第三章
第15話『配信者は受けた恩を返したい』
ゲーム配信者である
(つい数日前に助けてくれたあの少女は、大丈夫なのだろうか)
マネージャーと企業の社員は今も画面越しに話し合っていた。
夜遅くだというのに、互いに自宅だというのにスーツをビシッと決め、髪型をしっかりと整えている。
ちなみに
この会議はかなり重要なもので、世界初の試みであり、楽が半ば人体実験としてダンジョンへ入った時に実験は行われていた。
「ではRakutaさん、今回のテストでは収獲は得られなかったということで大丈夫ですね?」
「あー、そういうわけではもなくて。しっかりとダンジョン内へ電波は届いていましたし、不具合も起きませんでした」
「なるほど。でも、途中で録画を止めてしまったと」
「あはは……ごめんなさい」
「いえいえ、重要事項は成功ということがわかっただけでもかなりの進歩です」
楽はあの日、最後にダンジョンから出た際に誤って電源ボタンを押してしまっていたのだ。
「Rakutaさんが世界初の配信者兼探索者になったおかげで、今回の仕事をお受けすることができたのですよ」
「そうですね。今回の一大プロジェクトに適任でした」
「本当に凄いですよね。今までダンジョン内では電波――配信ができる強力な電波を送れるようになるだなんて。まさに画期的、いや、革命的ですね」
「いやはや、ここにたどり着くまでに10年はかかってしまいました」
マネージャーの
「できればRakutaさんのアカウントで配信できていたら良かったんですけどね。一応は試験段階ということなので」
「いえいえ。このような機会をいただけただけでもありがたいことですので、お気になさらず」
「そう言っていただけると、こちらも気が楽になります。それでなのですが……」
相手の男は咳払いをしたり、目線を泳がせたりと、少しばかり挙動不審な動きをした後、意を決したかのように話題を切り出す。
「製品開発のために配信を録画させていただいたのはご存じかと思いますが……」
「ああ、そのことですか」
「はい。とても辛い経験をされたのだと把握いたしましたので、こちらのデータの方は、こちらとしては惜しい気持ちは拭えませんが削除しようと思います」
「……」
楽は迷う。
意気揚々にダンジョンへ向かい、浮かれた気分から急に地獄を味わったのだ、忘れられるはずはなく、ダンジョンという場所に対して恐怖心さえ抱いてしまっていた。
このまま記憶から消し去るためにも、今後目に入らないように削除してもらった方がいいに決まっている。
だが、もう1つだけ思うことがある。
(俺はあの少女に命を助けてもらった。あの時は気が動転して恩返しどころではなかったが、今ならしっかりと頭が回る。だが、どうやって彼女を探せばいいのかわからない。頼みの綱は、あの時に配信され録画されていたもののみ。だとしたら、削除してしまうわけにはいかない)
と、同じくして葛藤が渦巻く。
(だけど、もう行きたくないと思っているダンジョンの光景を、あの獰猛なモンスターを再び観なければならない。……自分でも認識できるほどのトラウマと、向き合えるのか……?)
思い出そうとしただけでも震える足を叩き、堪える。
(……あの時、あの子はこんな俺を助けてくれた。勇気を振り絞って、見ず知らずの人間を助けるために。――なら)
楽は両拳に力を込めて腿に押し付けた。
「その録画、残してもらっても大丈夫です。それと、厚かましいようで申し訳ないのですが、こちらへコピーをいただいてもよろしいでしょうか」
「え……まあ、信用商売ですからデータをお渡しすること自体は問題ないですが……本当に大丈夫なのですか?」
「はい。それと、もしも情報が漏洩した場合、4桁ぐらいはしっかりと謝罪の気持ちを込めてお渡しいたしますよ」
「ちょっとRakutaさん! そんなことを勝手に言われても! もしもの時は、こっちが危ないんですからね」
「まあ、その時はその時で」
「はぁ……管理の方は自己責任でお願いしますね。僕は怖くて持ちたくありませんから」
「わかりました」
時刻は23時。
「じゃあそろそろ会議は終了ということで。この後の配信も頑張ってくださいね。応援していますから」
「ありがとうございます」
企業からの圧を感じるも、楽はいつもの配信でみせる笑顔で応えた。
「それでは失礼します」
マネージャーと楽が残り。
「楽さん、本当にお願いしますよ」
「はいはい、大丈夫ですって」
「それにしてもよかったんですか?」
「あ~……まあ、やらなきゃいけないことができまして」
「一応、釘を刺しておきますけど――絶対に配信上で使うなんてことはやめてくださいね」
「そんなの当たり前じゃないですか。俺だって、そこまで馬鹿じゃないですよ」
「僕からはここまでです。では、深夜の配信も無理をせず頑張ってください」
「ありがとうございます」
「それじゃあ失礼します」
「お疲れ様でした」
通話は途切れた。
「さて。どうやって彼女を探そうか。簡単な話、さっき忠告されたことをそのままやれば、できるだけ早く拡散できて探せるかもしれないんだけど。それはさすがにマズいよな。じゃあどうするか……あ、やべっそろそろ時間だ」
楽は急いで配信を始める準備を整え、深呼吸をした。
「本日も始めますかっ」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます