第六節:第一次ベンガル湾海戦(六)

 一方で、夜間空襲作戦による一夜が開けた連合艦隊側、すなわち大日本帝国海軍は沸き返っていた。流石に、合衆国太平洋艦隊を殲滅した時のような盆と正月が一緒に来たような喜び方では無かったものの、緒戦で敵艦隊の、しかも大日本帝国海軍が規範としていたであろうロイヤルネイビーの、それがたとえ本国艦隊総司令本部ではなく東洋艦隊出先機関であったとしても、それをほぼ全滅せしめたとあっては沸き返るのも無理からぬことであった。更に、士気高揚効果として挙げられることがある。大日本帝国海軍は、航空隊員含めて本海戦において海戦を終えることに成功した。それは最早、犠牲者という面においては日本海海戦をも上回る費用対効果であった。

「どうやら、作戦は成功したようですな」

 欣喜雀躍といった感情と共に軍艦大和の艦長、宮里が長谷川に話しかける。それもそのはずで、本海戦は軍艦大和が参加した初めての海戦であり、たとえ後方で指揮を執っていただけとはいえ十二分な初陣であったからだ。特に、宮里は少将に昇進したばかりであり、大過なく本土に帰還出来た場合、何某かに艦長職を譲り呉鎮守府の出仕が内定していたのだから喜びもひとしおであった。

「……の、ようだな。なれば、やることは一つだ」

 一方で、そこまで喜びを表に出していない長谷川。とはいえ、彼も喜んでいないわけでは無く、までも上層部まで浮かれてしまっては後からの後悔となるのは明白であったからだ。とはいえ、彼が喜んでいるのは、「やること」を「一つ」に絞っていることからも明らかであった。現状は、明らかに上策……すなわち追撃策を採るべき状況であった。

「ええ。……全艦隊砲撃準備、敵艦隊を総て沈めろっ!」

 ……そして、イギリス海軍東洋艦隊の総てを水漬く屍とすべく宮里は采配を行った。結果的に、殲滅戦にまでは突入し得無かったものの、東洋海軍は向こう一年どころか、二、三年は攻勢に出ることの出来ない深手を負うことになる。

 後の問題は、その「射撃目標」であるイギリス海軍東洋艦隊を射程距離圏内に納めることができるかが懸念事項と言えたが、その懸念は一時間もしないうちから取り払われることとなる。砲撃観測機を兼ねた零戦部隊が発見した「敵艦隊」は僅かに駆逐艦三隻であったが、そんなところに駆逐艦がたった三隻で浮かんでいるはずが無く、それが遅滞防御の類いを行おうとしていること、すなわち傷ついた敵本隊がもっと後方にいるのは、ほぼ確定であった……。

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