第51話 エピローグ 

 火星<センターシティー>のSG4指令本部基地。


 調査隊に参加した十六名は、火星の衛星軌道で大型旅客宇宙船

<ドバイ>から連絡艇に乗り換えて火星に降り立った。

指令本部基地の展望デッキでアルバート・ヘインズ司令官に迎えられ、

会議室で簡単な帰任報告会を行っていた。


「今日ここで、全員の顔が見れたことに深く感謝をする。

 怪我をしたンボマ君とネール君には気の毒だったが、調査隊は目的を

 完全に達成し、マーズ・ファルコン隊は見事に大統領を守り切った。

 私は君達を大変誇りに思う。

 またファルコン隊を支えたフィシュバーン君、マリアーノ君、

 サエグサ君、そしてモレナール先生にもお礼をいいたい」


 司令官はもう一度、メンバーを見渡しておおきくうなずいて続けた。

「早く家族の元に戻りたいだろうから、手短に連絡をしておく」


 司令官はSG本部から報告のあった<テラ>捜索状況を皆に伝えた。


 その後のSGによる大捜索でも全く行方が分からなくなっており、

少なくとも火星公転軌道内には、<テラ>が強奪したブルー・ホエール型

輸送船<ヤンゴン>の姿がないことは確かなので、小惑星帯

メインベルトか、木星域まで逃げて行った可能性が有るとのことだった。


 それらの地球圏から遠く離れた場所にも、研究者や資源開発者などの

少数の移住者が各所におり、夫々SG部隊も配備されているので、

<テラ>の危険性を連絡して、注意喚起を行ったとのことだった。


 <テラ>が強奪した宇宙ステーション内では、空気、飲料水、食料などは

完全リサイクルできるはずだし、輸送船に鉱物資源なども大量に積んでる。

このことから、不足するとしたら燃料水だけであり、現在は水が

確保できる小天体を探しているだろうと、SG本部は推測していた。


 また、世界政府とSG本部が議論をした結果、<テラ>が本当に

完全独立をして、他の宇宙移住都市や設備に攻撃をするようなことが

無いのであれば、世界政府側から彼らを捕らえるために、

積極的に攻撃をすることはしない方向で動いているとのことだった。


 トロヤ・イーストにおける犯罪行為は決して許すことはできないが、

多数のスペース・ホークを強奪した相手と一戦を交えれば、双方に多大な

死傷者が出るのは明白だった。


 世界政府としては、双方に死傷者を出さないように平和的な解決になるの

であれば、無理に捕まえに行かないという選択も有りうると考えたらしい。


「<テラ>がメインベルト以遠に逃亡しているなら、ここSG4でできる

 ことは何も無い。

 しかし、念のため周辺の警戒探査機は増設する計画になっている」

司令官はそう言って<テラ>に関する報告を締めくくった。


 ヘインズ司令官は話題を変えてケンイチに向かって言った。

「君達、調査隊メンバーには、明日から一週間の代休を取ってもらう。

 その後なんだが、SGの規定通りンボマ君が一年間の育休に入り、

 作戦中に大きな負傷をしたネール君には二ケ月間の特別有給休暇が

 与えられるので、しばらくは第一中隊は十名となる。


 この前の隕石嵐で負傷者も多く、他の隊も応援を出せる状況では無い、

 第一中隊はしばらく十名での当直勤務とならざるを得ない。

 カネムラ君いいかな?」


「はい司令官。承知しました」とケンイチ。

 司令官が思い出したように付け加えた。

「そう言えば、あと数ケ月で新入隊員が火星に配属されるので、

 訓練成績が優秀な者を第一中隊に優先的に配属するようにしよう」

「はい。ありがとうございます」


 司令官は今度は、ダミアン・ファン・ハーレンの方に向かって言った。


「実は、大統領からも君たちにメッセージが入っているから、そのまま

 読み上げるぞ。

 『SG4の諸君へ、今回の活躍には深く感謝をする。サロンでの解散式の

 時に、ダミアン・ファン・ハーレン君から大統領機のフードプロセッサー

 が美味しくて、皆がずいぶん喜んでいたと聞いた。

 私からのささやかなお礼として、SG4の指令本部基地に同じメーカー

 のフード・プロセッサーを数台送らせてもらうから、

 ぜひ皆に使ってもらいたい』 とのことだ」


 この大統領のメッセージを聞いて、皆が歓声を上げた。


「おい。ダミアン。いつの間に大統領に、そんなおねだりをしてたんだ?」

 ジョンがダミアンの肩を叩きながら言うと、ダミアンは呟いた。

「あれ美味しかったって言っただけ」

「ナイス。ナイス。他の中隊の皆も大喜びだぜ」


 司令官は、皆の喜びようを見て言った。

「そんなに美味しいフードプロセッサーなのか? 私も食べるのが随分と

 楽しみになってきたよ」

 

  ***


 ケンイチは久しぶりに指令本部基地内の生活区域の自分の部屋に入ると、

殺風景で全く飾り気の無い部屋を見渡した。

こうやって一人だけの部屋に帰ると、ほっとはする。

しかし、以前より何だか寂しさを感じた。


 部屋の収納をかき回すと、しまい込んであったアクリル製の

写真立てを取り出した。


ボストンバッグから、大統領機のサロンで取った大統領と補佐官そして

マーズ・ファルコン隊全員での記念写真を入れる。

壁の前の飾り棚に置いた。

—— みんないい顔してるな —— 


家族のいない自分にとっては、第一中隊の皆が家族のようなものだった。


 さらに小惑星エルドラドの売店で買ったTシャツを取り出し、

ハンガーを差し込んで、飾り棚の上のフックに掛けて広げると、

少し離れた所で両手を腰に当てて満足げに眺めた。

—— うん。いい感じだ —— 


 そのTシャツには、小惑星エルドラドの写真がプリントされており、

その写真の下には大統領のメッセージとサインが書いてあった。


—— 私はダークサイドKKの大ファンだった。君が今でもSG4で

   最高のチームを作っているのを見ることができて嬉しかった。

   君と君のチームに心から感謝する。

                 ジャック・ウィルソン大統領——






次回エピソード> 【SG4シリーズ 第二弾のお知らせ】



  

 

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