感想戦ノ弐:ドイツ軍から見た第一次ベンガル湾海戦

 第一次ベンガル湾海戦は、実際のところドイツ軍から見れば一番客観的に語れるかもしれない。なぜならば彼らは、Uユー-bootボートで海戦の初動を握った後は、基本的になにもしていなかったからだ。

 と、いうのも、そもそも日本軍がUボート部隊に依頼した行動は潜水艦がそこにいると錯覚させて海中へ意識を向けさせるという陽動作戦に過ぎず、Uボートにも「危なくなったら逃げて良い」と許可を出していたこともあって、Uボートは一応依頼通りイギリス東洋艦隊に対して攻撃するふりをして気を引くなどはしたのだが、魚雷を一発も放つこと無く、そして適当に戦った後に引き上げた。

 その後も一応、海戦を行っている間は観戦武官宜しく第一次ベンガル湾海戦の推移を見ていたのだが、航空攻撃が始まってラダール(ドイツ語で、「電波探信儀レーダー」の意)がかき乱され始めると依頼を達成したと判断して当初の予定通り戦場から離れて安全圏まで退いた後に帝国海軍の潜水艦部隊へドクトリンの提供を行い始めていた。だが、さしもの彼らもかのロイヤルネイビーが、東洋艦隊とはいえ一晩で殲滅の憂き目に遭うなどとは想定しておらず、一通りの即席の潜水艦学校を開いた後にインド洋から帰路につこうとして、一向に敵艦隊、すなわちイギリス海軍の艦艇と出くわさないことに若干疑問を浮かべていたという。

 ……そして、彼らが第一次ベンガル湾海戦の戦闘詳報を上陸した後に知るのは1月も下旬になる頃であった。その頃には、太平洋で起こった一大海戦、すなわち第一次布哇沖海戦が発生しており、その詳報を陸上で聞いた結果、ドイツは大規模なウルフ・パックを太平洋にも持ち込むことを決定した。

 何せ、パナマ海峡は壊滅的打撃を受けた上にインド洋においても敵艦隊が一切見当たらないほどの殲滅戦が起きた(何せ、イギリス海軍が誇る東洋艦隊は先ほどまで述べた詳報のとおりである)わけで、そこに太平洋を我が物顔で練り歩く敵艦隊もまたきれいさっぱり消え去ったとあっては、U-bootにとってはひょっとしたらビスマルクが眠る大西洋よりも未知の海域に近い太平洋の方が生存率が高くなったのかも知れなかった。そして、その文字通り「太平」洋でU-bootが狩りに成功する確率は、赤ん坊を騙すよりも楽であった……。

 そして、ただでさえ第一次布哇沖海戦で太平洋艦隊の主力艦艇がほぼ殲滅された上にU-bootが太平洋にまで出没することを知った合衆国海軍は2月の段階になってある重大な決定をするまでに追い込まれることとなる……。

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