ギニアオパブシロール
@tsubaki_iijima
*1
別に…髪をかきむしって全部抜いたところでいつかは生えてくる程度に「現在」は走り去っていくんだし、だったらツルツルハゲにでもなって女でもない男でもない、唯一無二のあたしになってみる?なんて考えたのはいいけれど「現在」なんてソンザイ絶対適当さがディザーブド、死ぬ選択だけはホップステップジャンプ、生きつぎしてみよう、生きつぎ、アレルギー!と歌う激しいボーカルの声を消して天を睨んだ。空は、死にたいと思うには広すぎて、高すぎる…。はあ、むかつく。無がついてくる。重力のせいで背中は芝生にぴったり。その下で蟻が何匹か死んで、さらに下のマントルの下で、餓えた子供たちが恋も知らずに死んでいった。制服にこびり付いた蟻の死体が、洗濯機の中でぐるぐるダンスして、渦の中に巻き込まれてそのまま足がもげる、とこを想像する。死は……歌舞伎町のクラブみたいなもん。愉快で、ダンサブルで、背水の陣と見せかけた廃水の沈。そして、なんといっても人気者の代表格、
アリキタリじゃない!
あたしは、人気者になるために死にたかった。生きてる人より、死んだ人の方がイケてるじゃん、なんとなく? だから、テレビにうつってる人は、死んだ人たちだと思っていた。あの枠は現世とあの世の境界線で、ざざっと現れるラインは三途の川。小学生のときにつかったあのビート板。あれがあれば泳いで渡れるのかな? 一、二、三、息継ぎ! 一、二、三、息継ぎ! ほら、息継ぎできても生き繼ぎできてないよ。生き、つげよ。私。親からもらった命、果てが来るまで使い切ってやるよ、とまーたはじまった音楽が耳の中を掃除した。あたしのくだらない考えを、掃除機のように吸って、あたしは今日も昨日よりバカになって、また死にたいとか言って、それがクールだと思っちゃっている。あたしたち、空だけあればどうにかなったのに。言葉なんて、ほんとはいらなかったんじゃないの? 言葉といえば、テレビにうつる言葉たちも、人間たちと同じ、死んでると思う。
つまり、何を思ってるかっていうと生きてることが足りないだけ。
死にたいとか言うとまだ人生終わったもんじゃない、いいことなんていくらでもあるよ、とかばかすか言って、そんなこと、きっと言ってるあいつらも思ってない。言葉の体重は軽いのに、意味のそれまで軽くなっちゃったらあたしたち別に人間でなくてもいいかもしれない。だから思ってないことを言わないで、それやめないんだったらあたしまじで死んじゃうよと大人に向かって歯を見せて笑っても誰も見向きもしない。先に生きてるんだから、通り越した思春期その脳みそにストックして、いまのあたしの気持ちもくみとって、お墓にかける水みたいに、あたしの体にかけてほしい。
あたしは、ただわかってもらいたいだけ。あたしの言葉の「まじ」の意味を。
軽量版は、勘弁の便便。
あたしの前には銀河が流れている。なのに、あたしの人生はどこから見たってゴミ箱のクズ。だから、だらだら愚図ってる場合じゃない。銀河の中に一生命体として、存分にここを楽しんでやりたいだけなのに、排水溝の髪の毛みたいに心がいろんな場所にひっかかって、薄っぺらい言葉とぎざぎざした悪意と見栄と自己満と、頭が悪そうなテレビと言葉の使用法に立ち上がれないほどもううんざり! 蟻をこれ以上殺したら地獄に落ちるのかな? よくわかんないものを対象に、ちょっと申し訳なくなる。心って忙しい。
よっこらせ。
背中を起こして、世界を見た。世界といっても近所の公園の、古臭い滑り台の前だけど。これを世界と呼べるのは、あたしが若いから?女だから?それとも私だから? これを他のひとが「世界」とあたしみたいに呼んだなら、その時こそ首でも吊ろう。あたし、じゃなくて、あたしたち。あたしたちの「たち」の部分は、アメリカにおいてきてしまって、それっきり。
「ワシ、結婚する相手とは八年間は付き合うんじゃ」
でもその間に死んじゃったらどうすんの? あんたとあたしが出会ってから六年と半分が経ったころだったよね。
あたしは、ついに立ち上がった。テロの爆風が散り疲れたような砂場を、足で踏んで、踏みまくって、適当な憤りと一緒に猫の待つ家へ帰った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます