第164話 お風呂と薄着と……
エリカ、イルゼとの話が終わった。
結局のところ、俺に譲れないところがあるように、イルゼたちにも譲れないものがある。
だから話は無意味に終わった。
どちらも譲れず、かと言って相手をぶちのめしてまで結果を求めない。
平行線だ。平行線に話は流れ、現状維持をする。
聖王国から使節団やなんかが現れる前に、俺は大量のお湯を持って再びスカディたちが待つ宿のほうへと向かった。
食料も大量に運び、準備は万端である。
▼△▼
「みんな、お待たせ」
コンコン、と部屋の扉をノックすると、スカディことスカサハの部屋にまだ全員が集まっていた。
声を発すると扉が開き、俺は中に招かれる。
「あら、ネファリアス様。もう戻ってきたのですか?」
「ちょっと勇者様と話したくらいで特に問題はなかったからね」
「嘘です」
ぴしゃりとスカサハは言った。
「勇者様は私たちの存在を煙たがっていました。理由はわかります。もっともな話だと。そんな勇者様と会話をして、問題がないわけ……」
「本当になかったよ。たしかに揉めはしたけど、向こう側も無理やり君たちを突き出すほど横暴じゃないさ」
「ということは、少なくとも突き出す話は出たわけね」
クロエことシロが鋭い突っ込みを入れてくる。
それを言われると弱いな。俺はややあってからこくりと頷いた。
「まあ、ね」
「やっぱり! どうしてアナタ様はそこまでして私たちのことを……」
「それはもういいじゃん。話したし、何度語っても納得できるかはわからない。今はただ、自分たちのことだけを考えるべきだ」
そう言って俺は、インベントリの中からお湯の入った桶をいくつか取り出した。
「ほら、君たちのためのお湯。タオルもあるし、大きな桶も運んできたよ。ひとりくらいならお湯に浸かれる」
「まあ!」
「本当にそんな量の荷物を運んできたんですか……凄いですね」
「ネファリアス様って万能ですね! やったー! お湯だー!」
スカサハとシロがたまらず驚愕を浮かべて、リーリエことリンディが手放しで褒め称える。
彼女はぴょんぴょんと床を蹴って跳ね回っていた。
「こらこら、跳ね回ると一階の人に失礼だよ。それより、まずは体を洗ってから湯船に浸かろうね。お湯は十分あるから、遠慮せずに使ってくれ」
まずは三人分の小さな桶とそれに入ったお湯、タオルを用意する。
いきなり浴槽に浸かってもお湯が汚れて集中できないだろう。軽くでも汚れを落としておけば変わるはずだ。
そう思って彼女たちにそれらを渡す。
スカサハたちは大変喜んでいた。
「あぁ……! 久しぶりのお湯です!」
「ずっと外で野宿してたから、ただでさえ宿の個室でも嬉しかったのに……」
「さっぱりできますね、二人とも!」
三者三様、それぞれが同じ想いを共有する。
追加で女性用の服の余りを貰ってきた。体を拭く用のタオルとともに衣服も渡し、俺は廊下へ出る。
「それじゃあ終わったら呼んでね。——って、そうだ。シロとリンディの部屋にもお湯を置いておく?」
「ん、そうね。それぞれ別の部屋で入ったほうが効率がいい。お願いします」
「了解」
シロに頼まれて、シロとリンディの部屋にも大きな桶を用意する。
その後はひとり、彼女たちを守るように階段のそばで彼女たちが体を洗うまで待った。
▼△▼
「…………」
スカサハたちの風呂は終わった。つつがなく終わった。
それ自体はとてもよかったと思う。彼女たちも、
「さっぱりしましたねぇ。ありがとうございます、ネファリアス様」
とお礼を口にしていた。
だが、俺はすっかり失念していたのだ……。
女性が風呂に入ったあと、唯一の男である俺がどういう立ち位置に置かれるのかを。
「う、うん……それはよかった」
とてもとても気まずい。
なぜ気まずいかって? ——風呂あがりの女性が目の前に三人もいるからだよ!
もらってきた余りものの服は、そこまでしっかりとしたものではない。
むしろ騎士が使うから意外と薄着だ。だから、目のやり場に困った。
「汚れも落ちてぴかぴかだよ~! 見て見て、ネファリアス様! 手足がきれいになった!」
「そ、そっか……でも、あんまり異性にそういうのを見せるのは……ね?」
彼女たちの着用している下着など、俺が持ってきたものだから……それを付けてるのかと想像もしてしまう。
いかんいかん。
せっかく気を許してもらっているのに、俺がそんな邪な感情を抱くのはよくない。
彼女たちに嫌われてしまう。
「ちょ、ちょっとリンディ! ネファリアス様にくっ付きすぎですよ! 今は体を洗ったばかりなのに……」
「そういうのはもっと仲良くなってからやりなさい」
「そういう意味ではありません! シロも止めてください!」
「えー、なんでー? ネファリアス様は別に嫌じゃないよね? 女の子にくっ付かれるの」
「え? い、嫌じゃないけど……近いと、話しにくいかな?」
急に俺を取り合う美少女たち(大嘘)。
挟まれている俺は、かなり気まずい感じだった。
「ほら、早く離れて、リンディ!」
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