第35話 椎名町ってどこ?
~音咲華多莉視点~
「始まりましたぁ!椎名町ってどこ?司会のウィリアム×ウィリアムの沢村っです!!」
「はぁい、同じくウィリアム×ウィリアムの
タイトルコールが始まった。
雛壇にいる私達は決められた通り、パンしていくカメラに視線を送る。
「「「「いえぇぇぇぇぇい!!」」」」
ふみかはがに股で立ち、相撲取りがしそうな突っ張りをカメラに向かって放つ。
メンバー達の雑な紹介を終え、司会のお笑い芸人であるウィリアム×ウィリアムさん達が番組の冒頭をしめた。
お笑いコンビ『ウィリアム×ウィリアム』のボケの方、沢村さんが口を開く。
「三枝がやってくれたあの動きはですね、今回の企画に通じるものがあるんですよ」
椎名町45のメンバーがわざとらしく口元に手をやりながら驚く。
「今日の企画を、じゃあ三枝ちゃん皆に教えてあげて!!」
ウィリアム×ウィリアムのツッコミ、東海林さんがふみかに話をふった。ふみかは、はいと歯切れのよい返事をしてから言う。
「今日の企画は~……言葉じゃなくて身体で伝えてぇぇ?ジェスチャーゲームで~す!!」
スタジオのスタッフさん含めて全員が拍手をして盛り上げる。
「は~い!カットーー!!」
カメラが止まった。
私は雛壇からおりて、ディレクターの指示通り、控え室に戻った。衣装の制服から赤いジャージに着替える為だ。
ジャージに身を包んだ私はスタジオに戻らず、一旦トイレに入った。用を足さずに何気なく洗面台から水を出した。流水の音を聞きながら、私は鏡を覗き込む。
──こんなんじゃダメだ!収録に集中しないと!!
私の脳内は今日あった出来事を永遠に
エドヴァルド様のことだ。私と同じ学校にいる。
──それと……
織原朔真の背後から女子生徒が抱き付く記憶が過る。
排水口へと流れる水のようにあの記憶を洗い流したい。これまた意味もなく手を水で濡らし、ハンドタオルで吹いた。しかし女子生徒に抱き付かれて浮わついた表情をする織原のことをまたしても思い出してしまう。苛ついた私はトイレの扉をバタンと力強く閉めて廊下へ出た。
「ど、どうしたの?」
その音と私が勢いよくトイレから出てきたことによって驚いた椎名町45のリーダー
「ご、ごめんなさい!!ちょっと色々あって……」
希さんは俯きながら気まずそうに答える私の顔を覗くようにして見た。そして口を開く。
「もしかして、この前の登校中にやってた配信が原因?」
そんなこともあったなと、私は昔を懐かしむ。始業式の日、危うく軽トラックに轢かれそうになったことを思い出すと付随的に織原朔真に助けられたことを思い出す。何故だか顔が熱くなるのを感じる。私は慌てて言った。
「ち、違います!あれはもう大丈夫ですから!!」
私の慌てぶりに首を傾げる希さんは疑うような視線で私に言葉を投げ掛ける。
「……本当にぃ?」
希さんは現在21歳、私より4つも年が上だ。こうやって年下のメンバーにいつも気を遣って心配してくれる希さんは私の目標でもある人だ。
──この人のようになれればお父さんは私のことを認めてくれるのかな……
だからこそ、希さんに弱みなんて見せていられない。
「じゃ、あれだ!好きな人でもできた?」
意気込んだ私だが、あまりにも唐突な質問だった為に、口には何も入っていないが何かを吹き出した。
「ブッ!!…な、なんでそうなるんですか!?」
当然、椎名町45は恋愛禁止だ。
「だってすご~く顔赤いよ?轢かれそうになったのを助けてくれた人がいたんでしょ?それでその人のことを好きになっちゃったとか?」
流石はリーダー。メンバーに起きたことをよく把握している。ただ、これは間違っている。
「あんなヤツ好きになるわけないじゃないですか!!」
「あんなヤツ?ってことは知り合い?」
「ぁ……」
気まずくなった私に希さんは顔を近づけてきた。私は自分の顔を隠すように視線を逸らすが、私の両頬をがっちりと希さんは手で抑えた。
「ほらほら視線を逸らしてもダメだよぉ~華多莉ちゃんの顔には全部書いてあるんだから、お姉さんによく見せてぇ~」
そう言いながら希さんの整った顔が眼前に迫る。
「あぁ~照れた表情も可愛いねぇ~……」
希さんの荒い鼻息が私の頬を擽る。
「ちょっ!ち、近いです!!希さん!!」
「じゃあ何に悩んでたか白状しなさ~い」
