14 冬の家系 “ソルシィエ家”
“冬の家系ソルシィエ”公爵邸が見えてくる。広大な緑地を通り抜け、白壁に茶色のドーム屋根の主棟前の内門まで来ると、バラの香りが鼻をくすぐった。
近くには、シエルの屋敷の専任のガーデーナーが日々手入れを施す、空色のバラのアーチが咲き誇っている。
(いつ見ても綺麗! 私が好きなのを知っていて、今朝もシエルが、空色のバラを摘んで来てくれた。)
白亜の壁には貝殻や植物の模様が装飾され、とてもロマンチックな外観だ。
内門の前で、私はシエルに聞いてみる。
「ねぇ、シエル、もし嫌なら私との結婚、今からでも断っていいのよ。」
(だって本当はノワール様のことが好きなんでしょ? )
シエルってなんだかんだ言っても面倒見がいいから、路頭で彷徨ってる野良猫を引き受けてる感覚だったりして。そんなだったらいくら私でも若干傷つくわ。
「・・・。」
「シエ・・・。」
「断らねぇ。」
眉を寄せ少しムッとした口調でボソッと呟く。
「えっ?」
「断らねぇ。お前といると飽きなさそうだし。」
「はっ?人のこと、珍獣みたいに言わないでよッ!」
(やっぱシエルと話していてもラチがあかない。)
私は、両手をラッパ状にして口のところに当て、スゥーと思い切り息を吸い込んだ。
「頼も~~〜~っ!! た~〜のも~~~!! た~の~も~~〜〜っ!!! 」
お腹の底から大声をあげた。
(ハァハァ~。運動不足かしら。息切れがする。)
隣でシエルが、「こいつ、何やってるんだ?」とでも言いたげな顔をしている。
だって仕方ないじゃない。大声でする挨拶なんて、前々世、日本で見た時代劇の挨拶しか思いつかなかったんだもの。
ギーッとすぐに門が開けられた。
(あ、めちゃくちゃ近くにいたじゃないの。)
わざわざ使用人たちが、内門のところで待っててくれていたようで、彼らは片手で門を開け、片手で耳を塞いでいた。(なんか、ごめんなさいっ!)
開いた内門を抜けると、ちょうど玄関が開き、中からシエルの両親がでてくるところだった。
「リーチェちゃん、どうしたの? そんなに大声を出して!」
少し天然で上品そうなシエルのお母様が優しそうな微笑みを浮かべて現れる。シエルと同じ深い紺碧色の髪色は、この国では珍しく目を引く。艶のある長い髪を顔の横に流し、ゆるく一つにまとめた姿は、同じ女性ながら色っぽい。
「元気なのは良いことじゃないか。」
体格の良い紳士然としたシエルのお父様が、その後をゆったりと歩いてきた。
(んーー、2人の反応は通常範囲内ね。さすがに大声くらいじゃダメか。)
「おじ様! おば様! お招きいただき、ありがとうございます!」
挨拶を交わしていると、廊下の奥から、肩まで伸びたサラサラの水色の髪を揺らした少年が歩いて来た。
「うるさいっ。」
ポソリと言った少年はまさか・・・。
「弟のテオドールだ。」
シエルが隣で、耳もとで教えてくれる。
やっぱりっ!さすが美形遺伝子っ!クリッとした焦茶色の瞳に女の子みたいな顔立ちが愛らしい。真っ白な肌に、耳元で真っ赤なルビーの小さなカケラが揺れて、まるでうさぎみたいだ。
「テオ、挨拶なさい。」
低く響きのある声とともに、おじ様が少年の肩に手を添える。
いかにも薄幸の美少年といった儚げな雰囲気に、自然と頬が緩み握手の手を伸ばした。
「初めまして! テオドール。私のことはどうぞリーチェと。」
「あんたがリーチェリア? 鼓膜が破れるかと思ったんだけど。」
(へっ? 天使って言うより毒舌?)
ジロジロと私を見ながら腕を組み、握手しようと言う気はないらしい。私は、伸ばした手をそのまま引っ込めようと・・・。
!?
「挨拶は仕舞いだ。さっさとラウンジへ行くぞ。」
パシッとその手をシエルが掴み、空中で手持ち無沙汰になった私の手を引っ張りながら、どんどん中へと入っていく。
「シエルッ!まだ挨拶が!」
私が制止するのも聞かず、シエルは大きな手を離さない。
後ろから、おば様が「リーチェちゃん、ごめんなさいね。最近この子、療養先から戻ってきたばかりで礼儀もなってなくて。」とこぼす声に、心の中で答える。
いえっ、こちらこそ!
今日一日、結婚撤回のため、無礼な振る舞いを何としてもやり遂げる覚悟で来ました!
(どうぞお気になさらずっ!)
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