#8 妖精彗星

霊匣パンドラ/接続

 誓約の守護者オースキーパー/起動

 術式種別コンセントレート妖精系V e r. Fa i r y


 すべての生命には、通常では不可視の精神エネルギー・【霊力れいりょく】が流れている。

 その【霊力れいりょく】を、血液のように循環させるための霊的心臓・【霊匣パンドラ】。

 彼女の意志に従って、白亜の装飾杖・【誓約の守護者オースキーパー】は【霊匣パンドラ】と繋がり、その真価を発揮する。


天翔あまかける一筋の気まぐれ 汝のささやかな想いを その刹那に捧げよ


 入力された魔術言語MTMLに従い、【誓約の守護者オースキーパー】は術式を発動させる。


「“妖精彗星シューティングスター” ぁっ!」

 えいっ、と【誓約の守護者オースキーパー】が振り抜かれる。

 杖の先端から射出される霊力で構成された

 その姿は、蝶のような二対の翅の生えた蒼白い光玉。攻撃性の意志を感じさせる豪快なスピードでは、一直線に兄貴分のおでこに向かって突撃する


 ぽこんっ。空のペットボトルを叩き付けたような間抜けな音。

 「あだっ」と、兄貴分の小さな悲鳴。

 ぶつかった疑似妖精は木洩れ陽のような残滓となって、すぐさま消失していく。


 パァンッ。弾ける銃声。

 放たれた銃弾はあさっての方向に飛んでいく。


 そして、兄貴分がすぐさま視点を戻すと


 


 ガンッ。鈍い音。

 弾丸同様、兄貴分もまたあさっての方向に飛んで行く。


「なんだ今の?」

 戦闘態勢を解くセイギ。

 飛んできた光の玉・妖精彗星シューティングスターの軌道を逆算し、不思議そうにその方向へ視線をやる。


「むきゅぅ~~~~っ!こ、怖かったですの~~~~っ」

 そこにはピンクの少女・フォーチュンの姿があった。

 事態を切り抜けた安堵感から、その場にぺたんと座り込み、そのまま泣きじゃくる。


 観衆の視線が一斉に、

 真神正義まがみせいぎに圧し寄せる。


 集積された視線は語る。

 、と。


 難儀そうに、セイギは頭を掻いた


        ◆◆◆


「へい、おまちぃ」

 湯気だった熱々のご当地ラーメン『徳島ラーメン』が2杯、テーブルに用意される。

 セイギとフォーチュン。二人は駅近くの徳島ラーメン専門店に訪れていた。


「いただきまーす」

 真神正義まがみせいぎは両手を合わせる。


 徳島ラーメンは大きく分けて3系統の種類が存在する。

 彼等が注文したのは『茶系』と呼ばれ、豚骨スープに濃厚醤油やたまり醤油で味付けし、トッピングに豚バラ肉、ネギ、モヤシ。

 そして生卵を載せることから、別名『すきやきラーメン』とも呼ばれている。


 そもそもが初めて見るラーメン。

 フォーチュンは好奇のまなざしを向け、おずおずと観察していた。


「食わねぇのか?」

 不意に、セイギがこちらを覗き込む。

 フォーチュンは「ひゃうッ」と悲鳴をあげ、大袈裟にたじろいだ。


「い、いただきます、ですのっ」

 手を合わせ、箸を手にする。

 箸の使い方はヴァチカン市国にて、テーブルマナーの一貫で習得済みだ。


 フォーチュンは4、5本ほど麺を掴むと「ふぅーふぅー」と少し冷ます。

 その小さな唇で麺を咥え、ちゅるちゅると啜っていく。


 舌の上で肉類、魚類、果物から汲み取られた濃縮な旨味が弾け、甘辛い醤油風味と麺の食感が口の中に満ちていく。


「お、美味しいっ!とってもデリシャス!?」

 これが、ラーメン。

 恍惚とした表情をフォーチュンは浮かべる。


 緊張感が解けたのか。ぎこちない雰囲気は雪解けのように霞み去り、その幸福を噛み締めるよう夢中になって舌鼓。


 そんな彼女の様子を満足そうに見届け、セイギもまた黙々とラーメンを啜っていく。

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