第67話 裏方さんってすごいんだね

 文化祭が近づき、皆のテンションは右肩上がり。それもかなりの角度をつけて上昇している。授業を受けている皆の姿からは速く放課後にならないかなぁという意思がひしひしと伝わってきた。休み時間の今もあちこちで文化祭の話が聞こえてきた。


 やっぱ中学とは規模が違うからみんなその分楽しみでしょうがないんだろうなぁ……まぁ俺も楽しみっちゃ楽しみではあるんだけど。


「あ、拓人。今日放課後暇?暇なら生徒会の手伝いをしてほしいんだけど」


「……一応暇だけどさぁ」


「うわめっちゃ嫌そうな顔してるじゃん」


 先補との授業で使った教科書を次の授業の物へと入れ替え作業をしていると正樹から声がかかる。そりゃ「今日の放課後肉体労働手伝って」って言われたらいやな顔の一つや二つはしたくなるものだ。


「はぁ……手伝うよ」


「ありがと拓人。マジで助かるわ」


 親友の頼みを無下に出来ないのと断ったら白百合先輩から致死量に到達しうるほどの毒が飛んでくる可能性があるため俺は首を縦に振らざるを得ない。これが社会の格差ですか……。




「あ、佐藤君!この後クラスの出し物についての話し合いがあるんだけど……」


「あぁ……ごめん、ちょっと正樹に生徒会の手伝いをお願いされててさ。早く終わったらそっちに参加するよ」


「そうなんだ。じゃあ後で決まった内容グループチャットの方に貼るから確認しておいてちょうだい」


「分かった、ごめんね参加できなくて」


 俺はクラスの女子に頭を下げる。俺みたいな陰キャを誘ってくれるとか何この優しい世界。断ったことへの罪悪感が半端ないんだけど。心が紐のような何かで締め付けられたような感覚を覚える。おのれ正樹、許さんぞ。いやまぁ俺がクラスの話し合いに参加してもただ後ろで見てるだけだから意味はないと思うんだけども。






「やあ佐藤君、前回に引き続き今日もごめんね?そして手伝ってくれてありがとう」


 ぐわ!!キラキラとしたエフェクトが見えるくらいの眩しい笑顔をしないで!俺のただでさえ良くない視力が下がっちゃう!


「いえ、全然大丈夫っす」


「あ、そうだ。葵と話したって聞いたよ。何か変なこと言ってなかった?大丈夫?」


「えぇ……っとまぁ、面白い人だなって思いました」


 あなたの犬になれって言われました、なんて口が裂けても言えないわ。


「そうか、あの子ちょっとブレーキが効かなくなる時があるからもし困ったら私に相談してね。葵は私のいう事なら何でも聞くからさ」


「了解っす」


 ちょっとどころではないと一瞬思ったが、もしかしたら白百合先輩目線ではちょっとなのかもしれない。あの人目がマジだったからな……。もし命の危険が危なくなったら赤坂先輩に泣きつこう。原因にして最強の手札だからねこの人。


「それじゃあ早速行こうか」


 俺は正樹と、その他生徒会メンバーと共に赤坂先輩の後に着いていく。そうしてしばらく歩いた後到着した場所は何と体育館。文化祭実行委員会の人達がステージやその他多くの個所を装飾している姿が目に入った。


 おお、これだけでもかなり文化祭っぽいな。こういう手書き感のある看板とか結構好きなんだよなぁ。


「ということでパイプ椅子を並べていきます」


 うわぁ……めんどくさい!!しかも多分だけどかなりの数並べないといけない奴だぞこれ。多少緩めに感覚を取っても数百は行くだろこれ。


「一応こんな感じで椅子を並べていく予定です。適宜指示を出しながらやるので大丈夫だと思いますが、一応イメージだけは持っといてくれると助かります」


 そう言いながら、ファイルに挟んであった文化祭ステージマニュアルと書かれた紙を見せてくれた。まぁ先輩たちが指揮したとおりに動けば問題ないか。じゃあさっそくやっていきますかね。


 女の子でも余裕な重さだとしても、出来るだけこういう力仕事は男がした方が良いかなという考えと、助っ人として呼ばれたからにはそれ相応の働きをしなければという思いにより、俺は働きアリもびっくりするような程勤勉に素早く動きまくった。


 運動をろくにしていないのが丸分かりの細い腕で一気に4つ5つのパイプ椅子を抱えて運び、基準に合わせて椅子を並べて微調整する。それを何回も繰り返すこと数十分、ようやくパイプ椅子を並べ終える。


 う、腕が痛い、そして重い!インドア派のオタクにこれはきつすぎる!!


 中に鉄が仕込まれたのではないかと思うほど、両腕が重くなり動きが鈍くなる。これは次の日筋肉痛確定だろうなと心の中でため息を吐く。


 あぁ……文化祭実行委員会の人達はあんなに楽しそうに仕事をして青春を謳歌しているというのに。なんかこう、生徒会の皆さんには失礼かもしれないけど光と闇の仕事みたいな感じがして少し悲しい気分になるなぁ。


 自分たちがした雑用の仕事も大事なのは十分理解しているが、目の前で文化祭のテーマが書かれた看板を高いところに飾っているあの陽キャたちを見てちょっとだけ悲しい気持ちになってしまった。


 こういうのを間近で見ながらもしっかりと自分の与えられた仕事をしっかりとこなすって、裏方の人はすごいんだな……。


 これからアニメとか見るときは声優とかだけじゃなくてプロデューサーとか音響とか、そういう裏方の人にもしっかり感謝の気持ちを持たないとな。本当にありがとうございます裏方さん。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る