39

沙紀が散々いじられた後、僕らは体育館に移動している。沙紀はさっきのことがショックすぎるのか、何をしても反応がない。


「沙紀、大丈夫?」

「うん、大丈夫」


大丈夫じゃない。とりあえず沙紀に関しては時間が解決してくれることを祈ろう。僕は先輩方と話をすることにした。


「みなさんはどんな楽器を弾けるんですか?」


僕の質問に彩華さんがまず答えてくれた。後ろ歩きの要領で僕の方を見てきた。


「私はドラムだよ~やっぱりカッコいいからね~」


(彩華さんがドラムか・・・想像ができない)


「あっ、その顔は信じてないな!後で度肝を抜いてあげるから覚悟してね?」

「は、はい」


プンプンと怒りながら言ってきた。


「私はキーボード。元々ピアノをやっていたこともあってね」


(凄い似合う)


凜さん+ピアノは反則だろう。


「明人,私もピアノが弾けるわよ?」

「おかえり沙紀」


沙紀が復活した。凜さんに対抗して、元に戻ったらしい。


「私はベース。どこぞの生徒会長から一年で完璧にしろと命令されたせいでやらざるを得なかった」

「酷いこと言わないでよ!?これ伝統だから!」


物凄く気だるそうに彩華さんを睨みながら言った。


「私はギターだよ~一番目立つし、カッコいいしね!」

「花蓮さんにピッタリですね」

「ありがとう!」


花蓮さんがギターは予想できた。目立ちたい人にはギターは最高級に似合うだろう。


「それでも一年しかやっていないから、あんまりうまくはないんだけどね~」


そういって自嘲気味に言う。一年しかと言ったけど、そんな簡単にできるものではないだろう。


「明人、生徒会には奇人変人天才しかいないのよ。普通っていう概念が通用するような人達ではないのよ」


沙紀が散々なことを言っていたが確かにそうだ。沙紀しか同級生では生徒会に入れていない時点で色々察せられる。


「沙紀ちゃんったら~ほめ過ぎだよ~」


彩華さんが頭を右手で軽く触りながら照れる。


「ま、来年は君たちが楽器をやるんだから、松学祭が終わったらすぐに演奏の勉強をした方がいいからね~マジで早くからやらないと間に合わないから」


最後の方だけ凄みが違った。おそらく何かあったんだろう。


「それよりも着いたわよ」

「う~やるのかあ・・・」

「ユッキー!やる気出してよ」


音楽室に着くと楽器が置いてあった。あらかじめこうなることが予想されていたんだろう。ギター、ベース、ドラム、キーボード。名前だけ知っているだけだったが、いざ近くで見てみると、カッコいいと思ってしまった。


そして、それらの楽器を用意して、先輩方が準備する。


「みんな準備はいい?」


コクリと頷く。


「後輩の前で下手くそなところは見せられないからね?」

「なんでプレッシャーをかけるのよ・・・」

「殺〇」

「ユッキーの緊張が限界突破した!?」


(緊張感が全くないなぁ)


僕は苦笑してしまう。


「ああもう!言い過ぎましたごめんなさい!じゃあ行くよ!」


彩華さんがドラムでリズムを取り始めた。


そして、それに合わせて由紀さんがベースで合わせて音を下支えする。


そこに花蓮さんのギターが加わって音の響きが大きくなる。


彩華さんがドラムでリズムを作り、由紀さんがそのリズムを加速させ、花蓮さんが音の響きを作り出す。


それが曲がなされていくと同時に、加速度的に勢いが増していく。三人で作り上げた曲が生きているかのように生命を持っているかのように蠢き出す。


「すげぇ・・・」


僕はそんな感想しか出てこない。


「ほら、テンポ上げるよ!」

「くっ、待てっての!」

「いいねぇ!!もっと行くよ!」

「ああ、もう陽キャ二人についていくのって本当にだるい!!!」


彩華さんと花蓮さんが曲を膨らます。


さらなるインスピレーションを聞いている方に促した。そして、由紀さんが暴走しすぎないように手綱を握った。


「ハア、やりすぎよ・・・」


そういえば三人に見惚れていたが、凜さんのことを忘れていた。


(あんまりキーボードって目立たたないのかな。どの音か分からないな)


「凜さんのキーボードは三人の空白に現れる。よく聞いていなさい」

「空白・・・?」


沙紀が意味深なことを言ってくる。僕は言われた通りに空白をきいてみようと思った。ギター、ベース、ドラムの意識の隙間。


すると、


「間がない・・・?」


三人が演奏していない箇所に音があるのだ。一瞬故に聞き逃してしまいがちだが、無音がないのだ。

この人たち以外のバンドなどほとんど聞いたことがない。


だけど、


「うますぎる」


表でギター、ドラム、ベースで音を支配しながら、裏でキーボードが表の音を引き立たせる。これ以上ないくらいに完璧なドラムだと思った。


そして、音が鳴りやんだ後に、僕と沙紀は自然に拍手をしてしまっていた。

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