第47話 友神

「ふう、着いた」



 神庭に着いた事を確認すると、私はすぐにゴドフリー君の家に向かおうとした。けれど、不思議な事になんだか体に違和感を覚えていた。



「なんだろう……いつもと何かが違うような……?」



 疑問に思った私はすぐに近くの小川に近づいて自分の体を見てみた。すると、すぐにその違和感の正体に気づく事が出来た。



「……えっ!? わ、三神勇美わたし!?」



 水面には神野和ではない私自身の姿が映っており、どうしてそんな事になっているのかと思った時、私はさっきの出来事、そしてティアさんのある言葉を思い出した。



「そういえば、そのままで出発って書いたボタンが出てたし、ゴドフリー君が私の姿を見てみたいって言ってたような……」

「……あれ? そこにいるのはもしかしてノドカか?」

「え?」



 その声に驚きながら振り返ると、そこには不思議そうに私を見るゴドフリー君の姿があった。



「ゴドフリー君……」

「この声、やっぱりノドカか。いつもと姿が違うからちょっと驚いたぜ」

「あはは……なんかガーデンコントローラーにこの姿でここに来られるボタンがいきなり出てきてて、何かと思って押したらこの姿のままだったんだ」

「ああ、なるほどな。女神様、この件が片付いたらって言ってたけど、もう追加してくれたんだな」

「うん、そうみたいだね」



 ゴドフリー君が笑みを浮かべながら言う中、私は少しだけ恥ずかしさを感じていた。神野和ではない姿を初めて見せたというのもそうだけど、今は幼稚園の時のお泊まりくらいでしか同い年くらいの子に見せた事がなかった寝間着姿だった事もその理由だった。


 そして私が何を話した物かと考えていた時、ゴドフリー君は私の姿をゆっくりと見始めた。



「ご、ゴドフリー君……?」

「ん……ああ、ごめん。いつもとは違う姿だったからなんか新鮮でさ」

「たしかにいつもは神野和として会ってたからね。ゴドフリー君は今の三神勇美としての私といつもの神野和としての私のどっちが好き?」

「どっちも好きだぞ。姿こそ違ってもノドカはノドカだからな。それに、こっちの姿のノドカも可愛いぞ」

「ゴドフリー君……」



 ゴドフリー君の言葉に嬉しさを感じると同時に少し照れていると、ゴドフリー君も少し照れたように顔をほんのり赤くしていた。


 そして二人揃ってしばらく黙っていた後、ゴドフリー君はその顔のままで静かに微笑んだ。



「とりあえず話聞くよ。何か話したい事があったんだろ?」

「あ、うん。実は……」



 そして私は、ゴドフリー君にVTuberを辞めるべきかどうかについて話をした。話を聞いている間、ゴドフリー君は一言も話さなかったけれど、話し終えた瞬間にゴドフリー君は私の事を優しく抱き締めた。



「ゴドフリー君……」

「……今までやってきた事だからこそやっぱり辞めたくないよな。俺はVTuberじゃないけど、ノドカのその辛さはわかりたいと思う。よく相談してくれたな」

「うん……お母さんとお父さんは続けてほしいけど最終的には私にに任せるって言ってくれたの。でも、そんな二人にも何か起きたらと思ったらやっぱり続けられないなと思っちゃって……」

「ノドカは本当に家族を大切にしてるからな」

「今までいっぱい愛してきてもらったからね。ゴドフリー君はどう思う? やっぱり私次第なのかな?」



 私の問いかけにゴドフリー君は静かに答える。



「そうだな。俺もそう思う」

「そっか……」

「でも、もう一つの可能性があると思うんだ」

「もう一つの可能性?」

「ああ。そのVTuberの活動って続けるか辞めるしか物じゃないんだろ?」

「あ、うん……休むっていうのは出来るかな。活動休止っていう形にはなるけど……」



 もちろん、活動休止はVTuberには珍しい事ではない。ただ、その場合は大抵が何かをやってしまった場合というイメージなので、正直あまり良い印象はない。


 けれど、私がやろうとしている配信を最後に一度活動を休止して、少し落ち着いてきたら活動を再開するというのは別に悪い事じゃない。私だって今後についてちゃんと考える時間は必要だからだ。



「だったら、それでも良いと思う。さっきも言ったけど、ノドカはノドカだ。だから、その間はノドカじゃなくイサミとして色々楽しんで、その後はまたノドカとしてみんなのために頑張れば良いんだよ。それくらい、新神の奴らだって許してくれるって」

「……うん、そうだね。あと、そこまで許してくれる人達なら、もう新神っていう言い方じゃ良くないかなって思うんだ」

「ん、って事は新しい名前にするのか?」

「うん。これまでは私の後輩として新しく生まれた神様という事で新神にしてたけど、これからは私の友達の神様って事で友神ともかみって呼ぶ事にするよ。もっと近い距離で色々な話を聞きたいからね」

「友神か……ああ、良いと思う。きっと、新神……じゃなかった。友神の奴らも喜ぶよ」

「因みに、その第一号はゴドフリー君だよ。関係性としては恋人同士だけどね」



 その言葉にゴドフリー君は驚いた様子だったけど、すぐに嬉しそうに笑った。



「それは光栄だな。よし……それじゃあ改めてお互いに自分の未来へ向かってまた歩いていこうぜ、イサミ」

「うん!」



 ゴドフリー君の言葉に頷きながら答えた後、私は夜空を見上げた。空には星が輝いていて、まるで私達のこれからを祝福してくれているように見えた。


 私達の求める未来の途中には色々な障害があると思う。でも、このまま歩いていこう。たとえまた迷っても相談出来る人がいるし、立ち止まる事だってもう怖くないから。


 ゴドフリー君と空を見上げながら私は神野和を救うためのやる気を静かに高めた。

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