第68話 感謝の言葉は大事なんだなぁ

「お疲れ拓人」


「めっちゃ疲れた。これ絶対明日筋肉痛だわ」


 体育館での作業を終えた俺たちは、まだ作業している文化祭実行委員会の人達の邪魔にならないよう生徒会室へと撤収する。その道中で正樹にねぎらいの声を掛けられる。


「拓人めっちゃテキパキ動いてたもんな。マジで助かったわ」


「呼ばれたからにはそれ相応の働きをしないとだからな。にしても生徒会の仕事って結構地味なんだな」


「まぁね、企画とかは文化祭実行委員会がやってるし、装飾とかも基本的にはそっちだからね。生徒会のお仕事はこういう裏方のセッティングと後は企画とか出し物をやっていいかの確認、安全かどうかのチェックとか表にはほとんど出ないものばかりだからね」


「うわぁ……大変そう」


「だからあれよ?夏休みとかかなりお役所仕事したんだぞ?企画を却下するときの理由考えるのくそめんどかったわ」


「マジでお疲れ様です」


 やっぱ裏方の仕事って大変なんだなって思いました(小並感)。それとこういう裏方さんたちのおかげで文化祭が開催できていることを知って裏方さんの大切さを改めて感じました(中並感)。ほんの少しだけ語彙と文章力が上がった中学生並みの感想。ワンチャン流行らないかな……流行らないか。


「それと文化祭当日は当日で色々見回りして、問題が起こったら仲裁に入ってってかなり面倒な仕事ばっかよ」


「うげぇ……良くやってられるな」


「俺はこういう運営のお仕事が好きだからな」


 え、ちょっと理解できないんですけど。もしかして正樹ってMの素質があったりするのか?いやそんなこと言ったら他の生徒会の人に失礼か。まぁこんな大変な仕事好きでないとやってられないよなぁ。ほんとに尊敬するわ。


 先ほどからずっと思っているが、裏方の仕事はとても大変なのに周りの人からあまり感謝されたり、労われたりする立場にないのちょっとかわいそうだな。よし、この文化祭が終わったら正樹お疲れ様会でも開くか。うん、それが良いな。


 文化祭の予定は決まっていないのに、文化祭が終わった後の予定が決まるという謎極まりない計画を立てていると、目的地である生徒会室へと到着する。


「なぁ正樹?」


「ん?どうした拓人」


「これ俺もういらない奴?いらないなら帰った方が良いかなって思うんだけど」


 俺は周りの人には聞こえないよう、正樹に耳打ちをする。パイプ椅子を並べる以外にも何か手伝ってほしい仕事があるのなら良いが、もし無ければ早いうちに帰らないとシンプルになんでこいつ生徒会じゃないのにこんな居座ってんの?とか思われてしまう。それだけは避けなくてはならない。


「あぁ……そうだな。多分この後は事務的な仕事が来るだろうからもう帰ってもいいと思う」


「了解。じゃあ俺戻るから、また何か手伝ってほしいことがあったら呼んでくれ」


「すまん、マジで助かる」


「あいあい、そんじゃ頑張──」


「あ、佐藤君!」


「はいなんでしょう」


 正樹に応援の言葉を残し、生徒会室から出て行こうとした瞬間赤坂先輩から声が掛かり、俺の足に急ブレーキがかかる。赤坂先輩の呼びかけに対する返事の速度は僅か1秒。望んでいないのにどうして赤坂先輩の子分みたいな反応してるんですかね俺は。


「今日はありがとう。とても助かったよ」


「いえいえ自分ただ指示に従って動いただけでそんな大したことしてないっすよ」


 感謝の言葉を述べる赤坂先輩に対して俺は手を振り、何もしていないアピールをする。


「そんなことはないさ。すごく真面目に働いてくれて予定より早く作業を終えることが出来たよ」


「そっすか……ありがとうございます」


 ここで再び謙遜するのはそれはそれでうざい感じになっちゃう気がした俺は素直に称賛の言葉を受け取ることにした。


 でも一応言っておくとヤンキーがちょっと良いことしたらそれがめちゃくちゃ褒められるのと同じで、運動不足の俺が椅子を運ぶのを運動部の人並みに頑張っただけなんですよね。多分ゴリゴリの運動部は俺以上に椅子を運んでたと思う。


「いや~本当に助かったよ!!ありがとね!」


「ね、佐藤君いなかったら絶対1時間くらいはかかってたよ。マジ助かった」


 他の生徒会メンバーの人からも感謝の言葉を伝えられ、嬉しさとむず痒さを感じる。うぇえ?俺こんなに褒められるとは思ってなかったんですけど?なんかドッキリとかじゃないよね?


 ただ椅子のセッティングを手伝っただけでこんなに褒められるとは……えぇ?次も何かあったら呼んでね?めちゃくちゃ働きますんで。


「それじゃ、自分はこれで失礼します」


「本当にありがとうね佐藤君」


 ぺこりと頭を下げて生徒会室を後にする。いやぁ……なんか良いことした気分だわ。ってか良いことしたのか。あれだね、感謝の言葉って大事なんだね。


 周りから見たら気持ち悪いと思われるかもしれないが、俺はにまにましながら教室へと向かう。今の俺の気分は最高潮。腕の筋肉痛くらい安いもんさ、これはただの筋肉痛ではなく、名誉の筋肉痛だからな!!がはは。

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