第13話 白雪姫は安堵する
「付き合ってないよ?というか若菜もう彼氏いるし」
「そ、そうなの?」
「うん、うちのクラスの木村正樹ってやつと付き合ってるよ」
「そう……なんだ……」
先ほどの反応からして予想はついていたが拓人は嶋村さんとは付き合っていないらしい。それどころかもう嶋村さんには既に彼氏がいるらしい。
そっか……拓人は嶋村さんとは付き合ってないんだ。
行動には移さないが心の中で胸をそっと撫でおろす。頭の中の大半を埋め尽くしていた疑問と不安がようやく解消され、靄のかかっていた思考がクリアになる。
あれ……?私なんで拓人と嶋村さんが付き合ってないって分かってほっとしてるんだろう……。
思考がクリアになったことで今の自分の心境を冷静に見ることが出来た。自分は拓人が嶋村さんと付き合っていないと知って安堵している。それに加えて少し嬉しいと感じている。
なぜほっとしているのか自分でもわからない。ただ気が付いたらそう感じていた。私は無意識のうちに拓人が付き合っていないことを喜んでいたのだ。
「つかなんで俺と若菜が付き合ってることになってんの?それどこ情報よ?」
自分が今どんな感情を持っているかを冷静に見ることが出来、自己嫌悪に陥りそうになった瞬間、拓人から質問を投げかけられる。
どうしよう、覗き見したのばれちゃう。でももう今更だよね…うん、話しちゃおう。
「その……拓人と嶋村さんがこの前廊下で話してるのを見て、それで──」
「それで?」
「距離がすごい近かったからもしかしたらって思って……」
「あー……」
二人が話しているところを見たことと、二人の距離が近いと感じたことを話す。すると拓人はどこか腑に落ちたような表情を浮かべる。
「実は俺と若菜って幼馴染なんだよね。多分それで普通の人より若干距離が近いのかもしれないわ」
「え?そうだったの!?」
「そうそう。小中高全部同じなんだよね」
「まぁそういうわけで俺と若菜は付き合ってないよ。あの元気についていけるかつ上手く制御できるのは正樹くらいだし」
二人が幼馴染だということを初めて知り、私は驚きの声を抑えられなかった。
拓人って嶋村さんと幼馴染なんだ。それに小中高一緒って……道理であんなに距離が近かったのね。それにしても意外な組み合わせだなぁ。
物静かな拓人と明るくて元気な嶋村さん。相反するタイプの二人が幼馴染で今も仲がいいのはびっくりだ。
居心地が悪くなったりしないのかなぁとか、もしかしたら拓人も意外とはっちゃけるタイプなのかなとか幼馴染の二人についての妄想が浮かび上がってくる。自分には幼馴染と呼べる存在がいないので、幼馴染特有の会話や雰囲気に対しての興味が湯水のように湧いてくる。
やっぱりこうなんて言うんだろう……阿吽の呼吸というかちょっと呼びかけただけでお互いの意思疎通が出来たりするのかな?「ん」とかだけで通じたりするのかなぁ……うわぁそういう関係憧れるなぁ…。
「いやそれ幼馴染じゃなくて熟年夫婦やないかい!」とツッコミを入れたくなるほどの妄想である。凛花は親しい友達がほとんどいない、というかゼロなので幼馴染といったお互いのことをよく理解しているといった関係性に普通の人以上の憧れと妄想を抱いているので仕方がないのだが。
ってそうだ!私まだ拓人に謝ってないじゃん!ついつい妄想を膨らませちゃって謝るの忘れてた。
「ごめんね拓人変な勘違いしちゃって」
「いいよ別に、その誤解も解けたわけだし。でも凛花と若菜って確か同じクラスだろ?休み時間の時とかに話したりしないのか?」
「話したことはあるんだけどね。嶋村さんは嶋村さんで人気だからあんまり話す機会がないの」
最初の頃に少し話したことはあるが、最近はほとんどない。私も周りに人がいるし、嶋村さんは嶋村さんで周りに人がいる。そのすでに完成している環境から抜け出してまで話すことが互いにないため私と嶋村さんの関係値はただのクラスメートで止まっている。
それに私自身誰かと深い関係になろうとしていないというのも影響しているかもしれない。誰か一人と仲良くなってしまうと後々面倒なことが発生してしまうため、私は基本誰かと1対1で話をすることがほとんどない、拓人は例外として。
「若菜も白雪姫様も大変ですこと」
「そう呼ばないでって何回も言ってるでしょ」
「ごめんごめん」
私の考えを知ってか知らずか、拓人は少し茶化すようにして私とこの場にいない嶋村さんに同情する。ただ私のことを白雪姫と呼んだことが気に入らなかったため、すぐさまそのことについて言及するも、気持ちのこもっていないごめんが返ってくる。ただこれはいつものことなので私は拓人の謝罪を受け入れて肩の力を抜く。
ふぅ……とりあえず拓人と嶋村さんの関係が分かって良かった。
ここ数日気になっていたいたことがようやく判明し、それも納得のいく答えを知ることが出来、私は少しの満足感を得る。
それにしても拓人は嶋村さんにどんな感じで喋ってるのか気になるなぁ。
拓人が嶋村さんと幼馴染だということを知ってほっとした自分。拓人のことを全然知らない自分。色々と考えていかなきゃいけないことが出来たが、今は幼馴染の2人がどんな風に話しているのかの妄想が勝ってしまった。
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