第2話 白雪姫はご機嫌斜め
「拓人ー、今日部活無いから一緒に帰ろうぜー」
「今日委員会なんだわ」
「げぇ、まじかぁ。陽は……」
「もちろん部活だよ」
「だよなぁ……」
「ごめんね?」
帰宅部の俺とは違って涼太と陽はそれぞれテニス部と吹奏楽部に入っている。二人の部活動が休みの時は一緒に帰ったり、どこかへ遊びに行ったりしている。陽に関してはそこまで休みがあるわけではないが。やはり吹奏楽部はハードなんだなぁ……。
「じゃあまっさんは?」
「彼女迎えに行った」
「ぐはっ……リア充が……なんかこうちっちゃい不幸が降ってきますように」
「友達思いなんだかそうじゃないんだか」
涼太は正樹のことをまっさんと呼んでいる。理由は正樹によく勉強を教えてもらったり、課題を写させてもらっているかららしい。そのうえでちっちゃな不幸を願うとかどんだけ彼女ほしいの君……。
「まっさんは彼女と帰って、陽は彼女と一緒に部活動して、拓人は白雪姫と仕事。世知辛いわぁまじで」
「俺は別枠だと思うけど」
「それでも女の子と一緒なのは変わりないだろ!!しかもあの白雪姫!くっそ、こうなったらお前らのことを呪ってやる」
「理不尽すぎん?ちなみに聞くけどどんな呪いよ」
「足の小指を角にぶつける呪い」
「うわぁ地味にうざいねその呪い」
「(別のところでも可)」
「カッコ書きで範囲を増やすな」
そうして談笑を少しの間続け、解散となった。別れ際までこちらのことを恨めしそうに見られたが俺は涼太にほんの少しだけ言い返したい。
白雪姫は可愛くて、頭がよくて、とても礼儀正しい優等生?誰にでも優しくて、絵に描いたような、お伽話の中から出てきた白雪姫?そしてそんな白雪姫と一緒に仕事が出来て羨ましい?
認めよう。確かに彼女は容姿端麗で頭脳明晰なのは間違いない。そこは認めよう、なんなら運動神経がいいのも認める。
だが礼儀正しくて、誰にでも優しくて、お伽話から出てきたみたいという部分に関しては異議申し立てたい。これらの要素に関しては首を縦に振ることはできない。なぜなら──。
「失礼しまーす」
「拓人おっそい!!もう委員会始まる時間8分は過ぎてるんですけどー。小学生でも時間守れるのに遅れるとかどうかと思うんですけどー。というか一人で待ってるの退屈だから早く来てほしいんですけどー」
受付の席に座っている女の子は顔に「私超不機嫌です!」と書かれているのが分かるほどに頬を膨らませてこちらを睨んでいる。相当機嫌が悪いのか頬を膨らませるのみならず、体を左右に揺らしてさらに機嫌悪いアピールをしてくる。
ぷっくりと膨らんでいる雪のように白い肌、こちらをしっかりと捉えている林檎のような朱色の双眸。左右に揺れる体連動して首や肩を左右に撫でている漆黒の髪。
そう、このいかにも不機嫌な女の子こそがあの白雪姫こと
「ごめん、ちょっと友達と話してた。次からは遅れないようにするよ」
「そう言ってこの前も遅れてたもん!ふんっ......そんなに私のことが嫌いならもう来なくていいし!別に仕事は一人でも出来るから無理して来なくていいし!」
そう言って、斜め45度だったご機嫌がさらに角度を増して斜め60度くらいの機嫌の悪さになる。
……めんどくせぇ。遅れたのは申し訳ないけどその申し訳なさを忘れるくらいにめんどくせぇ。
芍薬や牡丹、そして百合の花が咲き誇っている花畑に、常ににこやかな笑みを浮かべている白雪姫。来るものを一切拒まず、周りに行ったら最後去ることが出来なくなるほどに優しい空間を作り上げているお伽話から飛び出てきた美少女。
だが、そんな完全完璧な美少女の本性はとてつもなく面倒で我儘でかまちょ。嬉しいことがあるとすごく喜び、褒められるとあからさまに調子に乗り、嫌なことが起きるとすぐに不機嫌になる。精神年齢が5才の女の子なのだ。
「……」
不貞腐れた頬杖をついて明後日の方向を眺めている白雪姫。この場合はどう返すのが正解なのかを頭の中で巡らせる。正直なところ面倒なのでこのまま放置したいところだがそうするともっと機嫌を損ねること間違いない。
めちゃくちゃこっちチラチラ見てるじゃん。「私不機嫌ですよ?どうすればいいか分かってるよね?かまって?今すぐ私をかまって?」みたいな感じでこっちを定期的に見てくるのやめてくれません?
