異世界にts転生して最強の冒険者目指す話

まるべー

第1話

「…〜…〜…〜…〜…〜…〜…〜…〜…〜…〜…〜…〜…〜」


そんなよく分からない言語と共に、シャーとカーテンが開き、差し込んだ眩しい朝日の光で僕の意識は覚醒した。

 

ここはどこなんだろう…?


僕はベッドに寝かされていたようで、体を起こすとそこは見知らぬ部屋だった。


おかしい。さっきまで僕は自分の部屋で寝ていたはずなんだけど。


部屋は完全な木製の一軒家で、病院に搬送されたとかいうことではなさそうだし。本当に何が起こっているのかわからない。


その時、ひょいっと僕の体が持ち上がった。考え事をしていて気づかなかったが、目の前には綺麗な金髪の女性がいた。青い瞳を持っていて、僕に優しく微笑みかけてくる。


っていやいや。これでも僕、今年の身体検査で48キロあったんだよ!?なんでこの人、そんな簡単に持ち上げられるの!?


「…〜…〜…〜…〜…〜…〜…〜…〜…〜…〜…〜…〜」


またもやよくわからない言語でコチラに話しかけてくる女性。絶対に英語でも日本語でもないことだけはわかるけど、何語かわからない。


そしてそのまま彼女は、僕を抱っこしたまま家の中を歩き出した。


えっと……、どうしよう……。


言葉も通じない知らない場所に連れてこられたからなのか、不安感に襲われる。


「……〜………〜〜〜〜〜………〜…〜…〜〜〜……………」


その女性は笑顔のまま何かを話しながら歩いていく。とりあえず言葉が通じないとしても何か話しかけようと口を開いた僕は_______


「っ!?」


立てかけられた鏡に写ったものに目を見開いた。頭を殴られたような衝撃が全身を貫く。


それもそのはず。なぜなら、その鏡には金髪で青い瞳の女性に抱えられたがいたのだから。


これは、異世界転生を望みすぎたがゆえに見た夢なのか、はたまた現実なのか。


目の前に写る赤子が、僕の体と同じ動きをすることをじっと観察しながらそんなことを考える。


不意に眠気が訪れた。意識が朦朧として、瞼が自然に下に落ちてくる。


金髪の女性。聞いたことのない言葉。


これが夢でもなんでもないのだとしたら。

おそらく僕は、異世界に転生してしまったのだろう。



⭐︎⭐︎⭐︎

⭐︎⭐︎⭐︎

⭐︎⭐︎⭐︎




あの後、結局夢が覚めることはなく10年もの月日が流れた。うん、どうやら僕は異世界に転生したらしい。


10年間の生活の中でわかったことはたくさんある。まずはこの世界についてだ。


名前をアステリア王国と呼ぶこの国は、魔法が発達していて人々は剣を使って魔物と戦っている。中世ヨーロッパ風の街並みといった感じだろうか。


次に、僕の家族についてだけど……まあ、それは今はいいかな。


ちなみに、僕の名前はアルフ。両親からは愛称の『アリィ』と呼ばれている。


あと今の僕は性別的に言うと女性。あくまで性別的であって、心はバリバリ男なんだけどね。


それともう1つ分かったことがある。それは、僕にチート能力が備わっているということだ。


10歳の身にして既にこの村の誰よりも魔法の扱いに長けているし、前世の記憶のおかげで勉強だってできる。


あ、そうそう。今世の僕の家は国のめっちゃ端っこにある素晴らしい田舎だ。おかげで空気が美味しい。


まあ、見た目と言動の違いから周囲の子供達からは煙たがられてるけど……。


「おーい、アリィ。遊び行こうぜぇ!」


少しブルーな気持ちになっていると、外から声が聞こえてきた。この声はおそらく_____


「うん、わかったよ!すぐ行くから待っててね!」


外にいる彼に返事をして急いで服を着替える。10年もこの世界で生きてきたので言語についても完璧になっている。


ふと鏡を見ると、そこには金髪ロングの美少女がいた。言わずもがな僕である。


「遅いよ、アリィ!」

「ごめんごめん。ちょっと準備に手こずっちゃってさ」

「もう、早く行かないと遊ぶ時間がなくなるんだぞ!」


彼は僕の幼馴染で、この村で唯一の友達。名前はスレイという。

前世のせいで、普通の子供とは違う僕にも優しく接してくれるいいやつだ。


「今日は何するの?」

「ん?ああ、今日は昨日森の奥の方に行った時に見つけた洞窟に行くつもりだよ。なんかすげえ宝物とかありそうじゃないか!?」

「うわぁ……、相変わらず冒険好きだねぇ……」


この世界の人間は15歳になると成人とみなされ、大人として扱われるようになる。それ故にスレイは、もう10歳であるにも関わらず毎日のようにこうやって森の中に入って遊んでいるのだ。


もし何かあったりしたら大変なことになるのだが。まあ、何かあったら僕の魔法をパナせばいいだけだ。


「よし、じゃあ早速出発だ!」


こうして僕らの冒険が始まった。


道中は特に何も起きなかった。せいぜい魔物が現れたくらいだが、それも僕が軽く魔法をぶっ放したらすぐに逃げていったし。


そして目的地の洞窟に着く。入り口の大きさはそこまで大きくなく、中も薄暗いため奥まで見通せない。僕たちは顔を見合わせてゆっくりと足を踏み入れた。


入ってみると、意外にも中はかなり広いことがわかった。そして、壁や天井には光を発するコケのようなものが大量に張り付いているようで、思ったほど暗くはない。むしろ明るい方だと思う。


