第26話『ビックニュースに食いつく者』
某所にある事務所にて、とある新人記者がSNSを休憩時間に眺めていた。
なんら普通の、休憩室にてコンビニで購入した弁当と飲み物をちまちまと口に運びながら。
「ん~、なんか面白い話題ないかなぁ~」
その青年は、若々しさという言葉は似合わない程度には、足を組んで背中を丸めるという典型的な悪い姿勢でスマホを覗いている。
「今日も話題を見つけられないと、そろそろクビになっちゃうなぁ。はぁ……」
日々のネタを探すべく日々奮闘するも、なかなかに成果を出せずにいた。
そんなスワイプしては次、タップしては戻る、を繰り返していると、とある呟きが目に入る。
《うちの学校で、探索者栄誉賞っていうのを受賞した女の子がいるんだけど。これってヤバくない?》
写真が投稿されているわけではなく信憑性が何一つないものだが、【女子学生が探索者栄誉賞を受賞】というワードは目が釘付けとなるには十分だった。
「こ、これはビックニュースの予感っ!」
急に立ち上がり、水を得た魚のように青年は上司の元へと駆け出した。
「せ、先輩! 僕、ついにみつけちゃいましたよ!」
「なによ急に。それでなにをみつけたのよ、かわいい女の子とか?」
「先輩、そのイジリやめてください。僕だって好きで女の子の画像を表示させているわけじゃないですよ」
「え、きみってもしかして年上好きなの? 私、まだ結婚する気なんてないわよ」
青年は直属の女上司へ、ジト目を向ける。
「先輩はとてもキレイですし、記者からモデルに転身したらどうですかって提案したいですんですけど、いつから僕は先輩の彼氏になったんですか。まだ告白もしてないと思うのですが」
「その口調だと、そろそろ私へ告白するってことだな~? いやだぁーどうしよー」
「両手を頬に当てて体をクネクネとさせないでください。僕はそう思っていないと同時に、先輩だって微塵もその気がないくせに」
「さあ? それはどうかしら」
「そんなことはどうでもいいんです。ちゃんと僕の話を聴いてください」
肩を落とし、盛大な溜息を洩らした後、青年は右ポケットからスマホを取り出してロックを解除する。
「これ、見てください」
「どれどれ。ふぅーん、ほぉー。もしもこれが本当だとしたら、超が付くほどのビックニュースになるわね」
「ですよね。じゃあ、今回の記事はやってみる?」
「え、いいんですか? でも僕、初めてなんでどうしたらいいか……」
「なに言ってるのよ。私だってちゃんとサポートするわよ。だけど、手柄はしっかりときみのもの」
青年は目をうるうるとさせ始める。
「や、やめてよ。まだ仕事としては始まってすらないんだから」
「そうですね。僕、一所懸命頑張ります」
「じゃあまずはアポ取りからね。これに関しては、ぶっちゃけマニュアルをそのままコピペしちゃって大丈夫だから。問題はその次からね」
「わかりました。早速DM送っちゃいます」
作業を始める青年へ、アドバイスを続ける。
「一応だけど、相手は女の子っぽい感じよね?」
「たぶんそうだと思います。プロフィールの画像が某遊園地ですし、自己紹介文も『ぴっちぴちのJK! 夢はおっきくがモットー』とか書いちゃってますし」
「青いわね」
「ですね」
DMを送信後、すぐに折り返し連絡が入る。
「うっわ、はや。さすがJK」
「ちょうどお昼休みだからじゃない?」
「なるほど、たしかに」
「それでなんて?」
「えー、『取材ってあの取材ですか!? 私こういうのって初めてなんですけど、顔バレとかそういうのは配慮してくれるんでしょうか!』です」
「最近の若い子っていうのは、警戒心とかが薄いのかしらね。食いつきが凄いというか、逆に心が純粋って話なのかわからないけど。まあスムーズにことが運べそうね」
青年はすぐに文字を入力し始める。
「先輩、情報提供は文章だけでも証拠としては問題なさそうですか?」
「まあそうね。その子って、本名だったりはしない?」
「はい」
「ならその子にはここから数回のやり取りを経て、最後に学校が特定できない、でもある程度はわかるような感じに聞いて。後は、自分達の足を使って学校の生徒達に直接聞きに行きましょう」
「わかりました!」
やる気に満ちた目でスマホを操作する青年を横目に、女上司は作戦を練り始める。
(後輩くんが情報を掴んでくれたけど、このことはたぶん他も嗅ぎつけているはず。今やり取りをしている子は、たぶん他のところには情報を渡してはいない。嬉々としている後輩くんのやる気を削がないためにもここは黙っておいた方がよさそうね)
「先輩、終わりました!」
「お疲れ様。じゃあ今日から下校時間を狙って張り込むわよ」
「はい! あれ、朝はいいんですか?」
「想像してみて。朝の気怠い時に取材されて、すんなり取材に応じる人がどれだけいるかって話よ」
「あ~なるほど。僕も取材される側だったら、その件について詳しい情報を持っていたとしても避けますね。それが高校生だったらなおさら」
「わかればよろしい」
褒めてもないのに、どこか嬉しそうにしている後輩を観て、女上司は(あ、ちょっと子犬みたいでかわいいかも)なんてことを思う。
「ここからが本番だから、気合を入れていくわよ」
「僕、この取材がうまくいったら――先輩と一緒に腹が膨れるほど肉を食べたいですっ!」
「ん? きみ、なんだかよろしくないような感じに話をするじゃない」
「え? 前向きな考え方だって褒めてもらえると思ったのに」
「まあそうね?」
女上司は、謎の違和感を抱えつつも取材に向かう準備を始めた。
先ほどの予想は見事に的中していて、他の民間放送以外のインターネット記者達は今回の件しっかりと嗅ぎつけ、行動を起こし始めている。
そして、取材に応じた彼女彼らは知らない。
舞い上がった気分から、よかれと思い行った情報提供のせいで、自分の通う学校が記者達の標的とされ、他の関係のない生徒達にも危害が及んでしまうことを。
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