第3話 お茶会に出られない
そして冒頭のお茶会になったのだ。
アーノルド様をお招きしての会だったが、結句ひどい土砂降りになってしまった。
「幸先悪いわねえ」
義母が空を見上げながら言った。
「この悪天候では、アーノルド様も気が重いでしょう。来られないかも知れないわ。まあ、無理矢理、親の都合で決められただけの婚約者では来る気にもなれないでしょうしね」
階段を駆け下りてくる音がした。妹のグロリアだ。
「お母さま、アーノルド様をお迎えするのに、このドレスでいいかしら?」
明るいオレンジ色のドレスはグロリアにはよく似合う。だけど、グロリアに会いに来るはずではないんだけど。
アーノルド様のことはよく知っている。
義母や義妹以上によく。なぜなら、私は一時期リンカン家に預けられていたからだ。
母が病気だった時、私は母の親友だったリンカン夫人の手元にあずけられていた。
アーノルドは一人っ子で、妹が出来たみたいに喜んでくれたけど、私は母の容体が心配でそれどころではなかった。
一週間程度預けられるだけの予定だったが、それが一か月に延び、私は無理を言って母の元に戻ったけれど、母が透き通るように痩せているのを見て、何も言えなくなった。
母が亡くなった後は、私は泣き暮らしていたけれど、しばらくして、またリンカン夫人が迎えに来てくれた。父が仕事の関係で数か月家を離れることになったからだった。
アーノルドの顔を見るのは嬉しかった。
だって、彼は私の母の悲しみから私を救ってくれた。
別のことを考えさせてくれた。本だったり、あまり得意ではない数学の話だったり、興味がわく歴史の話だったり、いろいろだったけれど。
父が再婚して後妻の義母と義妹を連れて帰ってきた時は不安だった。
だが母と呼ぶ人が自邸に入るなら、私は帰らないわけにはいかなかった。
「アーノルド様は、先日のお茶会でもお会いしたのよ」
グロリアは楽しそうに言った。
「いろんなお話をしたわ。私に、とっても興味があるみたい」
義母は思わず笑顔になった。
「あなたに興味がある男性は、アーノルド様だけではないでしょう?」
「それはそうだけど。彼ったら、とても熱心なの」
私は黙って聞いていた。
妹のものに比べ、格段に品落ちするドレスを着付けられ、婚約者に会うことになった。
色合いも私には絶対に合わない妙な濃い緑色のドレスだった。
それは、母のお古だった。
私の方は母より大きく成長してしまったので、丈が足りなかったので、裾を解いてスカート丈を伸ばしたのだが、古い生地だったので、その部分だけ色が変わってしまっている。
そして義妹にはよく似合う目立つドレス。
この婚約を破談にしたいのかなと思ったくらいだった。
義母と義妹は、私を家から出さないで飼い殺しにするつもりなのかも知れない。
義母も義妹も、私はあまり好きな人たちではなかった。義母は口やかましく、躾と称してあれこれダメ出しするし、義妹は何かと自慢をしにくる。それから、目についた私のドレスや装飾品は、お姉さまには似合わない、ドレスが可哀想と言って、持っていってしまう。
反論しようものなら、義妹の侍女たちが、私がいじめたのでかわいそうなグロリア様が泣いていますと義母に言いつける。
結局、面倒なので、最後には私はいつも謝罪して、グロリアになんでもあげることにした。
五年も経つうちには、私の部屋は、ほぼがらんどうになってしまった。
出来ることなら、この家から出たいな。
だから、アーノルド様の気持ちとは関係なく、この婚約は歓迎だった。むしろ、うまくいって欲しいと祈るような気持だった。
もう、五年くらいアーノルド様と会ってはいない。先日のパーティにアーノルド様はいらしていたようだけど、私はアンダーソン夫人のウサギの話を聞かなくてはいけなかったので、結局、姿を見ることもできなかった。
「あら? いらしたみたいよ?」
グロリアは色めきだって、玄関の方へ走って行こうとした。
私はいつも思うのだけれど、義母は私の口の利き方について、注意するけれど、妹のグロリアの方がよっぽど軽率だし、他人の気を悪くさせるようなことも平気で口にする。
それに、屋敷内を走り回るような真似も平気でしている。
それなのに、義妹は陽気で人気者、私は陰気で気が利かないことになっていて、特に義母の前では、女中たちも私をけなすようなことや注意を平気でする。
「あら。アマリア様、お急ぎにならないと。失礼ですわよ。アーノルド様が、歓迎されていないとお思いになりますわ」
義妹付きの侍女が急ぐように私に言った。
玄関の間からは、妹の嬌声が響いてきた。
「まああ。アーノルド様。すてきなお召し物ですわあ。とってもお似合い。お姉さまにはもったいないくらいだわ」
あの話し方はいいのかしら?
「さあ、こちらの客間へどうぞお入りになって。今日のお茶菓子は、私が選びましたの。ぜひ楽しんでらしてね」
「お招きに
急がなくては。一歩踏み出そうとしたときに、悲劇が起きた。
古いドレスの裾が、ビリビリと破れてしまったのだ。
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