瞳を開け、「早くしないと間に合わないんだからねっ!」とさり気なく私の手を取りエスコートする仕草を見せてくれる。
「城に着いたら、美味しいものだけお腹いっぱい食べて帰りましょ!」
(城だと、珍しいカクテルやシャンパンが飲み放題だものね。)
「えっそんなんでいいの?」
テオが口をポカンッと開けて、グリンッと私の方へ顔を向けた。
「へ?もちろんよ!」
(そんなに驚くこと???)
「そんなに自信満々に言われると、一瞬そうかなって思いそうになる自分が怖い・・・。」
「テオはまじめねー! 私がローラン王子の妃候補になった決め手も、『美味しいものをたくさん食べさせてあげるよ。』って王子の言葉だったもの!」
(あっけなく婚約破棄されちゃったけど。)
「食べ物で釣られるってそれってどうなのさっ!」
なぜか私でなくテオがぷんぷんっと頬を膨らませてる。
ふふっと笑いながら、テオの手に引かれて馬車へと歩き出そうとした時だった。
(えっ!嘘でしょ!?)
唖然として目がスクリーンに釘付けとなる。
あまりにも予想外のことに息をするのも忘れ、足がブルブル震えだし、しまいには周りの声がとおくなっていった。知らず知らずのうちによろけていたのか、いつの間にかテオの腕の中にいた。テオが何事か焦った顔をして私に呼びかけているが耳に入らない。
どうして、の言葉が頭の中でグルグル回る。血の気が引いて顔が青ざめていくのが分かる。
だってスクリーンには、楽しそうな顔をしてスイーツを作る黒髪の地味な女性が映ってる!?
どうして??? だってこの映像は・・・
(記憶の中で見た前々世の日本人だった時の私???)
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