第五章

第31話『初めてのパーティで、えぇ!?』

 公休日の申請は、事務員の先生に質問してみたらスムーズに終わった。

 そして次の日に、私はダンジョンクエスト前に集合するよう指示されたホテルの一室に居る。

 どうやらここで今回のパーティを組む人達と顔合わせをするらしい。


 どんな人達と一緒になるのか、ドキドキが止まらなかったんだけど……。


「あんまり緊張しなくて大丈夫だからね。私以外は全員が変人しか居ないけど、危害は加えないから」

「は、ははぁ……」


 ソファに座る私達。

 だけど、肩に力が入ってしまっているのは私だけで、3人は全く緊張していないみたい。


浅葱あさぎ先輩、私も一応は常識人枠だと思うんすけど」

「あらそう? だって、可愛い名前をしている割に、戦い方がアレじゃない」

「あたしは今、褒められているんすか? 貶されているんすか?」

「褒めているのよ」


 それはもう、仰天。

 まさかのまさかで、特装隊の人達とパーティを組むことになってしまった。

 といっても全員ではなく、先ほど自己紹介してもらった――浅葱あさぎあささん・能乃之ののの音暖ののさん・未明みあけ炎墨えんぼくさんの三人。


 ショッピングモールの時には他に男の人がお2人いたけど、今回はそのお2人とも別のパーティに配属された、と聞かされた。


「お2人とも、身内ノリはそこまでにしてください。これより3日間、全員で戦っていくのですから――」

「そうっすよね。悪かったっす。そうそう、あたし達は同い年だからできれば気兼ねなく接してほしいっす」

「わかったよ。よろしくね」

「お、以外に対応力が優れてる感じなんすね。ちなみに、あたしの語尾は敬語とかではないから気にしないでほしいっす。美夜って呼ぶから、音暖って呼んでほしいっす」

音暖のの、うん。わかった」


 私と音暖は、少し体を乗り出して握手を交わした。


「一応、武器形態ぐらいは情報交換をしておいた方が良さそうね。私は両刃槍」

「あたしは短剣2本っす」

「僕は両籠手になります」

「私は刀の1本です。――って、え? 炎墨さんって、武器ではなく防具なんですか?」


 驚きのあまり、つい勢いで名前を読んでしまい、謝ろうとしたけど、


「名前の呼び方に関しては、音暖さんと一緒で下の名前で呼び合いましょう」

「そうね、私も雅って呼んでちょうだい。あー、でも年上を呼び捨てっていうのは気が引けるだろうから、炎墨や私には『さん』でも付けておいて」

「お気遣いいただきありがとうございます」


 止められたのに、私は無意識に頭を下げてしまう。


「まあ、徐々に打ち解けていけばいいから、ね」

「はいっ」

「それで、質問に答えるなら防具という認識で間違いはありません。ちなみに、人によりますが武器や防具を複数個出現させる人もいます」

「ほほぉ~っ!」


 探索者になってそこまで日が経っていないというのもあるけど、誰も知り合いがいないからこういう話はとても新鮮。


「ふと思ったのですが、特装隊の皆さんってこういったクエストの時に他の人達と組むものなんですか?」


 なんの前触れもないけど、純粋な疑問を抱く。


「まあ、その質問が出るまで時間の問題だったからね。秘匿ってわけでもないし、言ってもいいわよね」

「いいと思うっすよ」

「そうですね」


 どんな凄い理由があるんだろう、と背筋がピンッと伸びてしまう。


「詳しいことは聞いていないんだけど、とある人物から、依頼があったみたい」

「い、依頼ですか?」

「うん。私達に依頼が舞い込んでくるっていうのは、とんでもないほど珍しい話であり、そもそも私達に依頼ができるような個人っていうのはそんなにいないの」

「そうなんすよ。あたし達は、どっかからは歩く正義なんて言われてたりして、探索者組合でも滅多に指示は飛んでこないんす」

「我々は政府や探索者組合からの要請には従うものの、問題解決方法に関しては全てこちらの自由になっております」

「ほほおぉ……なんだか私のような一般の人間からすると規模感が違いすぎますね……」


 文字通り別世界のお話に、他人事にしか思えない。


「ふふっ、面白いわね美夜ちゃんって。私の言葉を忘れたの? 自分がその当事者なのよ」

「あっ、えっ?」

「あれよ、要するにどこかの権力を持っているような人間が、一般人のあなたを護ってほしいって依頼があったのよ」

「美夜って、いったい何者なんすか? どこかの国のお姫様とかっすか?」

「そそそそそんなことはないよ」


 身に覚えがなさ過ぎて、首と腕を横にブンブンと振った。


 あれ、炎墨さんに……ちょっと笑われているような?


「そんなイレギュラーにこっちも驚いていたんだけど――メンバー全員で保護しながらってのは簡単だろうけど、そうなった場合、美夜ちゃんの今後に関わってくるかもとなってね」

「じゃんけんをすることになったんす」

「じゃ、じゃんけん……?」

「それで、負けたあの2人がどこぞの知らない人達と組んだわけ。一種のカモフラージュね」

「な、なるほど」


 確かに自分のことながら、やっぱり別世界の話にしか思えない。


「とりあえずそんな感じだから、大船に乗った気分でいてほしいんだけど――油断だけはしないようにね」

「はい、わかりました」


 そうだよね。

 皆さんはとてもお強いはず。

 だけど、それに甘えていては探索者の資格なんてない。

 いつも通りに自分の身は自分で守れるようにしないと。


「後は現地で戦いながら連携を確認しましょう」

「そうっすね。あたしはもうお腹ペコペコっす」

「これからラーメンに行こうとしていますね?」

「嫌なの?」

「賛成です」


 そんなやり取りの後、私に視線が集まる。


「美夜って、ニンニクマシマシ豚骨ラーメンって食べられないっすか?」

「ううん、食べられるよ」

「じゃあ決まりっす」

「ここの近くにあるお店が絶品なのよね~」


 雲の上にいる存在かと思っていたのに、なんだか肩透かしを食らってしまった気分。

 でも、話しやすい人達でよかった。


 いい感じに緊張もほぐれてかな。

 んん~でも、そんな感じのラーメンを食べるの初めてだから、ちゃんと食べられるかな……?

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