スイーツを作りたい悪役令嬢は天才魔道騎士から逃げ出したい〜巻戻りは婚約破棄で始まった!!
来海ありさ
プロローグ
1 空中に浮かぶスクリーンから謎は始まる
「あれは何の魔術だ?」
「野蛮な刃でギタギタに切り刻まれているッ!」
「恐ろしい・・・。」
「血のような真っ赤な飛沫が不気味だ。」
人々は目前に大きく映し出された映像を見て恐怖に慄く。しまいには子どもたちまで泣き出す始末。空中に浮かぶスクリーンには、鋭く研がれた刃がものすごい勢いで回転する様子が映っていた。
「こわいよ~~!!」
「びゃぁあああああああああああああああああ!!!」
「助けてよ~~~~!! やだよぉおおおおおおお!!」
(いや、それ、ただのフードプロセッサーですよ。)
野蛮な刃だとか不気味だとか、、、映ってるのは、イチゴの美味しそうなジュースだし・・・。しかもただのTVショッピングの番組なんですけど。
でもこの国では刃物は戦闘にしか使わないから、人々が野蛮だと眉を顰める気持ちも分かる。調理の時は、鉛筆のような棒に熱と”魔力” を通したものがこの国では刃物の代わりだ。
この国ーーーそう、ここは花魔法と剣の国ミラリアの首都、ミラリアの街。
運河沿いにレモンイエローやライムグリーンなどの家々が立ち並ぶ。パステルカラーの街並みは『宝石箱』の愛称で親しまれている。家々の前には、小綺麗に整備された花壇が点在し、道行く者の目を楽しませる。メイン通りには赤茶けたレンガが敷き詰められており、馬車や人々が行き交う。
メイン通りを抜けた先はこの街の中心部、人々が今まさに集う広場へと繋がっていた。人々の視線の先には、魔法で作られたと思われる真っ白なスクリーンが浮かんでいる。
ーーー誰が何のために、こんなところにスクリーンを設置したのかしら・・・? しかもこの国の民にとっては、全くの異世界である”日本”の映像がなぜ流れているの?
誰にも分からないまま、突如スクリーンが空中に姿を現してから今日で7日目。
「おい、リーチェ、こんな道端でボーッと突っ立って何してンだ? ーーーヨダレ、垂れてるぞ。」
どこに居たのか、突然隣から背の高い影が差した。顔を見なくても声だけで分かってしまった。幼馴染で、会えばケンカばかりしているシエルだ。私にとってはただの偉そうで憎たらしい幼馴染でも、世間では国中から尊敬される『冬』の家系の “天才” 魔道騎士。
(おまけにとんでもなくモテるなんて、私に対する嫌味??? 神さまって不公平だわ。)
「失礼ねっ!余計なお世話よ。」
隣に立つシエルをキッと睨みつける。
う~~~こんな表情をしてると、きっとシエルからはものすごく目の吊り上がった女に見えてるに違いないわ。だってほんの少し吊り上がった目が、私のコンプレックスなんだもの。
それに比べると、シエルは悔しいぐらいに顔がいい。サラサラと揺れる紺碧の髪に、アーモンド型でパッチリ二重の瞳の色は綺麗な紫水晶。少し厚めの形良い唇には赤みが差し、色白の肌に映えている。
そのくせ、鍛えた身体に程よい筋肉がついて、色気の塊のような容姿で、今も周囲の令嬢たちから熱い視線を受けている。
「とうとう奇行が行きすぎて、立ったまま寝てンのかと思った。」
こっこいつッ!!! 性格に難ありすぎるっ!!
ーーーでもシエルがそう茶化すのも無理はない。なぜなら私は『春』の家系に生まれながら、その格式ある花魔法を、家業である令嬢たちの”美”を磨くために使うことを一切していないのだから・・・。
それどころか、花魔法を庶民がやるような”スイーツ作り”に使っているおかげで “残念令嬢” なんて不名誉なあだ名がついてしまった。
(いちいち話しかけてこなくていいのにっ!!! シエルといると、目立つから一緒に居たくない!! )
無視を決め込んだ私は、視線をプイッと逸らし、再び空中に浮かぶスクリーンを見上げた。すると何を思ったか、シエルが長身の身体を折り曲げ、鼻先と鼻先がくっつくかと思うほど顔をぐいっと私の前に突き出した。シャリンッと魔道騎士だけが身につけるターコイズの耳飾りが鳴り、目前にはジッと私の顔を覗き込む透き通るような瞳。
「キャーーー!!!!」
「いやぁああああああああっ!」
途端、シエルを狙う令嬢たちからの鼓膜を破るような悲鳴のような声が広場に轟いた。
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