AnD ~リジェネレーション~

夕日ゆうや

第1話 始まり。

 俺に敵対するように立ちはだかるハイソケット。

 それを狙う狙撃手スナイパー

 その銃口はハイソケットを狙っていた。

「やめろぉぉっぉぉぉぉぉぉぉおぉぉぉぉおぉっぉぉおっぉ――!」

 俺は大声で叫ぶが、銃弾は逃しはしない。

 獣に似た叫びが戦場に木霊する。



◇◆◇


「おはよう。ハイソケット」

「アック、おはよう」

 俺とハイソケットはにこやかに挨拶を交わす。

「今日はAnDの操縦訓練だったな。ハイソケットは凄腕だものな」

「そんなに褒めても何もでないよ?」

 結った金髪を揺らし、青いサファイヤのような瞳をこちらに向けるハイソケット。

 その無防備な胸元につい目が行く。

「やだ。アックのえっち……!」

 そう言って胸元を隠すハイソケット。

 こんな姿も可愛いと思えるのだ。

「ごめん……」

 素直に謝るが、ハイソケットは嬉しそうに目を細める。

「いいよ。意識しているみたいだし……」

 蠱惑こわく的に笑みを浮かべるハイソケット。

「さ。いこ?」

「ああ」

 ハイソケットの背を追いかけるように発着場に向かう。

 スペースコロニー《スカンダ》。

 軍事コロニーであり、多くの兵器を排出しているコロニーだ。

 スペースコロニーは筒状の構造物を回転させ、遠心力を疑似重力に見立てる。その内側で人々が暮らしている。

 俺やハイソケットも同じスペースコロニー《スカンダ》に住んでいる。

 その宇宙港では輸送艦MS-203Sダインが今か今かと待機していた。

「すみません。遅れました」

 俺はハイソケットと一緒にダインの格納庫ハンガーに飛びつく。

「遅いぞ!」

 熊野くまのがそう言うと、俺たちは各々のAnDにとりつく。

 人型ロボット、AnD

 もともとは宇宙環境に適応するための工業用の機械。

 今ではそのXクサンドラシステムと呼ばれる人知を超えた力と、動かしやすさから人型に作られているとされている。

 神経拡張デバイスによる人体の構造と似ている方が宇宙空間でも操作がしやすいと言われている。

神経接続ナーブ・コネクト開始。これより模擬戦を始める」

 俺はそう告げるとAnD-TR-083Sコニーに乗り込む。

「TTT01。アック=ヒンジー。コニー出撃する」

「IOT04。ハイソケット=マーク。いくよ!」

 エンジンを吹かし、ダインから分離する。

 デブリベルトにさしかかると、全六機のAnDは対面になる。

 大型のシールドにペイント弾のハンドガンを携行する俺の機体。

 一方でハイソケットはスナイパーライフルを携えている。もちろん弾丸はペイント弾だ。

 これは模擬戦であり、実戦ではないのだ。

「これより模擬戦を開始する。全機フルスロットル!」

「りょーかい」「あいよ」

 天城あまぎ船越ふなこしが声を上げる。

「いくぜ」「やるよー」

 小沢おざわあさひも元気よく返事を返す。

「恨みっこなしだよ」

 ハイソケットの声を聞き届けると通信をパーソナルへ移行する。

 天城と船越に俺は指示を出す。

「左右に散開、挟み込む。俺が援護する」

「りょーかい」「気に入らないな」

 舌打ちが聞こえ、指示を無視する船越。

「突貫するな! 船越」

「お前はいつもいつも偉そうなんだよ。オレが強いってこと、教えてやる!」

 敵AnDは二機で守りを固めて、センターにハイソケットがいる。

「ダメだぁあ!」

 俺はAnDを動かし、船越についていく。

「天城、後ろにつけ」

「りょーかい。ぼくは勝てればいいからね」

「んなもん、オレも一緒だ!」

「はいはい」

 俺が前に出ると、ハイソケットの狙撃を防ぐ。

 大型のシールドが緑の蛍光色に染まっていく。

 サブマシンガンを構えた二機の敵。その隙間から狙い撃つハイソケット。

 俺と天城で船越への射線上から逸らしている。

 こうしなくてはすぐに船越は落ちていただろう。

「く。なんだ。この力は……!」

 船越は焦りを見せ始める。

 狙撃手であるハイソケットの力を侮っていた証拠だ。

 敵機のAnDがサブマシンガンで連射してくる。

 その反動でシールドが持っていかれる。できあがった隙間から放たれる銃弾。

「被弾した!? 直撃!?」

 船越が大声を上げると、離脱する。

「天城、上から攻めろ。俺は下からいく」

「あいよ」

 狙撃の弱点は視野の狭さだ。動きを大きくしたり、僚機との距離を離せばいい。

 それで敵の目を散らす。

 敵AnDがその思惑に食いついたのか、天城に行く。

 上下に別れて、俺は上からハンドガンを撃ち放つ。

 下にいる天城を照準にいれていた敵機は呆気なく落ちていく。

 最後の一機になったハイソケットの機体は、天城を撃ち落とす。

 こちらにそのライフルを向けてくる。

 銃口から発射される弾丸をかわし、一気に肉迫する。

 が、

「やりー! わたしの勝ちぃ……!」

 ハイソケットの方が一枚上手だった。

 コクピットが緑の蛍光色で染まる俺の機体。

 かわし切れなかったか……。

 戦術パターンを読み解いても、仲間が発揮できなければ負けてしまうのだ。

 仲間の性格も意識した戦術戦を組まなければ。

 俺はデータを持ち帰り、輸送船にAnDを流していく。

「ミッション終了。みんなお疲れ様」

 担当の先生が落ち着いた声で言う。

 輸送船に帰ると、天城が船越に掴みかかっていた。

「おい。あのままアックの言うことを聞いていれば勝てていたんだぞ!」

「……ちっ。てめーの言うことなんざ、信じられるかよ」

「仲間を信じなくてどうする!?」

「うっせーよ」

 天城の手を振り払い、さっさと休憩室に向かう船越。

「待てよ。この野郎」

 天城がその後を追いかける。

「難ありだね。アック」

「ああ。そうだな。でも船越は強い。だからこそ、AnDのパイロットに選ばれたんだ」

 遺伝子の塩基配列パターンから俺たちはパイロットに選ばれた。

 世界の職業選択は遺伝子によって決まる世界だ。

 その反政府組織〝ロスト〟が世界を混乱たらしめている。

 ジーン・センチュリー2034年。

 俺たちの世界は安定してきていた。

 反乱の声も一旦の収束を迎えている。

 それでも俺たちのような軍人がいるのは、各国の間で敵勢が見えているからだ。

 国によっては非DNA職業を行っているため、異論を唱える者も多い。


 俺は休憩室に入ると、自販機でメロンソーダのペットボトルを購入し、口をつける。

「また飲んでいるね」

「ああ。俺はこれが好きなんだ」

「ふーん。わたしも飲んでみようかな?」

 ハイソケットは手をタッチしてジュースを購入する。

「ん。炭酸はあんまり得意じゃないよ」

「なら買うなよ」

「だってアックが飲んでいたじゃない」

「俺を言い訳にするな」

「いいじゃない。光栄に思いなさい」

 よくわからん奴だ。

 俺はそう思いながら再びメロンソーダに口をつけるのだった。

 そのまま、午後は座学を学び放課後になる。

 ちなみに座学は歴史を習った。

 AnDの歴史は古い。

 西暦が終わり、もう2000年も経っている。

 世界は変わっている。

 もう旧世代のような侵略戦争は起きない。

 全ての争いはテロリズムで片付けられている。

 AnDの配備によって世界は統治され、各国が睨みを効かせている。

 監視社会において、世界が争うとうバカな話はなかった。

 この時の俺は本気でそう信じていた。

「このあと、どうする?」

 ハイソケットが嬉しそうに俺を見つめてくる。

「帰りにコンビニでアイスでも買うか?」

 スペースコロニーでは温度管理はしっかりしている。年中22℃くらいに設定してある。

「いいね。いこ」

「ああ」

 俺とハイソケットは高校を出ると、近くのコンビニに寄る。

 タッチ決済でアイスを購入する。

 俺の小遣いは大抵、交際費で失っている。

 もっと金が欲しいがバイトはできない。すべて遺伝子で決まっているのだから。

 公務員でもある俺たちは小遣いをもらっているが、この国は経済難である。そう簡単にはいかないのだ。


 ☆


 Xクサンドラシステム。

 人の叡智を超えた力。

 その起動実験を一一七AnD高等部で行われようとしている。

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