第八節:第一次布哇沖海戦(八)

 口火を切った一航艦の参謀が質問したのは、以下の内容であった。

 ・今回、潮時にもかかわらず攻撃の完遂(=すなわち、敵空母部隊の殲滅)を行わなかったのはなぜか

 ・わざと、敵の攻撃を受けたのはなぜか

 ・そもそも、ここまでのお膳立てをして、この戦果では皆納得していないが、何か深い理由があってのものなのか

 ……憤懣やるかたないのは、皆同じであった。だが、上意下達は軍隊の基本であるし、連合艦隊司令長官直々の作戦命令であったこともあり、彼等は憤懣を敵にぶつける形で発散していたこともあって、それでも疑問に思い、傲岸な人物で知られる彼に責任を押しつける形で、まあ尤も本人もその役を買って出たのだが、異見することにしたのだ。だが、それに対して長谷川はひょうひょうとした態度で返答した。

「順を追って説明しよう。今回敵空母を沈めるのは予定の内だ。だが、それを航空攻撃で行わない理由も、一応存在してな。……折角だ、今回の作戦を立てた参謀に説明して貰おうじゃないか。……入ってこい」

「ははっ」

 長谷川長官へのもはや詰問と言っても良い緊張感のある場に出された「あわれないけにえ」は、眼前の長官同様に緊張感を感じさせない態度で、トビラを開けて色気のある(=見事な)敬礼をした後に、自己紹介を行った。

「石原二郎と申します、以後お見知り置きを」

 石原二郎、石原莞爾の弟にしてこちらも賢才で名高い将校であった。読者世界では不運なことに北海道近海で何らかの理由により泉下へ潜ったが、叙述世界においては別の任務が下ったのか、それはわからない(=設定していない)が、命冥加を得て、連合艦隊の参謀職に座ることに成功していた。

「……と、いうわけだ。石原君、説明をお願いしたいが……」

「畏まりました。本作戦の骨子は確かに合衆国軍の空母部隊を覆滅することで間違ってはおりません。しかし、航空部隊諸君にあえて空母部隊の撃滅を指示しなかったのには理由がいくつか御座いましてな。……東洋艦隊撃破の際にわざわざ夜間空襲を行った他にも、現在航空部隊が戦力になると敵方に確信されては拙い状況もあり、あえて大型艦を撃沈せずに放り出しております。それに……」

「それに?」

「合衆国軍の空母部隊は、そろそろ全滅致します。想定通りに行けば、という前提はつきますが」

 そして、石原二郎はある確信を以て合衆国軍空母部隊の全滅を予言した。その根拠とは……。

「……それはいかなる「長官、やりました!合衆国軍空母部隊の全ての撃沈を確認、また戦艦部隊にもいくばくかの損害を与えた模様です!」……なんだと!?」

「お後が、宜しいようで」

 片目をつむり、制帽を被り直して作戦の成功を確信した石原二郎は、説明を追加する必要があるか、と思い額に指を当てて考えるふりをしていた。まあ尤も、彼の脳裏には初めからそこまでの青写真がかけていたらしいのだが。

 ……さて、そろそろ読者の方が置いてけぼりになりかねないので、戦場カメラを合衆国空母部隊と戦艦部隊を映し出す位置にまで戻してみたいと思う。その日時は、概ね1月18日の午後辺りに値する時刻であった……。

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