第九分節:もう鬨の声しか聞こえない(仮題)

 前回は少々未来に起こるアシカ作戦を勢い余って記述したが、話の時刻を支那解放の辺りまで戻すことにしよう。

 ……支那を解放して突如として発生した余裕は、各地の戦線を緩和ないしは楽観させるのに充分であった。場合によってはオーストラリアに陸兵を割く余裕も出来るし、さらに言えばソビエト連邦相手の戦争も兵力不足や連携の不徹底のような悪条件でもなおノモンハン事件のような引き分けにはならないであろう予測も立つ状態であった。そして、何よりも舎路を足がかりとしたアメリカ合衆国相手の戦争には兵隊の数はいくらあっても足りないだろう。斯くて、彼達は新しい戦場へと引っ張られることとなる。……ヨーロッパの激震は、その後に起きるわけだが、それを知るのは神仏と後世の人間、そしてその後世の人間の中の叙述者だけであった。

 そして、その戦線の行方とは……。

「それは、可能なのか」

「ノモンハン事件が引き分けだったわけですから、可能でしょう。なにせ今度は、無敵関東軍の全部隊がバックにつくわけですから。」

「それは、そうかもしれないが……」

「それよりも、今しか機会はないと考えるべきかもしれません。盟邦によってソ連邦の中核部分が叩かれた以上、シベリアの資源地帯を刈り取れるだけ刈り取ってしまいましょう。そして……」

「そして?」

「舎路にアメリカ合衆国が気を取られている隙に、ベーリング海峡を横断致します。何せ、海軍が責任を持って運搬するそうですから」

「……まあ、よかろう。それは掛け合っておく。そんなことより……」

「勝てますよ、今ならば」

「……そうか」

 かくて、前線の将卒はシベリアを踏破しベーリング海峡を抜け、アラスカへ戦略的奇襲攻撃を掛けるのだが、それはまだ先の話。

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