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「あ、あなた……誰なの……?」

「そりゃァこっちの台詞だ。ヒトの縄張りに入って騒いで……何なんだテメェら」


鋭い眼光で睨みつけられる。

お手伝いさん達は皆その眼光に負けてしまったようだが、私は負けなかった。……だって、別に怖くないもの。


「ねえ、あなた……」

「あなたじゃねェ。俺はシ………いや、違う」

「……?」


男は何かを言いかけて、口を噤んだ。

気になるが、今の私はそんなことを気にしている余裕など無い。

何とか振りほどいて、逃げないといけない。

この状況でそんなことばかり考えていた。





「それより女。お前なんか隠し持ってンな?」

「……私のこと……?別に、何も持ってない……」


私の言葉を無視して、その男はこちらに歩み寄る。

お手伝いさん達が何か喚いているが全て無視。


「……こっから何か、甘い匂いがすンだよ」

「ひょっとして、チョコレートのこと……?」


私が言い終わる前に男は私のポケットからチョコレートを取り上げた。


「はッ、いいモン持ってんじゃねェか。10日間、草以外食えてねーからなァ」

「……そうなの?」





お手伝いさんが何か喚いている中、私はお手伝いさんに抱き上げられながら目の前の男と会話する。

普通に異様な光景だ。


「裏のコンビニの店主がクズ野郎でなァ。消費期限切れの弁当やパンを俺らホームレスが食えねェように水掛けて捨てやがるのさ」

「酷いね……。そのチョコレート、食べても良いよ」

「くれんのか?今更返せって言っても返さねェからな」

「その代わり、お願いがあるの」


私は異常な状況の中、異常な願いを口にすることにした。

多分、今私がすべき行動はこれで間違いないと思ったからだ。





「……たすけて」

「あァ?」

「この人達、私をおうちに帰そうとする悪い人なの」

「!?ちょ、一体何を仰るのです!?」

「……帰れる家があるのは、ありがてェことじゃねェか」

「私にとっては毒でしかないの。あそこは監獄。もう二度と戻りたくない。助けて欲しいの」


私が助かるのには、もうこの目の前の変な男に縋るしか無いと思ったのだ。

そうでなければ私は今すぐにでも家に連れ帰られ、今度は厳重な警備をつけられ、そのままそこで死ぬまで過ごすことになる。


それならこの人に賭けてみた方がマシだ。

今の私にはその選択肢しか無かった。



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