落ちこぼれ戦鬼令嬢の守秘条款 〜学院に入学できなかった少女が〝路上にひきこもる〟系ニートになると思ったら〜
はねる
第1章
第1話 陛下の手紙
「突然だが、君を合格させることはできない」
……は?
おっと危ない危ない、うっかり口に出してしまうところだった。
そうなれば私の学院生活が終わって……いや、始まってもいませんでした。そもそも始まる未来が今現在消えました。
「えっと、詳細とか……詳しく……」
目の前に座る美人さんに問う。どうやらここ――帝立魔剣術養成学院の理事長をやってるらしい。
ディアラ・レイズエット。
金色に輝く艶やかな髪を後ろで結んでおり、若干吊り上がった紫紺の瞳も相まってどこかボーイッシュな風貌だ。
レイズエット家はこの学院の創始者であると言われており、先祖代々この学院の理事長を務めている。ディアラも元理事長である父の引退と同時に就任した。
何といっても、超美人! いや超イケメン? わからないけど、女の私も惚れちゃいそうなくらい。
話し始めた。
「そうだな……端的に言うと君、なーんか怪しいんだよね」
「……は?」
あ、ついうっかり、ほんとにうっかり言っちゃった。これで私の学院生活が……おっとっと。
「君は筆記・実技試験共に合格基準はちゃんと超過していたよ。けどね、君をここに置いておくのは勿体ないんだよね」
「…………はぁ?」
あれれ、また言っちゃったよ。
いやでも、仕方ないよね。入学する気満々でここに来たのに(理事長に呼び出されたのも、主席入学だからと思っていた)、合格させることはできないとか言われたんだから。
「とにかく、これからは君のことを特別不合格者として扱うことになる。その点理解よろしくね」
「つ、つまり私は不合格、ということ?」
「それはさっきから言ってるじゃないか」
不合格かぁ。まさか半ば強制的にひきこもりを要求してくるとは。嫌じゃないけどさ。
……って、家ないよ! 帰れないよ! ひきこもれないよ!
おっと失敬。
前々から学内の寮に住む気だったから、帰る場所がないんだ。私もこれからはホームレスかな。私は〝路上にひきこもる〟っていうパワーワードを手に入れた!
「えっと、リアナ・フィアローズだったか。これからは君のことを特別不合格者として扱うことになる。その点理解よろしくね」
「それさっきも言いませんでしたっけ」
「ちゃんと理解しているか不安でね」
「さっきので理解したよ!」
この人、私のことばかにしてるよね。そうだよね!
「あははっ、ノリがいい子だね! 私は好きだよ」
「あ、はは……どうも」
好きになられてもあんまり嬉しくないんだけど……
それより、私は今からホームレスになるんだ。多少はお金がないと生きられないよね。けど、お金ないんだよなぁ。お金ほしいなぁ。お金くれないかなぁ。
「……お金くれないかなぁ」
「ん? お金?」
「あ……」
まずい。ずっと考えてたら言っちゃった。
あ! そんな目で見ないで! 私が悪い人になっちゃう! ……いや、冷静になれ。言ってしまった私が悪い。
「そうだな……お金は渡せないが、代わりに別のものを渡そう」
「ですよね……って、それは何?」
「何? って、お金よりよっぽど価値のあるものさ」
そう言ってディアラは机上の資料の山をかき分け、小さな封筒を手に取る。そして私の方に渡してくる。
なんだろう。今までの話は全て嘘で、この封筒の中に真実が書かれた資料が入ってるとか? うん、ありえる。大いにありえる。
「ほれ、まあ見てみ?」
「はぁ……」
受け取る。なんかほこり臭い。
恐る恐る封を開けてみる。随分としっかりとしたものだったから、破いてしまわないか不安だったけど、私の手先が器用だったから綺麗に開けることができた。
目の前ではディアラがにっこにこしながらこっちを見つめている。中身が何なのか、より一層気になってきた。
中に入っていたのは、薄い紙だった。本当に、何を書いているんだと思うくらいに薄い薄い。
封筒から取り出してみると、その薄さを実感できた。加えて、その紙が上質なものであるということもわかった。差出人が理事長だから? 身分が高くてお金持ちな理事長だからかな?
……なんて、思ってた私が悪かったですよ。
「え……差出人って、女帝陛下本人!?」
「ああそうだ。驚いたか?」
「驚くも何も、超びっくりですよ! スーパーサプライズでしゅよ!」
「可愛いなおい。お姉さん、お金をあげたくなっちゃうよ」
ほんとびっくり。
……え? 私、何かやっちゃいました? って言ってやりたいところ。
もう、ほんとに不安。まさか、何かとんでもないことをやっちゃったから不合格になったのかな。だから陛下直々に手紙を出してきたのかな。
つまり、おこられるってこと……?
やだよ。こわいよ。
「ま、中身見てみなよ」
「は、はい」
ごくり。
えっと、なになに?
――リアナ・フィアローズよ、至急、童の元まで来るがよい。
……それだけ?
ちょっと待て。さっき「お金あげたい」って言ってなかった?
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