四作品目「メンヘラは東京の最高摩天楼から」
連坂唯音
メンヘラは東京の最高摩天楼から
彩香は『メンヘラ男』を地上三百五十メートル地点に取り残して上昇した。新学期が始まって三日目に告白をしてきた潮田智夫というクラスメイトは、今、下方百メートルで彩香をさがしていることだろう。
彩香がいる場所からは東京の高層ビル群と富士山が見える。周囲はカップルや子連れで賑わいをみせている。
東京スカイツリーの展望デッキを智夫と一緒に巡る予定も、これでご破算だ。わざわざ三千円も出す価値もなかったなと、彩香は思う。最悪の初デートである。
智夫は展望回廊で彩香を見失って『どこにいったの?』『僕、ひとりだよ?』とショートメッセージを彼女に送信している。
彩香はためいきをつく。十五分前までは、彼の東京二十三区の薀蓄を聞き流しながら、インスタグラムのストーリーを閲覧していたのに、こんな事になってしまったと、髪をかき上げてため息をつく。
十五分前
彩香
「ねね、前歩いているあの人、吉沢亮に似てない?」
智夫
「僕は君の眼中にないってこと?」
彩香
「は。急になに」
智夫
「結構傷つくんだけど。僕がイケてないってことでしょ。どうして、僕と付き合うことにしたの?」
彩香
「は。何言ってんの? 告白してきたのあんたですよね。私にデート場所相談しないで、勝手に『東京の最高摩天楼』に行こうよとか言ってきたの誰でしたっけ。てか、急になにキレてんの?」
智夫
「僕は君にとって必要な男? いらない男?」
彩香
「ちょっと待っててね、トイレいってくるから。智夫くん待っててね~」
こうして智夫を騙し、彼に気づかれず展望デッキに上った彩香。携帯の待ち受け画面をつける。
『僕、十五分四十三秒も待っているんだけど、どこにいったの? 僕はやっぱりいらない子?』と新たなメッセージが表示されている。
彩香はためいきをつく。とんでもなく面倒くさい『メンヘラ男』だ。高校の友人に告白されたことを伝えたら、メンヘラ気質で有名な子だから気を付けなよと、忠告ともアドバイスともとれぬ言葉を貰い受けた。その言葉どおりだったが、一応彼とデートだけでも試してみるかと、告白を受け入れたのが間違いだったのかもしれない。
携帯を見ながら思わず、
「あんなメンヘラにOKするんじゃなかった~。顔はまあまあなのに、性格が東京スカイツリーと同じくらい捻じれているんだもん。遠目で見たらいい男なのに、近づいてみると卑屈なオーラを纏ったクソ愚痴蘊蓄男でした」
とため息をつきながら愚痴も吐く。
すると後方から
「タワーの水平断面は地面では正三角形になっている。しかし、地上約320mの展望台に行くにつれて、三角形から円形に近づく。よって三本足に見える鉄骨が膨らんでいるように見えるんだ。鼎トラスという構造が原因さ。だけど、君の場合、顔も性格も最初から歪んでいたよ。まったく、マスクを日常的に着用するようになったから、僕はこんなヤツに告白することになったんだ」
とよく知る声がした。
四作品目「メンヘラは東京の最高摩天楼から」 連坂唯音 @renzaka2023yuine
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