第13話 婚約問題の解決

結局、義母と義妹の周りで働いていた侍女たちなどは、私への意地悪や偏見が残っていて、私としても雇い続けるのは無理だったし、本人たちもこの状況に耐えられないだろうと思った。


これまで、何かというと、私を顎で使ったり、ブスだとか口の利き方がおかしいとか、陰気だとか悪口を散々言ってきた人たちだ。


彼女たちは、ずっと下に見ていた私から、解雇を言い渡されて、すごく不満そうだった。


わざわざ新しい勤め先では、私の悪口を言ってやると宣告して出ていった人もいた。


「何をバカなこと言ってるんでしょうね」


ハンナが呆れて言った。


「だって、本当の伯爵令嬢の悪口を言って、今、詐欺罪で捕まっている人を褒めようって言うんですよ? 誰も雇わないでしょうよ」


私もそう思う。


「でも、料理番や厩番は、関係なさそうだったのでそのまま働いてもらうことにしました」


ハンナが言った。


奥様とお嬢様がいなくなったことは、彼らにとっても衝撃だったらしいが、長く働いている人たちは、突然やって来た義母と義妹の行いを、内心おかしいと思っていたらしい。彼女たちがいなくなってしまっても、まるで、何事もなかったように働き続けてくれた。



そして、私は、アーノルド様と再会した時のパーティーのドレスを作ってくれたドレスメーカーを呼び出した。


「私は、お母様のドレスを作ってきたのです」


あの時の担当の女性が、晴れやかな顔をして言った。ドーソン夫人という名前だった。


義母の横槍を見事にかわし、義母の妙な発注は全面的に無視して、私に似合うドレスを作ってくれたあの人である。


「伯爵様が、絶対にジョアンナ様の話は聞くなとおっしゃったのです」


彼女は照れながら、その時の話をした。


「伯爵様から、当時の義母の方は、アマリア様に似合わないようなドレスを作るよう指示するだろうと言われていました。そんなバカなと思っていたのですが、本当にその通りで、びっくりしました」




準備を整えて、私はあちこちのお茶会に出かけた。


今回はアンダーソン夫人は、どのお茶会でも見かけなかった。アンダーソン夫人の話をすると、みんな少し困った顔をしていた。彼女のウサギ愛は有名らしい。

私が一時間彼女のウサギ愛に付き合った話を聞くと、皆様から同情されてしまった。


そして、義母の話を小出しにするとみんな興味津々だった。



ある日、伯母のギブソン卿夫人が私を捕まえて、こっそり教えてくれた。


「アマリア、うまくやってるみたいじゃないの。話し下手だと言っていたけれど、とてもそんなふうには見えないわ」


「グロリアとあのジョアンナが、いつも私にそう言っていたので。あの、話が下手で、よくないって」


伯母は私の顔を見て言った。


「絶対、それ、あの人たちの嘘よ。あなたを社交界に出したくなかったのだわ! あなたは、とっても評判がいいのよ。だって、私は何人もの方から息子の嫁にどうだろうかって相談を受けているのですもの!」


かなり衝撃的だった。


「あの、我が家の状況があんなことになっていてもですか?」


「だって、もう、片付いているじゃないの。品のないグロリアが妹としてトラブルを起こす事がないなら、あなたみたいなお嬢さんはどこの家に嫁いでも何の問題もないわ」


「え? 私は、暗くてブ、ブスって……」


「誰がそんなこと、言ったの?」


伯母がびっくりしたように言った。


「落ち着いた品のある美人だって評判よ。ブスってどう言うこと? あのグロリアに比べたら、ずっと美人じゃないの!」


「家では、いつもグロリアと比べられてて、足元にも及ばないと。侍女たちも」


「何を言っているの。グロリアなんか、可愛らしい顔立ちだったかもしれないけど、振る舞いがどうにもこうにも、恥ずかしかったわ。それに、あなたの家に結婚の打診をしたがっている家のほとんどが、ご子息からの申し出が裏にあるらしいのよ?」


「どこでみたんでしょうか?」


パーティには二回しか出ていない。最初のパーティは、義母の差し金でアンダーソン夫人から、不毛のウサギ愛を聞かされていた。二度目はアーノルド様とばかり、お話ししていた。


「パーティでお話は出来なくても、姿や立ち居振る舞いを見たのでしょうね。それで好ましいと考えたのでしょう」




女ばかりのお茶会には出られても、適当な付き添いがいない私に夜会は敷居が高かった。


だから、私の結婚問題は急がなくてはならなかったのだけど、進んでいなかった。


「それでどうなの? どこかのお家と決定済みってことはないわよね?」


私はアーノルド様のことを考えた。


水くさい、もっと頼んでくれと言った人のことを。


でも、まだ決定しているわけではないし。それに、本人からはっきり結婚を申し込まれているわけでもない。父も保留をかけていた。


「まだ、決まってはいません」


ギブソン夫人がニコリと笑った。


「わかったわ」

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