第149話 イマジン
~織原朔真視点~
放課後、文化祭で2年A組は何をやるのかを決める。その前にクラスから実行委員を男女1名ずつ、合計2名を決めることとなった。鐘巻先生は言う。
「え~、一ノ瀬と音咲以外で決めるぞぉー」
「え~なんでぇ~!?」
「ど、どうして!?」
「何でか説明プリーズ!!」
一ノ瀬さんと音咲さんのどちらかが文化祭実行委員になれば、残る男子の席を奪い取ろうと男子生徒達はしていたのだろう。
「音咲は文化祭に参加しないし、一ノ瀬は生徒会で、すでに実行委員と同じことをやってるからな」
「え~!?かたりん、文化祭来ないの!?」
「そうなんだぁ……」
「マジか!?チケット売れないじゃん……」
「はぁ?よかったじゃん?あんたのあだ名、これから転売ヤーになるところだったよ?」
「転売ではないだろ!?」
鐘巻先生が再び生徒に投げ掛けた。
「え~ということで、誰もやりたくないならくじ引きで決めようと思うんだがどうする?」
男女共に誰も立候補者がいなく、結局くじ引きで決めることになった。音咲さんと一ノ瀬さんを除いた38人。38人中2人を決めるわけではない。男20名から1人を決める。音咲さんと一ノ瀬が抜けた女18名中の1人よりも、男の方が実行委員になる確率は低いと言える。
その筈なのだが……
「え~決まったな。くじ引きの結果、織原と松本にやってもらうこととなった。2人とも前に来てくれ。みんな拍手~」
パチパチと拍手が聞こえる中、僕は教壇の前へ松本さんと一緒に歩いた。
みんなが注目する。冷や汗をかく僕だが、以前のような発作は起きない。なんだか声も出せそうな気がする。
「バイトとかあって正直面倒臭いけどぉ……みんな宜しくぅ~」
松本さんが照れるように挨拶をした。横にいるのに松本さんの視線を何故か感じる。僕も声を出して挨拶しなければならないような流れだと思った。僕はモノの試しに声を変えて挨拶しようと思ったがしかし、声が上手く出ない。
「…ぅっ……」
僕は無言で礼をして切り抜けた。少し心配そうな顔で松本さんが僕を見た。松本さんは注目を僕から逸らすように場を取り仕切ってくれた。
「…じゃあ皆、クラスの出し物は何にする?オーソドックスなのは食べ物屋とか喫茶店?あとはお化け屋敷とか、それか演劇とかでも良いかもね。まぁ何かやりたいのがあれば皆、なんでも良いから言ってみてよ」
ハイ、ハーイと手を挙げるクラスメイト達。僕は声が上手く出なかったことに凹んでいたが、チョークを握り締め同級生達の意見を記録する役を選んだ。
「やっぱタピオカでしょ?」
「ハイ!たこやき!」
「パンケーキ」
「僕プリン!」
「絶対ケバブ!」
松本さんが言った。
「ケバブは確かに美味しいけどさ、文化祭向きじゃないっしょ?」
僕は黒板に縦書きで候補として挙げられた意見を箇条書きで書いた。
○タピオカ
○たこやき
○パンケーキ
○プリン
○ドネルケバブ
「ドネルケバブて!なんで正式名称で書くんだよ!!」
男子生徒が僕にツッコミを入れる。クラスが笑いに包まれた。
松本さんが他に意見はないか募る。
「チュロス!」
「メイドカフェ!」
「じゃあ男装カフェ!」
○チュロス
○メイドカフェ
○男装カフェ
「脱出ゲーム!」
「お化け屋敷!」
「プレイキングタウン!」
○脱出ゲーム
○お化け屋敷
○プレイキングタウン
「プレイキングタウンってなに?」
松本さんは挙手した男子に説明を求めた。
「よくぞ聞いてくれた松本さん!」
男子は意気揚々と説明し始めた。