「わ、わかりましたから!!離してください!!」
希さんは私の頬から手を離した。どこか満足そうな顔をしている
──たまに恐いくらい近付いてくるんだよな……
私は今悩んでいることを一から説明した。
「あの時助けてくれた人にはそりゃあ感謝してますけど……」
「それで?その人が気になってしょうがないって感じ?」
「ち、違いますって!」
「その人って何歳くらい?」
「私と同い年です……」
「な!!んだと……」
「しかも隣の席で……」
「おぅふっ!!」
私が一言発する度に、希さんは変なリアクションをとってくる。
「助けられた時、胸を触られて……」
「は?詳しく……」
希さんは一瞬恐い表情になったが、私は気にせず今まで起きたことを話す。
「──ていうことから、助けてくれた人はどうでもよくて、私が気にしてるのはこのVチューバーが私の学校にいるってことなんです!!」
私はエドヴァルド様の画像を見せながら言った。
「なるほどなるほど……つまり華多莉ちゃんを助けてくれた織原君にホテルの部屋を片付けてもらって、でも他の女の子とイチャイチャしてるところを見ちゃって華多莉ちゃんは嫉妬しちゃったって感じね」
「なんでそうなるんですか!!?私はこのVチューバーが──」
希さんは私の言葉を遮って言った。
「ムフフフ…誤魔化さなくても良いのに……」
いやらしい顔をしないがら希さんは私を見つめてくる。そして続けて言った。
「でも普通に考えると、そのVチューバーの正体ってその子なんじゃないの?」
私と希さんを取り巻く周囲の音が一瞬にして消える。希さんの言葉を受けてそんな感覚に陥った。
「え…?そんなわけ──」
「だってその廊下にいたのって織原君とその勘違い男だけだったんでしょ?」
「え…でも織原の声は……」
「声は?」
希さんは言いかけて詰まった私の言葉を待っていた。そして私の代わりに言った。
「ちゃんと声を聞いてないのね?」
「…はい……」
織原朔真がエドヴァルド様でないと完全に否定できない。
──もしそうだとしたら……いやいや!今は仕事に集中集中!!
私と希さんはスタジオに戻った。私は手首や足首をグルグル回しながら準備運動をする。
そして収録が再開する。
「まずは、斎藤音咲ペア!」
沢村さんが私達にインタビュー形式で話しかけた。
「自信のほどは?」
ジェスチャーを当てる役を務める希さんは答える。
「何を言ってるんですか?歳も出身も違うメンバーをまとめてるんですよ?言葉なんてなくとも全問正解できるに決まってるじゃないですか」
「実家のおふくろみたいなこと言うねぇ」
沢村さんの言葉に続いて東海林さんも口を開く。
「流石、のんちゃん!ではジェスチャーをするかたりんにも聞いてみましょうか?」
私は答えた。
「自信ありまくりです!」
おおっ!と他のメンバー含めて場が盛り上がる。私は続けて言った。
「ていうかこの前も学校でジェスチャーゲームみたいなことしましたし!」
「えぇ?それはどういう状況で?」
「授業中とか声を出して喋れないじゃないですか?だから身振り手振りで会話するんです!」
私はいつの日かの出来事、織原朔真のことを思い出す。暗闇の中、アイツが戸惑いながら私の謝罪を受け入れた瞬間が鮮明に甦る。
──あれ、思い出さないようにしてたのに……
「いや、授業は真面目に受けなさい!」
東海林さんが叱るようにしてつっこんできた。しかし沢村さんが私に質問する。
「え?スマホで会話すればいいんじゃない?」
私はギクリとした。織原の連絡先を知らない。そしてそれをここで言ったら変な空気になる気がしたのだ。
──連絡先を知らない相手とジェスチャーを交えて会話する=連絡先を聞けない関係?=男?好きな人?ま、ま、まずい……
私は何か上手い返しができないか考えたが、何も思い付かない。沈黙し目を回してるだけだ。おそらく今、私は顔を赤らめている。着ているジャージが赤くてよかった。
沈黙し俯く私に東海林さんは進行を続ける。
「…さぁ!今流行りの論破をされたところでゲームに移りたいと思います!!ちなみに、授業中はスマホやジェスチャーはしちゃいけません!!それではスタート!!」
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