しばらく歩いていると、突然スレイが立ち止まった。


「どうしたの、スレイ?何かあった?」

「まっ、魔物が……」


そっと向こうに人差し指を向ける彼。その指差す先にいたのは大きな犬の化け物だった。グルルとコチラを威嚇しながら、ジリジリと近寄ってくる。


「なんだ、魔物か。なら僕に任せてよ」


僕は今までと同じように魔法を発動させようとして______


「なっ!?発動しない!?」


それが発動しないことに気づいた。目の前の魔物のせいではない。これは多分、この洞窟で魔法が使えない仕様なのだと思う。


「ど、どうしようアリィ」


確かに魔法が使えない地域は聞いたことがあった。でも、それがここだとは知らなかった。今となってはの話だが、洞窟が明るいと言うのも照明魔法を使わせないための布石なのだろう。


いや、そんなのを考えても仕方がないしただの言い訳にすぎない。僕たち2人はまだ子供で、魔法も使えないこの状態じゃどちらも餌になるのは自明の理だ。


僕のせいだ。自分の力を過信して、僕だけじゃなくてスレイまで危険に晒してしまった。このままじゃスレイまで死んでしまう。


前世と合わせれば25年生きた僕とは違って、彼はまだ10歳。こんなとこで死なせるには若すぎる。


目の前には依然として近寄ってくる魔物の姿が。僕は近くに落ちていた木の枝を拾って奴と相対する。


「僕が相手する。だから、スレイは村まで走って」


村には剣術に長けた村人もいる。その人に助けを求められればこの魔物も倒せることができるだろう。


「アリィは、どうするの……?」


不安そうな声色で尋ねてくるスレイ。きっとここで不安げに答えれば、彼は心配して逃げ出せなくなる。そんな奴だ。だからこそ_____


「大丈夫だよ。僕が強いの知ってるだろ?こんな犬っころには負けないよ」


僕は嘘をついた。本当は怖くて仕方がないけど。泣きそうなぐらいには怖いけど。それでもスレイだけは逃さないといけない。


「……わかった。絶対に助けを呼んでくるよ!」

「うん、待ってるよ」


そう言って彼は来た道を駆け出していく。それを確認してから僕は木を構えて、犬の化け物に向かっていった。


それから数秒後。僕は犬の怪物にボッコボコにされていた。いや、そりゃあそうだよね。魔法無しだと僕はそこら辺の子供と大差ないんだから。


身体中が痛む。特に腕と脇腹がズキズキと悲鳴をあげている。あと激痛に叫びすぎたせいで喉も痛い。


「グゥルル」


目の前には涎を垂らした魔物の姿。あーあ、せっかく転生して第二の人生始まったと思ったのになぁ。まさか10年で終わっちゃうなんてね……。


そっと目を閉じる。どうせ今から足掻いたって無駄だ。スレイも逃げられたかどうかわからないけど、もうこんな状態じゃどうしようもない。


僕は食われる激痛に覚悟しながら体を小さく丸めた。どうせなら一飲みで食べられて痛みを感じないほうがいいし。


が、いつまで経ってもその痛みが訪れることはなかった。


「アリィ、大丈夫?」


代わりに聞こえてきたのは優しい声。それは聞き慣れたスレイの声だった。


疑問に思った僕が目を開けると。


そこには木の枝で魔物の首を切り落としていたスレイの姿があった。


「はっ?えっ?スレ、イ?」

「うん、俺だよ。安心して。魔物は俺が倒したから」


そう言う彼の手を見ると、血がベッタリと付いていた。


「え、えっ?スレイが、やったの?」

「そうだよ。なんか、アリィが傷ついた姿を見てたら急に力が湧いてきたんだ。それで、そのままに力を振るったらこうなった」


ニカッと笑うスレイ。その笑顔はどこか誇らしげだった。


「それで俺、気づいたんだ」


何を?と聞く前に僕の体が彼によって抱きしめられる。うん?


「アリィが俺の中でどれだけ大きい存在か。どれだけ大切なのか」


ぞわりと背中に寒気が走った。おかしいな。目の前の男のお陰で命の危機は去ったはずなんだが。


「う、うん。そうだね!友達として!!どれだけ大切か分かってくれたんだね!!!」

「これは友達とかじゃない」

「親友かな!!!!ありがとうね!!!!!」

「俺はアリィのことを愛している。俺の、恋人になってほしい」

「親友っていい響きだよね!!!!!!!」


聞こえないふりで誤魔化そうとしたが、スレイは真剣な顔と瞳でコチラを見つめてくる。これは誤魔化してはいけない話題だ。特に親友相手には。


が、僕は普通に女性の方が好きだし男なんてもってのほかだ。いくら親友といえど無理なものは無理なのである。


「ごめん、スレイ。僕は君とは恋人になれない」

「なんで?好きな人でもいるの?」

「いや、いないけど……」

「じゃあ、俺が頑張ってアリィのことを振り向かせればいい話なんだな」


ニヤリとスレイが笑う。その姿は、なぜかいつもよりも絵になっていて……。


……はっ。いや、見惚れてなんかいないんだが!?男にときめくことなんかないんだが!?僕はホモじゃないんだが!?

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