第58話 決着

「ノド……カ……」

『そうだよ! しっかりして、ゴドフリー君!』



 その声で俺はハッとした後、瞬時に聖なる力を高めた。すると、王子だった物や傀儡となったみんなは唸り声を上げながら俺から離れ、俺はどうにか距離を取る事が出来た。



「はあ、はあ……危なかった……」

『ゴドフリー君、大丈夫?』

「ああ、何とか……って、どうしてノドカの声が聞こえるんだ? 今はガーデンコントローラーを使ってないのに……」

『ティアさんのおかげだよ。今の私達の関係値なら、相手の顔を思い浮かべながら語りかけるだけで声を届けられるし、相手の様子もわかるって教えてもらったの』

「なるほどな……」



 ノドカの言葉に納得していると、ノドカは目の前の状況も理解したのか少し暗い声で話しかけてきた。



『あの怪物みたいなのがたぶん例の王子なんだよね?』

「ああ。変な魔法薬を飲んだらあんな事になって……それだけじゃなく仲間だったみんなまで操られてるんだ」

『それで、神様達は……周辺に影響が出ないように守って下さってるんだね。それなら、あの王子をどうにか倒すしかないんだね』

「そうなる。ただ、剣は折られたし、他の武器を取りに行く時間も正直ない。一応、まだ聖なる力は使えるけど、直接触れたら俺も何が起きるか……」



 少しの時間ならたぶん抵抗は出来ると思う。けれど、今の状態だといずれは俺も侵食されて、ミラベル達のようになるだろう。そうなったら、本当に全てが終わりだ。


 その光景を想像して歯をギリッと鳴らしていたその時、ノドカから小さく息を吐く音が聞こえた。



『大丈夫だよ、ゴドフリー君。私にも対策はあるから』

「え?」

『これも本当はティアさんから教わった事なんだけど……ゴドフリー君、隣に私がいる光景を想像しながら聖なる力を高めて』

「隣にノドカが……わかった、今はそれしかないし、ノドカの言葉だから信じてみる」

『うん、ありがとう。それじゃあ行くよ、ゴドフリー君!』

「おう!」



 そう言ってから俺は隣にノドカがいる光景を思い浮かべながら俺の中の聖なる力を高めた。すると、高まった聖なる力が俺の中からどんどん出ていき、それが俺の隣に集まり出すと、それはノドカの形に変わった。



「の、ノドカ……!?」



 ノドカの形をした物は俺を見ながら微笑んで頷くと、そのまま形を変えていき、やがて一振の刀に変わった。


 そしてその刀を掴むと、さっきまで感じていた痛さや苦しさがスーッと消えていき、体の奥底から力が沸き上がってくるような感覚がした。



「何だこれ……体の奥底から力が沸き上がってきて、まだまだ戦えるって感じがする……!」

『届いたみたいだね。私の和神としての力が』

「ノドカの力……」

『うん。今渡したのが私の、そしてあらゆる和神の力の集合体で、それとゴドフリー君の勇者としての力が組み合わさった事で出来上がったのがその刀。

その刀には破邪の力が宿っていて、聖なる力と勇気を持ち合わせた者にしか扱えないってティアさんが言ってるよ』

「言ってるって……え、女神様も近くにいるのか?」



 ノドカの言葉に驚いていると、女神様がクスクス笑う声が聞こえてきた。



『はい。ちょうど勇美さんの休憩時間でしたので、学校の屋上まで来て頂いて今こうしてゴドフリーさんの状況を見ている状態です』

『エリクシオンではゴドフリー君は今一人かもしれない。でも、見えないけど私達だってついてるし、きっと仲間の人達だって助けを求めてる。だから、最後まで頑張ろう。私達に、そしてエリクシオンに本物の勇者としての力を見せつけて』

「ノドカ……」



 ノドカの言葉を聞いた後、俺は破邪の刀をしっかりと握った。初めて持ったはずなのに破邪の刀はとても手に馴染み、まるでこれまでずっと使ってきたかのように握り心地が良かった。



「俺の力とノドカ達の力が合わさったこの刀の力、見せてやるよ! 王子!」

「グルァーッ!」



 王子だった物は大きな唸り声を上げると、再び俺に触手を伸ばしてきた。それに対して俺は刀を鞘から抜き出し、その勢いのままに触手を切り裂いた。



「グゥ、グガァーッ!」

「よし、効いてる! だったら、このまま行ってやる!」



 気を抜かないようにしながら俺は再び破邪の刀を振るい、伸ばされる触手を次々に切り裂いた。そして触手を切り裂きながら王子だった物に肉薄した後、俺は破邪の刀に俺の中の聖なる力を籠めながら頭上へと振り上げた。



「これで……終わりだぁーっ!」



 その声と同時に俺は破邪の刀を振り下ろした。破邪の刀の刀身は王子だった物の肉体を真っ二つに斬り、地面まで切っ先が到達した瞬間、王子だった物を包むように地面からは白い光の柱が空へ向かって伸びた。



「グギュ……グバアァーッ!」



 耳を塞ぎたくなるような恐ろしい声を上げながら王子だった物は天を仰いだ。



「イ、イヤダ……ボクハ、シニタクナンテ……!」

「……誰だって死ぬのは嫌だよ。けど、お前はそんな死にたくない人達を自分の勝手な考えで殺そうとしたり大切な人を奪おうとしたりしたんだ。その罰を受けろ、王子!」



 そう言ってから俺は破邪の刀を横に一振りする。破邪の刀が王子だった者の肉体を更に両断すると、その軌跡は光の十字架となり、王子だった物を少しずつ消し去り始めた。



「ギッ、ギャアァーッ!」



 そんな声と共に王子だった物の肉体が完全に消え去ると、光の十字架は空へと上がっていった。そして砕けて光の雨になると、そのまま俺達に降り注ぎ、それを浴びたミラベルやカルヴィン達の肉体や顔色は徐々に戻っていった。



「……あ、あれ……」

「も、戻ってる……」



 その様子を見て俺はホッとすると同時にその場に座り込んだ。



「終わった、な……」



 みんなを助けられた事、そして王子を倒して世界を危機から救えた事に安堵し、俺は晴れ渡る空を見上げて小さく独り言ちた。

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