第二章:1942年2月~6月の大局
第一分節:アメリカ合衆国の錯乱
1942年1月も下旬のことである。19日までの戦闘詳報……すなわち、第一次布哇沖海戦の「殲滅戦」を始め、シアトルにおいて行われたB-17の機体接収およびボーイング製造所の復旧の絶望化、更にはカリフォルニア州への進軍を伺う日本軍の司令偵察機による上空からの日系人絶滅収容所の撮影など、多種多様な
何せ、日本軍を追い落とすための太平洋艦隊が文字通り追い落とされたのである、否、追い落とされたなんてレベルではない、太平洋艦隊はその全てが損傷しており、さらに言えば各地に散らばってしまっておりかき集めるのにも一苦労する有様であった。唯一の救いとしては、そのほぼ全てが旧式戦艦による被害であったためまだ溜飲も下がる状態であった(何せ、彼等はノースカロライナ級などの新鋭戦艦を現在建造中である)が、彼等も気づかないうちに深刻な被害は押し寄せていた。何せ、太平洋艦隊が所有する航空母艦はその全てが沈んでしまったのである。これは仮に敵が航空部隊で攻撃した場合、本土以外で防御ができないことを意味していた。
だが、それすらも実際のところ問題ではないほどの損害を合衆国は負うこととなる。もとより棍棒外交やドル外交、あるいは宣教師外交などで国際的名声などないに等しい合衆国であったが、ルーズベルトの陰謀とでもいうべき外交文書が公開されたことによって、合衆国の国際的名声は地底にまで潜ることとなる……。
以左は、大統領と海軍部長と陸軍部長の会話を記録したものである。
「それが、海戦の顛末かね」
「イエス・サー・プレジデント」
「……それで、敵に与えた被害は」
「……駆逐艦が四隻ほど撃沈させました」
「……他には!」
「航空機も、それなりには撃墜し得たかと」
「その! 対価が! これかね!」
「……だから、早すぎたと言っているんです!」
「なんだと!」
「せめて、ニューディール政策の可否が出るまで開戦は待つべきでした。それに、新型戦艦もまだ残存しております、勝負はこれからです!」
「そんな言い訳、誰が信じるかね!」
「しかしっ……!!」
「お二人とも、落ち着いてください」
「これが落ち着いていられるかね!」
「何、相手は持久戦になれば非常に困るはずです。それに……」
「それに!?」
「パナマ運河の復旧の目処が立ちました。1943年度末には間に合うでしょう」
「……今が、何年何月か解っているかね?」
「どんなに突貫工事を行ったとしても、二年はかかります。その二年の間に、敵軍を撤退させるように操ることが出来れば、勝てます」
「……その、勝算は!」
「……時間さえあれば、勝てます」
「……私には、その時間が無いのだがね……。これ以上西海岸に被害が及べば、私は合衆国で初めて弾劾裁判によって引きずり下ろされた汚名を背負いかねない!!」
「……ははっ」
……実際のところ、確かに時間さえかければ国力の都合上、勝つのは合衆国であろう。だが、その戦勝の時間を稼ぐまでの被害に彼等が耐え切れれば、という前提はつくのだが。
そして、早くもカリフォルニア州知事が悲鳴を上げ始めていた。無理からぬことだ、日系人絶滅収容所の撮影写真がばらまかれたことは何も人道的作戦だけではない、事実上カリフォルニア州の制空権を大日本帝国が握っていることが確定した瞬間であったからだ。
そして、大日本帝国は早くも「非道なる合衆国の絶滅収容所」というリアリィ・プロパガンダを作成、NSDAPの隔離収容所が今なお一方的に非難できないのも、合衆国が同じ事を日系人に対して行ったという証明が行われた結果、「お前が言うな」という非難が囂々と轟いたからである。
……大日本帝国にしては、珍しく手際の良いプロパガンダが行われたことに疑問符が付く読者の方がいらっしゃるかも知れないので、一応次の事実を記述しておく。……陸軍中野学校の設立は、開戦前に既に行われている。その事実を以て、一応の説明としておきたい。
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