期待のこもった眼差しを向けられ、内心ため息をつく。
「ほんとごめんって凛花。俺が悪かったから、次からは絶対遅れないようにするから」
「とか言って次も遅れてくるんでしょ?私知ってるもん」
めんどくさい!今日なんかいつもよりもめんどくさい!!
謝っても機嫌が一向に直りそうにない凛花を今すぐにでも放置して本を読みたい。だがここで放置すると日をまたいでも機嫌が悪い状態が続きそうなのでここは辛抱するしかない。だがどうすれば……あ、そうだ丁度いい話題が一つあったわ。
「いや本当ごめんって……。そういえばだけど1位おめでとう」
「別に、いつものことだし」
「いやいや、いつも1位とれてるのすごいことだからね?そんなさも当然のように言ってるけどめちゃくちゃすごいことだからね?」
1位はとって当たり前と言う凛花だが、先ほどまでとは違ってほんの少しだけ声音が明るくなったような気がする。
「いやほんと凛花すげぇよ。噂で聞いてたけど中学の時からずっとトップだったんだろ?それだけでもすごいのに高校に入ってからもトップなんてほんとすごいわ」
「ま、まぁ?普段から真面目に授業受けてるしこれくらいは……」
頬杖をついている逆の手で髪の毛をいじり始めた凛花。凛花は褒められて、少し気恥ずかしさを感じると髪の毛をいじる癖がある。この調子で褒め続ければなんとかなりそうだ。
「いやいやまじですごいよ。高校に入ってから授業の内容難しくなるしスピード速くなるで追いつくだけでも大変なのに余裕で追いついて1位をとるとかほんと天才よ」
「て、天才……ふへへ」
お、もうちょっとだなこりゃ。
「いやもう天才よ。それでいてちゃんと努力してるからホントにすごいよ。まじで尊敬する」
地頭がいいのもあると思うがそれをしっかりと努力で磨き上げているのは本当にすごいと思う。努力できるところを尊敬しているのは事実である。他の部分は置いといて。
「まぁ確かに高校に入ってから勉強難しくなったけど私頑張ってるからね!」
「いやぁ本当に凛花はすごいわ、めちゃくちゃ頑張ってるもんなぁ」
「ふふん♪」
不機嫌そうな表情が今ではとても嬉しそうな表情になっている。もうさっきのことなど忘れてしまったかのように私すごいでしょアピールをしてきている。こいつちょろいなホント。
「まぁ?今回だけは許してあげる。次からは遅れないようにね」
「ありがと、次は遅れないようにするから。それと改めて1位おめでとう凛花」
「ふふ、ありがと」
よし、完全に機嫌が直ったな。というかプラスにまで持って行けた。
不貞腐れていた白雪姫(5才)の機嫌は完全に治った。治ったのだが……
「でねー?最後の数学の問題あったでしょー?あれが──」
まだ褒められたいのかドヤ顔をしたまま期待の視線をこちらに向けてテストのことを話し始めた。「褒めて!褒めて!」と言わんばかりに語る彼女が犬のように見えて仕方がなかった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます