第34話 チーム決め part2

織原朔真おりはらさくま視点~


 A~Tの枠に8pt以上の者達の名前が全て埋まった。


『それでは次に5pt~7ptの方達のルーレットを行います!このpt帯にいる出場者達の仕上がり具合で大会の順位が決まるといっても過言ではないでしょう!!』


 確かにそうだ。今から僕の実力が8pt以上の人達に追い付く筈などない。しかし彼等の足止めや時間稼ぎと多少のダメージを与えることは可能だと信じたい。後は自分のチームにいる8pt以上の人が止めを刺してくれる。


『それでは紹介します。俺と同じ『LIVER・A・LIVE』に所属する彷徨う亡霊!榊恭平さかききょうへい!!』


 榊さんのキービジュアルが写し出される。


『榊はアーペックスだけでなく色々なFPSの大会に出てて、新界さんとかルブタンさんとも交流あったりするから、個人的にはAとB以外に入ってほしいところ……』 


 田中さんは祈るようにしてルーレットを回した。


『うわ!Bチームじゃん!!』


 〉B強い

 〉Bつっよ!!

 〉優勝候補じゃね?

 

『榊とルブタンさんめっちゃ仲良いし、有利かも…回し直す?いや!これもルーレットの決めた運命!!このままいきます!!次も『LIVER・A・LIVE』に所属する詐欺師!神楽坂詩音かぐらざかしおん!!』


 神楽坂さんのキービジュアルが写し出される。


『詩音もよく大会に参加してるからあんまり交流なさげな人のチームに入ってほしいところなんだけど……』


 田中さんは祈るようにしてルーレットを回した。


『は!?Aチーム!?ヤバぃ……』


 〉AとBの2強

 〉流石シオン

 〉もってるな……


 田中さんは咳払いをして場を濁す。


『ぇ~それでは気を取り直して次の参加者!おそらく最近皆さんの目に止まるようになったんじゃないでしょうか!?この前も榊と詩音とコラボしておりましたエドヴァルド・ブレインさんです!!』


 妹の萌が描いたエドヴァルドの画像が田中さんの配信画面を占領する。神楽坂さん達とコラボした時もそうだったが、この時点で僕と僕の近くにいる萌は身震いした。


 背後にいる萌に僕は目を合わす。萌はしばらく画面に写し出されるエドヴァルドを眺めてから僕と目を合わせた。


「なんだか夢みたい……」


 萌の視線は熱を帯びており、それが僕にも伝わってきた。Vチューバーをやって来て1年とちょっと、自分達で造り上げてきたVチューバーが有名ライバーの配信に乗る。僕も胸に込み上げる何かを感じる。


 自分が一体どのチームに配属されるのかわからないが、どんなチームになっても全力を出すだけだ。


 〉鷲見が推してた人だ

 〉シロナガックスで知った

 〉最近よく見る

 

 視聴者の反応も上々だった。


『ルーレットスタート!』


 田中さんの快活な掛け声でルーレットが回る。高速で回るルーレットが減速し始め、僕の鼓動と同じリズムを刻んだ。そしてとうとう止まる。僕は呼吸をするのを忘れていた。


『C!Cチームに決まりました!ってことは、シロナガックスさんと同じチームですね!コメント欄にもありましたが実はエドヴァルドさんとシロナガックスさんは一度突発的なコラボをしてるんですよね!今回俺が招待状を送ったのはそれを見たからなんですよ!なんともまぁ、運命の巡り合わせ!これは本番が楽しみですね!!』


 こんなにも早くシロナガックスさんと再びコラボができるなんて思わなかった。すぐにSNSでシロナガックスさんに挨拶をしようと思ったが、この配信が終わるまで待とうと我慢した。まだもう一人が決まっていないのだから。


 続々とルーレットを回されチームの枠が埋まっていく。


『ヒンバス・キアラさんはPチームに決まりました!Pチームにいる元プロゲーマーのカミオさんとはおそらく面識がないと思われますが、一体どのようなチームになるかとても楽しみですね!次はぁ~、ギャンブル系Vチューバーの積飛漠つみとばくさんです!漠さんは俺と同じで──』


