2 幼馴染

シエルは私の目を覗き込むとひっそりとトーンを落とした小声で呟いた。


「お前、婚約者候補から外されたんだって ?」


!?



婚約破棄のことは、まだ公には知らせていないはずなのにっ!!! 思わず周りをキョロキョロと見回してしまう。


「まあ、マナーを教える”春”の家系の令嬢が、なんつーか、、、、、その・・・一番、残念なマナーだもんな。」


シエルは、フゥーとため息をつきながら憂いを込めた表情で一応心配そうにはしてる。してる・・・が、言ってることは結構ひどくない???


しかもどんな表情していてもいちいちサマになっていて、遠くから令嬢たちが『キスはダメ~ッ!! 』『無理~ッ!!!』『皆さま、まだ触れてないですわよッ!!!』なんて、令嬢らしからぬ悲鳴まで聞こえてくるんですけど・・・。


あまりにも私と近い距離にシエルの顔があるので、彼女たちの頭の中では相当怪しい妄想がされてるに違いない。



まあ、イチミリもそんなことないんですけどね。



「・・・どこで知ったのよ?」


父上たちにもまだ内緒にしていてと頼んだはずなのに!! これまでは『残念令嬢』と陰口を叩かれても、ローラン王子の婚約者だったから、表だって言われることはなかった。それが婚約破棄されただけでなく、王子の目の前で、あろうことか気を失って倒れてしまった。


(正直、やらかしすぎて、今は何も考えたくないわ・・・。)


「どこでもいいだろ。風の噂みてぇなもんだ。」



シエルはぷいっと顔を逸らし、少し赤らめた頬で呟いた。頭に手をやりガシガシと引っかくが、サラサラした髪は白くて長い指の隙間を流れていくだけだ。


風の噂って・・・。いつかは皆に知られてしまう事だけれど、やっぱり少し胸が痛い。ローラン王子とは見合い結婚と割り切っていたけれど、知らない間に幾分情が移っていたみたい。「これで自由になれる」と清々する気持ちもあったのも本当だけれど、、、。





それにしても、、、と、私はシエルをチラッと横目で見る。婚約破棄を知ってるのなら、きっともうあの事も知っているのよね? 幼馴染のよしみでこれまで誰にも言わないであげたけれど、もう今さらよね。



つい自分のことを差し置いて、シエルをジトーと憐れみの目で見る。


(顔だけなら、どんな女性でも思い通りにできそうなほどの美形なのよね。)


鍛えた騎士の体なのに、長身で着痩せするから基本どんな服でも似合う。本人はじゃらじゃらした服は鍛錬に邪魔だから好きじゃないみたいだけど。魔道騎士の印である耳飾りと腕輪も最初は嫌がっていたくらいだもの。

そしてめっぽう強いのに、顔だけなら繊細さを漂わせる美しい顔をしている。要するに色気の塊だ。




そんなシエルの片想いの相手が、よりにもよって王子の新しい婚約者だなんて、、、。



「ン?? 何でオレの方がお前に可哀想という目で見られてンだ??? リーチェ、お前振られたショックでとうとう現実逃避し始めたか??」



「何バカなこと言ってんのよ。イケメンでも叶わない恋があるのねと学んだだけ。」



「はぁっ???」






ーーーほんっとーに私たち2人、恋愛運がないわ。

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