第三節:作戦コードは「X」

 鯖江連隊がレフ・ブロンシュテインをかくまっていた頃のことである、1942年1月に東部戦線の落ち着いたドイツ軍は西部戦線の収束計画を開始、占領下のフランスからも志願兵を募りイギリス攻略作戦を練り始めた。とはいえ、ゼーレーヴェ作戦をはじめ、作戦はすでに練られている。では何を練り始めたかというと……。

「エニグマが見破られているとはな……」

「確証はありませんが、まず間違いは無いかと」

 エニグマ解読班がイギリスに存在することまでは、彼らも把握していたが、諸作戦の敵の対応の結果、おそらくはそういうことであろう、ということを遅まきながら把握し始めていた。

 しかし、エニグマの代わりはすぐには開発できない。ではどうするか。情報大臣をはじめとした暗号構築を司る部署が策を練り直している最中、ある特務機関が、極秘任務を発動させようとしていた……。


 1942年1月19日、太平洋方面では第一次布哇沖海戦が行われている最中のことである。今はもはやただの後方支援部隊うらかたであったはずの突撃隊に久々の軍事動員が下された。とはいえそれは後方攪乱に過ぎず、今まで同様の日陰者うらかたである、そう、そのはずだった……。

 突撃隊がアラン・チューリングを発見し、逮捕したという一報を総統私室にもたらした際に真っ先にヒトラーが言い放った言葉は、以下の通りだった。

「腐っても鯛という言葉があるらしいが、突撃隊もまだ使えるのだな」

 以後、ヒトラーは突撃隊の再編を命じ、親衛隊に続く第二機関として活用させ始めるのだが、とはいえそれは後々の話。アラン・チューリング逮捕の瞬間は次回以降に回すとして、ゼーレーヴェ作戦の補弼作戦として立案された、通称「ピングイーン作戦」は概ね以下の通りであった。

 1.チャーチルの逮捕ないしは殺害

 2.エニグマ解析班の逮捕ないしは殺害

 3.アイルランドへの親独政権樹立

 そのうち、突撃隊に与えられた任務は第2任務であり、つまりはアラン・チューリングらの殺害ないしは生け捕りデッドオアライブであったのだが、彼達は見事にその任務を果たしたことになる。ちなみに第1任務を振られたのは親衛隊で、第3任務はアーネンエルベが受領することとなった。

 今でもアイルランドでドイツ語が通じるのは上述の親独政権が樹立されたからだともささやかれているが、アーネンエルベはそれを笑って否定している。というのも、彼達がアイルランド親独政府を樹立した際に指定した公用語はドイツ語ではなくもはや発音すら定かではない古ケルト語であり、アイルランドの民族精神に火を付けるためとはいえわざわざドルイドの生き残りやケルト話者を捜し当てて教本にしたのだからどこまでしたたかであったのか。

 そして、チャーチルの逮捕ないしは殺害という困難な任務を命ぜられた親衛隊であったが、その首尾とは……。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る