和神VTuberと追放勇者の箱庭開拓スローライフ~和神VTuberだった私が追放勇者の女神になった話~

九戸政景

第1話 始まり

『皆様、乙神様です。和神VTuberの神野かみののどかでございます』



 画面の向こうにいる視聴者へ向けて私は呼び掛ける。画面上には動画サイトの配信画面が映っていて、右側には視聴者の人達から来た書き込みが表示される欄があり、下には『神野和の神託の夜会』というタイトルや観てくれている視聴者の数が、そして画面の左の一番大きな部分には月が浮かぶ夜空をバックにどこかのお屋敷の一室に正座をしている紺色の着物姿の長い黒髪の女の子が映っていた。



『おつがみー』

『乙神様ですー』

『和様、本日もよろしくお願いします』

「はい、よろしくお願いします。皆様、最近寒くなって参りましたので、お体には気をつけて下さいね。この時期に体調を崩してしまうと、治るまでにかなり時間をかけてしまいますから」



 私が話すのに合わせて画面上の女の子も同じ事を喋り、視聴者の人達からはそれに対しての返事が次々と寄せられてくる。


 この女の子は和神VTuberとして活動している神野和であり、私こと三神みかみ勇美いさみのVTuber活動の相棒だ。この神野和は日本新話の神様達がそれぞれの力を集めて現代に作り上げたまだまだ若い女神という設定を持っていて、デザインは誰かに有償で依頼する程の余裕もなかった事や私自身が小さい頃から絵を描くのが好きだった事から私が自分で描いている。


 私がVTuberを始めたのはあるVTuberの配信がきっかけだった。およそ一年前の中学三年生の頃、受験生として一に勉強二に勉強、三四も勉強五に勉強、と勉強がメインの生活をしていた事で少しずつストレスがたまり、イライラをどうにかするために息抜きとして動画サイトを巡っていた時にそのVTuberを偶然見かけ、VTuberという物の名前しか知らなかった私は何となく興味が湧いて観始める事にした。


 その結果、私は驚く事になった。VTuberの人はしっかりとそのキャラを守りながらも視聴者の人達からの問いかけや言葉に答え、それでいて内容自体もまったく退屈させない物に仕上がっていたからだ。


 VTuberと言っても、アニメのキャラクターみたいにただ声を当ててるだけの配信者なんだろうと考えていた私は心から反省すると同時に私も同じように今の自分とは違う新しい自分と共に色々な人と繋がりたいと思うようになった。


 そして他のVTuberの配信や動画も息抜きとして観ながら受験を頑張った結果、無事に志望校に入る事が出来、私は自分へのご褒美としてこれまで何に使うでもなく貯めてきたお小遣いを使ってVTuberとして配信を始めるための設備を整え、高校一年生の頃から和神VTuberの神野和として友達には内緒で活動しているのだ。



「次のお悩みは……なるほど、何をするにも興味が湧かないけれど趣味は欲しい、ですか。これが最善かは私もわかりません。ですが、様々な物に触れ、その中で少しでも知ろうと思えた物をまずは始めてみてはどうでしょう?

興味が湧かない物ばかりなのは、あなたが出会うべき物がまだ近くにないから。ですので、まずは世界にはどのような物があって、それはどういった物なのかを調べていき、その中でこれはと思えた物を選ぶ。それが私から出来るお告げです」



 その助言に質問者は喜んでくれ、他の視聴者さんからも流石だとか勉強になるだとか色々な言葉で褒めてくれていた。


 これが私、神野和の主な配信内容であるお告げという名の人生相談だ。神野和は日本神話の様々な神様の力を受け継いだ新米女神であるため、その神様達が司る物についての力もあるが、一番得意なのが生まれつきもっている相手の進むべき道をお告げとして示すという力だ。


 これはあくまでもただの人生相談に過ぎないし、私も普通の人間だからそんな力が本当にあるわけじゃない。


 だけど、まだ新米だから最善かはわからないと前もって言った上でこれだと思えた事を話すだけでも相談者達からは喜ばれていて、その人達からすれば話を聞いてもらえるだけでも助かっているのかもしれない。


 ただ、不思議な事にその助言は結果としてその人達の悩みを解決しているようで、その人によってどれだけ助かったかは様々だけど、その人達が次の配信の際にそれを報告してくれるから私の雑談も兼ねたお告げ配信は少しずつ話題になり、今では多くの人に観てもらえるようなコンテンツになっていた。


 個人的には歌を披露したりゲームの実況をやってみたりしたいけど、こうして視聴者から喜んでもらえるお告げ配信の方が性に合っているし、これからも話を聞いて色々な人を助けたいと思っていた。



「それでは、本日最後のお悩みに参りましょう」



 そう言ってから私はふと目についたコメントを読み上げた。けれど、このコメントがまだまだちっぽけな私の人生を大きく変え、新米女神を名乗る人間から本当の女神に変えてしまうとはこの時の私は思いもしなかったのだ。

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