第3話 白雪姫は頼られたい

「聞いてくれてありがとね拓人!」

 

 それから凛花の話を定期的に相槌をしたり、褒めたりしながら聞いていると満足したのか満面の笑みを浮かべる。自分だけが話し続けたことに対してこういうちょっとした気遣いが出来るのはさすが白雪姫だなと思った。凛花のことを白雪姫と呼ぶと「白雪姫って呼ぶのやめて!」と怒られてしまうため口には出さないが。


「そういえばだけど拓人はテストどうだったの?」


「あぁ……まぁまぁかな」


「何位だったの?あ、もちろん嫌なら言わなくていいけど」


「嫌ってわけじゃないから言うけど……102位だった」


「あぁ……なんて言うかその、すごい触れづらい点数だね」


「分かる。自分でもそう思う」


 学年の人数が約180人であるため真ん中よりほんの少し下くらいの点数。凛花が言う通りなんとも言えない微妙な成績である。


「もうちょっと上だったら丁度平均だったのにこの10位分がすんごい邪魔してる気がする。しかも100位だったらまだぴったりですごいって感じになったのにこの2がまた邪魔すぎる……」


「えと……なんかごめんね?」


「そこで謝られるとこっちが困るだろ」


「そうだよね、えっと、うーんと……」


 なんとか話をいい方向へ持っていこうと必死に考えている。なんだこの気まずい感じは。も、もういいから!もうそっとしておいて!次の話題に行こう!


「あ、そういえば数学はどうだったの?あれたしか40点未満は補習って話だったけど」


「41点でギリギリ耐えた。テスト返ってきたときさすがにガッツポーズしたわ」


「おめでとうでいいのかなこれ……」


「おう、ありがとう」


 困惑しながらも祝福の言葉を述べる凛花。ありがとうと伝えるもどこか釈然としていないご様子。まぁ気持ちはわからんでもない。


「いやぁ数学って苦手だわ。なんであんな難しいのが解けるの?」


「解法とか覚えてひたすら練習したらできるようになるよ」


「そう簡単に言われてもなぁ……」


 やればできると言われても出来ないのが現実である。問題を解いてると最終的にどうすればいいのか見失うしそもそもどこでどの解法を使えばいいのかさっぱりわからないんだよなぁ。


「まぁ?拓人がどうしても教えてほしいっていうなら教えてあげなくもないけどなぁ?私1位だし?数学も得意だから教えてあげられるんだけどなぁ?」


 ……うざい。うざいのだがこれはただ「自分一位で数学出来ますよ?1位の私が勉強のできない拓人君に勉強教えてあげましょか?」と俺のことを小馬鹿にし、施しを与えようとしているわけではない。まだ付き合いは短いが凛花が言わんとしていることはなんとなくわかるようになってきた。おそらくは


「勉強教えられるよ!私を頼って!!」


 こういう感じだと思う。まぁ本当にそう思っているかどうかは知らないけれど。


「いやいいよ。ほら勉強時間奪っちゃうかもしんないし」


「そんなの気にしなくていいから!教えるのも勉強になるって言うし!!」


 食い気味に返事をする凛花。こちらを見つめる朱色の瞳は「いいから!私が教えてあげるから!!」言っている気がして仕方がなかった。


「……いやでも──」


「ほら!一緒に勉強した方が分からないところを教えあえるし、勉強のモチベーションも高まると思うんだよね!だから気にしなくていいよ!!」


「……」


 「一緒に勉強したいからうんって言って!!早く言って!!」そう捉えてしまうほどに前のめりな凛花。まさかそんなに早い段階で俺の言葉を遮ってくるとは思わなかったわ。それと多分俺の予想は間違いじゃないと思う。


「じゃ、じゃあ次回のテストの時にお願いしようかな」


「!しょうがないなぁ……この私が丁寧に教えてあげる!」


「あ、いや別に無理にとは──」


「無理じゃない!!!」


「あ、はい。すんません、それじゃよろしくお願いします」


 じょ、冗談ですやん……。俺の無理しなくてもいい発言が気に入らなかったのか一瞬不機嫌な顔を見せたが、最終的に一緒に勉強する約束を取り付けることが出来たからなのかどことなく嬉しそうな表情を浮かべている。そんなに誰かと勉強したいならクラスの人誘えば一発だろうにと思ったが、そうなると白雪姫もーどにならないといけないから嫌なのかと自問自答する。


 笑顔を浮かべて気分ルンルン状態の今でも鼻歌を歌いだしてもおかしくないほどに嬉しそうな凛花をぼんやりと眺める。あんな感じで嬉しそうな表情をすればもっと人気が出るだろうにと心の中で独り言を漏らす。


 優等生としての白雪姫も人気あるし、周りの人から好かれるとは思うけれど個人的にはこっちの方が親しみやすいし可愛げがあっていいと思うんだけどなぁ......めんどくさいけど。


「拓人、どうかしたの?さっきからこっち見てるけど」


「いや、髪の毛に糸くずついてるなーと思って」


「え!?ど、どこ?というかそういうの早く言ってよ」


「えぇ……」


 理不尽さがにじみ出ている要求に思わず困惑の声が漏れ出てしまった。うーん、やっぱ白雪姫の方が良いかも。

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