ナナちゃんと夕鶴
どさっ!
玄関前で何かの倒れる大きな音がしました。
普通の小さな女の子でしたら、怖がって近づかないか、大慌てで大人を呼びに行ったりする事でしょう。
しかしそこは沈着冷静な我らがナナちゃん、躊躇せず玄関へと向かいます。
勢いよく扉を開けると、そこには真っ白な服で身を包んだ細身の女性が顔面蒼白で倒れていました。
「お姉さん、大丈夫?とても顔色が悪いわ。ちょっと中に入って休んでいって下さいな」
「お嬢さん、有難う。ごめんなさいね、お言葉に甘えて、少し体調が整うまでお邪魔させて頂きます」
「いいのよ、お姉さん。あ、あれ、あれでしょ?『じ、持病の癪が〜っ』て奴でしょ? 本物見るの初めてだから興奮するわー!テンション爆上がり」
ちょっと、ナナちゃん何言ってんの!
失礼だよ、時代劇の見過ぎだよぉ。
馬鹿なこと言ってないで早くお姉さんを家に入れてあげなよ、早く横にならせてあげなよ〜。
「このスケベ!横にならせて何するつもり!」
いやいや、体調不良が治るまで安静にしてって言ってるだけだよ。俺を何だと思ってるんだよ。
「ふん、白癬菌の分際でナナに口答えとはいい度胸ね、、、」
「あのう、お嬢ちゃん、誰と話してるの?それとお家に入らせて貰って良いかしら?、、、」
「あら、お姉さん。本当にごめんなさい、もうホントにこのイカレポンチのせいで、、、。さ、さ、どうぞお上がり下さい」
「ありがとうお嬢ちゃん、私は『つう』と申します」
「私はナナだよ。時間も空間も飛び越えて活躍する、ただのスーパーキュートな女の子だよ。そして、そっちの黒子は家ダニ改め白癬菌のお兄さんだよ。あっ、ひょっとして見えない程の感じ、、、?」
「えーっと、ちょっと何言ってるかわからない」
おつうさん、戸惑いながらも家に上がるとリビングのソファに横になります。
しばらくののち、、、
「ナナちゃん、本当に有難うございました。おかげ様ですっかり楽になりました。少しだけお礼をさせて頂きたいので、お庭の倉庫をお借りします、、、」
おつうさんは。ナナちゃんの返事も聞かずに、校倉造の倉庫へ向かいます。
「決して、中を覗かないで下さいね、絶対、ずうえったいですよー!」
何だか『おつうさん』ちょっとキャラが変わったみたい、言い残すとぱたんと扉を締めて、やがて聞こえて来る
『トントンカラリ、トンカラリ』
何やら昔話で聞いた事のある効果音。
一刻ほどの後、おつうさんが倉庫から出て来ました。
両手に白い反物を持って、そして何と見た目にハッキリと分かるほど、おつうさん『激ヤセ』です。
「ねえ、おつうさん、大丈夫?
まるで骨川筋右衛門だよ。命の蝋燭が消えかかっているわよ」
「ナナちゃん、私にはこれしか出来ないの。どうか、これを受け取って下さい」
「おつうさん、分かったわ。ありがとう、頂くわ。でも替わりにこれを貰って下さいね」
ナナちゃん、何処から取り出したのか鮮やかな金襴緞子の織物を手にしております。
ナナちゃん好みの昇竜の柄が見事に描かれています。
「ナナ、最近織物に凝っててさぁ。これ、昨日織ったんだよねぇ。はい、交換」
おつうさん、首を傾げながらも『昇竜の柄の反物』を手に帰って行きました。
、、、南陽市漆山地区で背中に『昇竜』を纏ったタンチョウの姿が目撃されるのは、少しばかし後のお話です。
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