「みんな自分以外の何かになりたいと思うんだよ。日々の圧力!疎外感に劣等感!このプレイキングタウンでは来てくれたお客さんに不良になってもらって、それを俺らが審査する。ほいで誰が一番不良だったかを決めるっていう企画だ!」
その男子は説明を続ける。僕は想像した。
◇ ◇ ◇
無機質な教室。床は冷たいコンクリートのような色で、窓も黒いカーテンに覆われてどことなく地下室のような雰囲気があった。
僕は参加者を待ち構えるように長テーブルを前にして座っている。そんな僕に向き合うような形で、また距離を十分離したところで、パイプイスが1つ置かれていた。
参加者の一ノ瀬さんが入ってくる。
「おせーぞ?いつまで待たせんだよ!?」
一ノ瀬さんはそう言って椅子にドカリと脚を開いて態度悪そうに座った。
僕は言う。
「え~、お名前をお願いします」
一ノ瀬さんは舌打ちをしてから口を開く。
「ちっ、一ノ瀬愛美だバカ。つかそこに書いてんじゃねぇのかよ?」
僕の手元にある紙を指摘する。すると、僕の横にいる松本さんが言った。
「おい、態度悪いぞお前」
「あん!?っるせぇよ!好きな奴に弁当作ってきそうな顔しやがって」
「は!?良いだろ別に!?良い女じゃねぇか!?お前はなんだ?親騙してゲームしてそうな顔じゃねぇか!?あ“ん!?」
「やんのかコラ!?」
2人は立ち上がって胸ぐらをつかみ合うのを
クラスの全員が止める。
◇ ◇ ◇
「うん、ボツで」
松本さんが提案した男子に言った。
「そ、そんな!?マナティやかたりんに罵倒されたいのは俺だけじゃない筈だ!!」
女子達がほこりをみるような目で提案した男子を見る。
「あ~その視線を浴びれただけでも俺はこの提案をして良かったと思える……」
色々な人がいる。僕はその視線に耐えられないのにこの人は喜んでいるのだから。
多数決の結果、お化け屋敷と脱出ゲームは0票だった為、それらは選択肢から消える。
「じゃあみんなの意見を統合すると、男子はメイド姿で女子は男装。プラスチックのコップの中に小さいたこ焼き型のパンケーキを作って、タコの代わりにタピオカ入れて、コップの内側側面に生クリーム塗りたくって、作ったたこ焼き型のパンケーキを入れて、その上にプリンを乗っけてチュロスをスプーンに見立てて食べるっていうのは?仕上げにチョコレートソースとか黒蜜とかかけても映えそうだし」
「なんだよそのキメラ!」
「誰も文句は言わないけどそれは……」
「でも美味しそう……」
「ケバブの要素は!?」
「……」
……クラスのみんなの意見を合わせた商品に決まりそうになると担任の鐘巻先生は言った。
「確かに面白そうな企画だが、発注とか色々大変じゃないか?タピオカ発注して、チュロスも発注して、たこ焼き器でパンケーキ焼く人もいるわけだろ?休憩とか分担するとなると面倒になりそうだぞ?」
「発注は茉優のパパに頼めばなんとかなるくない?」
「うん。大丈夫だと思う」
小坂茉優さんのあっさりとした返答に鐘巻先生は面食らう。
「そ、そうか……それにしても美味しいのか?それ」
「美味しさなんかどうでも良いですよ。見た目が可愛ければ」
うんうんと頷くクラスメイト達に鐘巻先生は言った。
「お、恐ろしい世代だな……音咲はこれで良いのか?」
今まで黙っていた音咲さんが口を開く。
「私は、皆が決めたものなら何でも良いですよ?皆、ごめんね」
「良いよ~!」
「大丈夫だよ!!」
「かたりんはお仕事頑張って!」
クラスの人にもゲリラLIVEのことについては言わないようだ。そういえば音咲さんはそのLIVEにお父さんである鏡三さんを呼ぶと言っていたが、本当に来るのだろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます