第十一節:第一次布哇沖海戦(十一)

 1月19日、合衆国軍太平洋艦隊戦艦部隊は航空機の護衛を受けることなく布哇沖にやってきた。無論、本来ならば航空機の餌食となるその航路であったが、帝国海軍は帝国海軍で、航空機の離陸を行わない事情が存在していた。それは……。

「では、かねてよりの手はず通り、航空機による撃沈は狙わない、と」

「まあ、そういうことになる。無論、最後の手段として取っておくが、航空隊員の諸君は訓練に励み、士気を養っていてくれ」

「はあ……、しからば、そのように致しますが……」

「不服なのは、理解しているとも。だが、今ここで航空優勢の事実を敵軍に悟られてはいかん」

「ははっ」

 ……一応、航空隊による艦艇攻撃は最後の非常手段として取っておくこととした連合艦隊首脳部は、行いたくて仕方が無い行動……すなわち、戦艦部隊同士による艦隊決戦を行うこととした。無論、その際に航空隊は艦艇に攻撃を行わないだけで、弾着観測や偵察行動などは許可されていた。無論、撃沈を狙うのではなく損傷を目的とした攻撃は、黙認されていた。

 そして、飛行艇や陸攻といった大型の航空機が試作品である電探――布哇基地占領の副産物とも言える――を搭載して、その代わりに魚雷や爆弾といったものを降ろして偵察任務に向かった。電探の確かさを証明するための行動であると同時に、敵へのブラフ的なものもになったものであった。……お忘れかも知れないが、電探、すなわちレーダーとは大日本帝国の発明品である。基礎工業力の不足などもあって量産はできないのが現状であるが、それでも理論は帝国の研究員無くしてはこの時代において未だ存在し得なかった可能性のある技術といえた。

 さて、合衆国軍太平洋艦隊戦艦部隊は空母部隊の撤退ないしは壊滅を理由として退くことは考えていなかった。と、いうのも、合衆国は実はある欠陥を基に戦術を組み立てていた。と、いうのも、戦役初期の合衆国軍は魚雷兵器において開発に失敗していた。無論、基礎工業力の充実した合衆国のことであるから財力による力業でなんとかしつつはあったのだが、未だにまともな魚雷兵器を作り出すのに苦労している有様であった。一応、イギリスからの技術輸入の後にはそれなりの物が作れていたのだが、裏を返せば彼等は独力ではそこまでの発明品を開発できない程度の脳みそであったのだ。読者世界において、合衆国が技術を多く出せているのは、NSDAPの技術を盗んだり、高額の褒賞で技術員を引き抜いたりしたことが大きく、さらに言えば読者世界の映画などで代表面をしている自動車産業も、別に合衆国が発明したものではない、自動車の発明は、今なおドイツであると歴史は証明している(一応、フランスであるという説も存在するが、どちらにせよ合衆国ではない)。

 話が逸れたので、布哇沖海戦に戻すが、合衆国軍太平洋艦隊戦艦部隊は、帝国海軍の航空隊が偵察に来ても、特に何もしなかった。一応、対空砲の威嚇射撃程度はしたらしいが、今なお航空機による攻撃では戦艦や空母といった大型艦艇は撃沈し得ないというのが、世界の常識であった。そして、帝国軍はその「常識」を敵国、すなわち合衆国軍などに誤認させ続けるために、わざわざ航空隊を引っ込めた戦を行うことにした。……一応、タラント空襲において、イギリス軍がイタリア軍の艦艇を撃沈しているのだが、軍人の全員が戦争結果から常に戦訓を引っ張り出せるのならば、読者世界でも大日本帝国は今なお健在であるはずだ。有能か無能か、というよりは、戦争結果から戦訓を常に引っ張り出せることの難度というものを記述したかっただけである。

 さて、布哇沖に存在する戦艦部隊は以下の通りである。

 帝国海軍側

 扶桑、山城、伊勢、日向

 合衆国海軍側

 アリゾナ、ネバダ、オクラホマ、ペンシルベニア、カリフォルニア、テネシー、メリーランド、ウエストバージニア

 丁度、倍であった。ただ、帝国海軍としては戦艦だけに限定した場合敵軍の半分というだけで、守備側であることと、さらに言えば巡洋艦や駆逐艦などまで揃えれば、それなりに善戦出来る数は揃えていた。そして、結果から言えば合衆国軍太平洋艦隊が壊滅的打撃を負うのだから、戦闘には勝ったわけで、それは今から語ることとなる……。

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