現実で無双してる強い僕なら好きになってくれますか?~陰キャだった僕が魔眼を手に入れたら、ギャルも清楚も天然も僕を好きになってしまうようです~
カニクウ
第1話 神様のラブレター
『
あなたのことをずっと目で追っています。
私の心の高鳴りをいつかあなたに伝えたいと思っていました。
放課後、あなたと私の教室に来てください。ずっと待ってます』
僕は最後まで読んでから、震える手を抑えながら深呼吸する。
これはラブレターって奴だよな。
周囲をキョロキョロと見回してから手紙を隠すように鞄の中へと仕舞った。
誰にも見られないよう足早に歩きながら教室へと向かう。
こんな幸せな気持ちになったのはいつ振りだろうか。ラブレターなんて生まれて初めてもらった。
生きていれば良い事の一つや二つ……いや、ちょっと待て。
ふと冷静になって気付いた。
「冗談って可能性もあるよな……」
本物だと思いたいが、まだわからない。
だってそうだろ。
僕はクラスメイトから嫌われていて、ただご飯を食べるだけで陽キャの奴らにバカにされ、嘲笑のタネにされるほど。
このラブレターだって僕を誘い出す為の罠かもしれない。
それに名前が書かれてない、差出人がわからないのに呼び出しを真に受けるのはあまりにも危険だ。
でも僕はこれが本物であるという可能性に賭けてみたい。
容姿も悪い、運動なんて全然ダメ、勉強も中の下。そんな僕でも全人類から嫌われているなんてあり得ない。
こんな僕を好きになってくれている人は必ずどこかにいるはずだ。
そう強く思いながら僕は教室の扉を開けた。
「おっは、南雲くん」
キラキラと金色の髪をなびかせながら、制服を着崩して胸元を開けさせている。
ギャルの
「……おはよう」
どういうことだ。
普段は僕に対して侮辱の言葉しか言わない彼女がなんで挨拶を。
教室には僕と桃園さんの二人。
もしかして二人きりなら僕を虐めることはないのでは。
「なに? ウチの顔になんかついてる?」
「え、いや、なんでもないです」
そそくさと自分の席に着いて僕は今、起こったことを整理する。
桃園さんの様子がおかしい。
挨拶をしてくるし、見つめてしまったのに罵倒の一つも飛んでこない。
もしかして僕を虐めることに飽きたのかな、だとしたらいいけど。……さすがに桃園さんがラブレターの送り主ってことはないよな。
チラッと横目で桃園さんを見ると、少し思いつめた表情で自分の席に座っていた。
……そもそも何で彼女がこんな早く学校に来ているんだ。
ラブレターを下駄箱に入れる為に早く来ていた、そう考えたら――いや、いやいやそんなことを考えちゃだめだ。
有り得ない、だって彼女は僕に対して好意なんて持っているはずがない。
「ね、ねえ、ちょっといい」
顔を上げると桃園さんが僕の席まで歩いて来ていた。
口から言葉が出なかったので、強く頷いて答えた。すると彼女は一つ息を吐いてから言葉を続ける。
「ウチさ、あんたのこと」
ガラッと教室の扉が開いて誰かが入って来る。
「おうぃす、美鈴」
桃園さんは振り返って男の顔を確認した。
「お、おはよ、春斗」
僕をバカにしてくる男、第一号の登場だ。桃園さんは
何を言おうとしていたのか気になるが、今彼女に話しかけに行けば僕だけでなく桃園さんも巻き込んでしまう。
一つ言えるのは、悪口を言われる気配ではなかった。
まるで告白をする直前のような雰囲気、いやでもまさかな。
机へと視線を落とすと、紙切れが置いてあった。
桃園さんが置き忘れたのか、訝しみながら紙切れに書かれている文字を読む。
『放課後、待ってるから』
やっぱりラブレターを渡してきたのは桃園さんだったのか。
僕は言葉にならない何かが胸の中で込み上げてくるのを感じた。グッと紙切れを握りつぶしてにやける顔を手で覆って隠した。
◇
放課後、教室には僕だけが残っていた。
今日は誰かに嫌がらせされることも暴言を吐かれることもなく、久しぶりにこんな穏やかな日々を過ごした。
なんだか僕の時代がようやく始まった、そんな気もする。これで桃園さんが彼女になったら僕は、僕は……。
「ごめん、遅くなって」
ほんの数メートルという距離、桃園美玲は微かに笑顔を浮かべている。少し照れているのか頬が赤い。
「えっとこれ書いたのって」
僕はラブレターを見せた。
「うん、そう。ウチはあなたのことが」
ごくっと唾を飲み込む音がやけに大きく聞こえた。
桃園さんは言葉を区切ってから満面の笑みを浮かべる。
「反吐が出るほどだーいっきらいなの」
「え?」
「聞こえなかった? 二度と顔も見たくないし、会話するのも気持ち悪い。ウチがアンタみたいな男を好きになると思った? それはラブレターなんてメルヘンなもんじゃないよ」
そう彼女が言い終わったあと、ぞろぞろと見知った顔の男達がやって来た。
やっぱり罠だった、ということか。
何が低い確率に賭けてみるだよ、アホ。自分の立場なんて嫌というほどわかっていたはずなのに……。
「よぉ、気分はどうだ?」
長瀬が俺と桃園さんの間に割り込むように立った。
返す言葉が見つからず、黙っていると長瀬が低い声音で呟く。
「なあお前、いつになったら学校辞めんの?」
「やめる? 僕が」
長瀬は呆れたと言わんばかりの顔をして淡々と告げる。
「お前みたいな良い所一つもない、欠点だらけのゴミが俺たちエリートと同じ空気を吸ってるのが耐えらんねえだわ。なあお前さ、本気で美鈴に告白されるとか思ってたわけ? んなわけねえからぁ!」
「……僕、帰ります」
なんだか嫌な予感がしてこの場から立ち去ろうとする。
しかし長瀬に肩を掴まれた。
「待てよ、南雲。今日はな、俺たちでお前を胴上げしに来たんだ」
「は?」
「おい窓開けろ。こいつを今から祀り立てる」
それからの記憶はない。
気付けば僕は頭から地面に落下し、――神の世界へ辿り着いた。
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