第六節:第一次布哇沖海戦(六)

「……と、いうわけです」

 マクラスキーは、母艦に帰還するや意見具申を申請、空母部隊の司令官に報告と共に妙な状況であることを発言した。

「……確かに、そいつぁ妙だな。まるで……」

 マクラスキーの報告は以下の通りだ。

 ・日本軍が警戒のための見張りすら置いていなかったこと

 ・反撃の発砲炎が観測されなかったこと

 ・それどころか、迎撃機が一機も上がってこなかったこと

「司令官!」

 と、マクラスキーの報告の最中に艦橋に飛び込んできた人物がいた。服装と階級章からして、恐らく見張員であろう。

「どうした、……まさか!」

「敵航空隊発見、その数多数!」

 ……その正体とは言うまでも無い、淵田達であった。


「空母は痛めつける程度で良い、護衛艦を狙え!」

「ははっ!!」

 合衆国軍空母部隊の航空隊が布哇を攻撃した時刻から数えておよそ90分後、1月17日7時23分のことである。淵田美津雄率いる一航艦攻撃部隊第一波は、合衆国軍布哇侵攻艦隊の空母部隊に攻撃をかけた。――間違いなくそれは、奇襲であった。

 爆撃隊は急降下の準備に入ると共に、空母ではなくまず護衛部隊――すなわち、防空巡洋艦や駆逐艦など――を狙うことになった。一方の雷撃隊は、必殺の間合いではなく、ある程度離した間合いで魚雷を投下、と同時に軽くなった機体で空母目掛けて突進した!……間合いを離したのは、無論臆したからではない、彼達に与えられた雷撃任務は、撃沈させることではなかった。なぜなのか。それは……。

「想定通り、航空母艦の傾斜に成功させました。撃沈も狙えましたが……」

「大丈夫だ、これでいい」

「……ですな」

 ……彼達に与えられた任務として今なお有名なのが、「空母を使用不能にせよ、但し撃沈は狙うな」というものであった。一見不可解に見えるこの任務は、一体なぜであるか。航空隊の攻撃では大型艦は沈められないことを錯覚させるため? それもある。航空隊員に深追いをさせないため? それもある。だが、それは一面に過ぎない。一見不可解に見える任務の理由、それは……。

「それでは、死人がいないうちに撤退せよ!」

「ははっ!!」


「……敵航空隊、去って行きます!」

「……莫迦な」

    莫迦な、俺ならもっと攻撃を徹底させるが……。連中は臆したのか? いや、それはない。臆しているような連中が俺の目視できる距離まで近づいて甲板をフライパスするものか。考えろ、なぜ連中はこんな不徹底な攻撃をした!? こんな奇襲は一回しかできないだろうに!


「司令長官、航空隊はうまくやってくれたようです」

「そうか。……つるし上げられることも覚悟せねばな」

「……さすがに、それはないのでは?」

「恐らく、航空隊員の中には主旨を理解していない者もいるだろう、説明はしたが、のちほどじっくりと話し合わねばな」

「はあ……」

 なぜ、このような珍妙な命令が通ったのか。そろそろ、「第一次布哇沖海戦」の骨子を説明する必要があるだろう……。

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