第27話 サブヒロイン
見つけた。
見つけてしまった。思ったよりあっさりと見つかった。
【クライ.ストレイライフ】に登場する悲劇のサブヒロインを。
その特徴的な赤毛を見つめる。
「……お兄様? あの方がどうかいたしましたか?」
ジッと彼女のことを見つめていると、横からマリーの声が聞こえた。
「いや……珍しい格好だからちょっとね。いわゆる奴隷ってやつかな」
「そうですね。アリウム男爵領にはいませんが、王都ほど発展した都市なら珍しくないかと」
「奴隷……か」
彼女は奴隷の少女ミラ。
両親に売られる形で奴隷になった女の子。それだけでも辛いのに、彼女には今後さらなる悲劇が待ち受けている。
救われたと思っていたのに。救われたと思ってしまったがゆえに。
彼女は……主人公のために命を断つ。
自殺ではない。主人公を助けるたけに死ぬとわかっている場所へ赴くのだ。せめて主人公を守って死ぬ盾になるために。
「ずいぶんと彼女のことが気にかかるようですね。もしかして……これが一目惚れというやつですか!?」
「え?」
ガーン、というセルフ効果音を口走り、よく見るとマリーが強いショックを受けていた。
この子はなにを言ってるのかな?
俺があの子に一目惚れ? 前世ならともかく、ネファリアスに転生した今ではありえない。
こんなに可愛らしい天使が目の前にいるのだから。
彼女の勘違いを首を左右に振って否定する。
「違うよ。ただ、ウチにも新しいメイドがひとりくらい増えてもいいんじゃないかなって。マリーは、さっきの子が専属メイドになってくれたら嬉しい? 歳もほとんど同じくらいだろう? やっぱり同い年のメイドがいたほうが何かと気持ちも楽になると思うんだ」
「お兄様……。なんだ、私のことを気にしてくださったのですね。愛してます」
「俺も愛してるよ。それで? 彼女は君のお眼鏡にかなうかな?」
「……そうですね。彼女を助けたい、という気持ちは少なからずあります。お兄様が言うように、年頃の近いメイドがいたほうがいい、という理由もわかります。ですが、お父様たちの許可が下りるでしょうか?」
「下りるよ。最近、ひとりくらいメイドを増やそうかって話してるのを聞いたから。最悪、俺の稼ぎでまかなうことになるさ」
これでも俺はそれなりに金を持ってる。ダンジョンでモンスターを討伐したり、領内に生息するモンスターを討伐してるからね。
ここ王都でも素材を換金しようと思ってる。それをすべてメイドの給料に割り振れば十分に世話はできるだろう。
「へぇ……。そこまでしてあの子をスカウトしたいのですね。やっぱりお兄様……あの子に……」
「あはは。マリーは心配性だね。ありえない話さ。俺がマリー以外の女性に惚れるなんて」
彼女たちはあくまで俺にとって助けるべき対象だ。
ゲームをプレイしてた頃は好意もあったが、いまではそれらは全てマリーに注がれている。
少なく彼女が完璧な婿を見つけるまでは、俺も結婚などしない。絶対にまとわりついてやる!
「本当ですか? マリーは信じますよ? 嘘だったら許しません。嘘だったらマリーはなにをするかわかりません」
「もちろんだとも。その証拠に、兄様はずっとマリーにべったりだろう? あの子はあくまでマリーのためさ」
「……ふふ。はい。お兄様はずっとマリーを想っていてください。マリーもまた、ずっとお兄様を慕い続けます」
「ありがとうマリー。じゃあ帰ったらさっきの話をお父様に伝えるね。きっといい返事がもらえるはずだ」
やたらネットリとした視線を貰いながら、俺はデートを続けた。
頭の片隅では、ずっとミラのことがちらついている。
一刻も早く彼女を救わないとな……。
▼
外が暗くなってきたので俺たちは宿に帰った。両親も自室におり、帰るなり明日の話をされる。
「おかえりネファリアス、マリー。観光は十分にできたかな?」
「ぜんぜん足りません。王都は広すぎます」
「あはは。そうだね。マリーの言うとおりだ。でも明日はパーティーがあるからしっかり休んでね? パーティーが終わったあとなら時間はあるから」
「わかっています。そのために王都に来たことを忘れてません」
「俺もですよお父様」
家のことも自分のこともしっかりこなす。
いずれは両親に置き手紙でも残して家を出る予定だが、それまでは従順な息子を演じたい。
ごめんね……。家を継ぐよりやらなきゃいけないことがあるんだ。
すべてを歪める代償を払わなきゃいけない。そのためなら自分の人生すら捨て去ろう。
その後、メイドの件を持ち出すとあっさり許可が下りた。ちょうどひとり探していたところだった上、年齢が近い女性はたしかに悪くないね、という返事を貰えたからだ。
これでミラは恐らく救える。あとは……明日のパーティーを適当に乗り越えなきゃいけない。
やれやれ。貴族の義務とは面倒だね。
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