笹本真・出島Aの怪異奇譚

@kisaragikanoto

第1話 隔離された少女

制御不能 パートA


か細いランタンの薄明かりが照らす暗い、窓ひとつない部屋


これが私の世界だった


生きていく事において問題はなかった


寝床もあり、水も飲める、寒くも暑くもない


この部屋の中だけなら自由があった


今の私の世界はここが全てだった


昔は……この外で過ごしていたが……覚えていない


いつからか……ここで生活をしていた……


このとても狭い世界で……


だけど、私は幸せなんだ


この世界の外から唯一私に会いにきてくれる人が教えてくれた


ここの外は私を嫌っている


私を笑う怖い世界だと……教えてくれた


それは自分の事をお母さんと言っていた


薄暗い世界で姿はよく見えないが、



お母さんと呼ばれる存在は私の全てだった


お母さんが居なければ、私の世界は生きていけなくなる


コツコツコツコツ……世界の外から足音が聞こえる


お母さんが来る時に聞こえる音


なぜ、私はこんな所にいるかわからなかった


だけど、この音が聞こえてきるだけで安心できた


ギギギィ……重い扉が開く音が私の世界に響く


「〇〇ちゃん、今日も大人しく出来てえらいわ」


そして、お母さんが入ってくる


機嫌が良さそうだけど、その視線は


私の一挙一動の一つ一つに神経を尖らせていた


呼吸がしづらい……お母さんが居なければ、生活出来ないのに……


「どうしたの?〇〇ちゃん?」


返事のない私に少しピリッとした感情のこもった声でお母さんが再度話しかけてきて……


私は慌てて


「うん、私は今日も大人しくしていた……!?」

私の顔に衝撃が走り、その勢いのまま、床に倒れてしまった


「〇〇ちゃん!何その言葉遣い!〇〇ちゃんなんでそんな言葉遣いするの!」

お母さんが私の顔を叩いていた


私の口の中にいつもの生臭いものが広がっていた……


でも私は、表情を崩さず、立ち上がり

「ごめんなさいお母さん、“はい、私は今日も大人しくしていました“」


そう言って、お母さんの次の言葉を待った


打たれた頬が、痙攣しているが、それを奥歯を噛み締めて抑え、長い沈黙の後


「そう!ちゃんとお母さんの言葉には、“はい”と返事をしないといけないの!これはアナタの為なのよ!」


体を抱きしめられる感覚

背中に奇妙な感覚が走る


心臓が狂ったように脈打つ


呼吸が乱れ、息が出来ない


汗が止まらない……口の中が渇く……


何かが込み上がってくる……熱い何かが……


そして意識が飛びそうになる所で、私は解放されたが……


体に力が入らず、そのまま地面に倒れる


息が荒い……私はお母さんに手を伸ばそうとしたが……


冷んやりとした床が感情を鎮めていき……伸ばしていた手から力を抜いた


そして、私は次に来る痛みに歯を食いしばる


「床で寝るとか!はしたないわ!!」

背中に走る衝撃


呼吸が乱れるが、両手で頭を守り蹲り、この衝撃が過ぎるのを待つ


「ハァハァ……これはアナタの為よ……」

しばらくして、息を荒くしたお母さんは蹴るのをやめて、この部屋の真ん中にあるテーブルに移動するといつのまにか置いてあった四角い箱から丸い皿を取り出すと……

テーブルに並べ始める


身体が、うまく動かないが、歯を食いしばりながら立ち上がると、椅子に座る


「◯◯ちゃん?お祈りをして?」


準備を終えたお母さんの言葉に

「はい、お母さん……今日もご飯をありがとうございます」


「そうよ、お母さんがご飯の準備をしないと、アナタは生きていけないの」


お母さんが、私の頭に手を置き、ゆっくりと撫でる


「お母さんはね、アナタを外の世界から護ってるの

アナタを叩くのもアナタを護る為なの!」

頭を撫でる手に力が次第に篭ってくる


ああ……そろそろ身構えないと……口を軽く開ける


そして、私の顔を皿に押し付ける


固い感触や毛深いものが私の口元に刺さる


これが私に食事の取り方だ


力任せに押し付けられながら、皿にある何かを食べる


暗くてよく見えないが、それはとても柔らかく、噛むと弾力がありキツイ臭いがするモノもあれば、ぷりぷりして甘い物もあった


勢い余って、テーブルから倒れることもあったけど……だいぶ慣れてきた……



初めての食事は、食べることが出来ず、お母さんはたくさん私をぶって、何度もテーブルに頭をぶつけられた


そのおかげで、私はなんでも食べれるようになった


食事が終わった後は、食片で汚れた服を脱ぐとお母さんが桶にお湯を準備してくれる


「〇〇ちゃん、ごめんね……また、こんな怪我させて……でもね、これも全てアナタの為よ……」

お母さんが申し訳なさそうな声で謝りながら、濡れた布で、私の体を拭いてくれる


「お母さんは、私の為にしてくれている」

私がそう言うと……

背後から抱きしめられた

そこからは無言で……着替えが終わった後お母さんは部屋を出て行く


これが私の世界の1日



もう休もう……


起きて、食べて、寝る


それだけの世界……


目を閉じて、身体が沈む感覚


今日はあまりぶたれていないのに……


身体が疲れていたのか……意識が……沈む……


だけど……目がーー覚めればーー1日が始まる


いつもの1日が……



だけど、目が覚めると私は眩しい光に目を眩ませた


か細いランタンの光ではない!この光は……なに!?



そこは私の世界の外だった


「こちら00、たった今、情報提供にあったポイントに到着……情報提供通り……〇〇と思われる少女を発見……繰り返す、〇〇と思われる少女を発見……これより保護活動を開始する……」

私の名前……が繰り返される……

わからない……わからない!


私は体を起こし、近づいてくる男から逃げ出そうとしたが……


あまりにも強烈な色に……困惑して……そのまま意識を失ってしまった



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