 知っているVチューバーやストリーマーの名前が飛び交う。自分がそんな人達と肩を並べてアーペックスをするのかと思うとワクワクして仕方がなかった。


 そしてとうとう3ptから4ptのメンバーの抽選が始まる。僕らのチームには一体どんな人が入るのだろうか。


『それでは3pt、もしくは4ptの方のルーレットを回します!先ずはこの人!ブルーナイツに所属する伊出野いでのエミル!!新人Vチューバーですね!エミールゥゥゥゥ!!』


 〉ま!?

 〉エミールゥゥゥゥゥ!!

 〉マジか!!

 〉ブルーナイツが箱以外でコラボすんの麻未まみさんと鷲見わしみぐらいだったから嬉しい 


 画面には淡いピンク色の花飾りを着けた銀髪の少女が写し出されていた。ブルーナイツは女性Vチューバーのみが所属している事務所だ。コメントにもあったが、ブルーナイツが事務所を越えて他事務所の人達や僕のような個人勢とコラボすることは珍しい。


 よくアイドル達の恋愛が禁止されているように、ファン達はアイドルに貞操を求める。しかしアイドルが売れる為にはバラエティ番組や音楽番組などに出演しなければならない。その際に男性の演者達と共演したり、スタッフやマネージャーに男性がいることも多い。その為ある程度男性と絡むのを許されているがしかし、ブルーナイツの場合は男性Vチューバーと絡むことは勿論、男性スタッフや男性を匂わせる発言はご法度とされている。しばしば女性Vチューバーに処女性を求めるファンのことを、穢れた者を決して背に乗せない架空の生き物であるユニコーンに例えられ、呼称されることもある。 


 ブルーナイツが大きな事務所になる前は事務所の垣根を越えてコラボ配信をよくしていたのだが、今ではそれもほぼなくなったと言っても良い。唯一、霧声麻未きりごえまみさんと鷲見カンナさん、後は1期生の来茉蘭くるまらんさんだけがその名残りを引き継ぎ、たまにコラボするのだが、その回数は減っている。


 僕の背後にいる萌は顎に手を当てながら言った。


「ブルーナイツの新人の7期生が大会に出てきたか…6期生の登録者数と投げ銭の伸び悩みが原因かな……同じ箱内でパイを奪い合ってるならば別の視聴者層を奪う作戦をとるか……」


 えげつない分析をする萌を尻目に田中さんの配信は続く。


『Bチーム!!Bに決まりました!!!Bチームは、ルブタンさん、榊、エミールに決まりました!ってことはラバラブとブルーナイツの久し振りのコラボが実現した!!』


 〉これはアツい!!

 〉炎上すんだろ!!

 〉ユニコーンが暴れる未来

 〉複雑な気持ち……


 視聴者のコメントは荒れた。賛否両論が巻き起こる。そんな興奮冷めやらぬ状態で田中さんは次の参加者を紹介した。


『え~次もブルーナイツ7期生!なにかと話題のこの人!!薙鬼流なきるひなみ!!!キルヒナちゃんです!!』


 〉え……

 〉ヤバくない?

 〉大丈夫か?

 〉絶対Aには来るなよ


 画面には、額に角が生え、赤い髪をサイドアップツインテールにした薙鬼流ひなみが、その赤い髪と同じく赤い瞳をこちらに向け、見つめている。


 視聴者の反応はやはり、現在進行形で燃えていることを気にしているようだ。完全ルーレットで決まるこのチーム分けにも既に炎上の危険性が孕んでいる。そこに更に悩みの種が推しと同じチームになってしまうとなると、ファン達は気が気でない。


 ルーレットが回り始める。回転の速度がピークになると次第に減速し、アルファベットの文字がよく見えるくらい減速した。

 

 Cに止まる。


『薙鬼流ひなみちゃんはCチームになりました!!これでCチームはシロナガックス、エドヴァルド・ブレイン、薙鬼流ひなみで決定しです!!』

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